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マーガレットの花のように  作者: 長岡更紗


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10/22

第10話 勝ったのは誰

 競技開始を知らせるファンファーレが鳴り響き、アナウンスが流れる。


「本日第十二レースは、障害物有りの上級者コース! 出場者はミハエル騎士団のロレンツォとアクセル、隊長同士の一騎打ちです!!」


 厩舎から騎乗して出てきたロレンツォとアクセルが、それぞれのゲートに入る。群衆はその姿を見て大盛り上がりだ。

 レリアはコインを握り締めたまま、祈るようにアクセルを見守った。

 スタートが近づくと、群衆は固唾を飲んで見守っている。馬券はロレンツォの方が売れているようだった。ファレンテイン一の速さを誇ると言われる騎士ロレンツォ。そちらに人気が流れるのは仕方ないと言えるだろう。


「サニちゃん、アクセル様、頑張って……」


 そう声に出した時、ゲートは開いた。その瞬間、再び群衆が沸き起こる。

 ほぼ同時に飛び出した二匹だったが、サニユリウスの方がほんの少し出遅れている。

 障害物は三つ。スピードが乗ってきたところで、先にロレンツォの馬が障害物を飛び越えた。続いてサニユリウスも危なげなく飛び越えて行く。

 一馬身ほどロレンツォの方が速い。次の障害物までにさらに引き離されそうだ。


「サニちゃん!!」


 レリアは思わず叫んだ。負けてほしくない。別れるのが嫌だと言う思いはもちろんある。しかし、アクセルとサニユリウスというコンビが、初めて組むであろうロレンツォとその馬になど、負けてほしくなかった。

 二番目の障害物を、やはりロレンツォの馬が先にジャンプする。先ほどより遅れてサニユリウスも飛ぶ。やはり追いつける様子はない。


「アクセル様っ!」


 アクセルの必死の形相が、遠目からでもわかる。サニユリウスはコーナーを曲がりきり、物凄い剣幕で向かってきている。ロレンツォもまた真剣に馬を操っていて、油断などこれっぽっちも見せてくれない。

 最終の障害物を前に、ロレンツォの馬が先に飛び越える。が。


「あっ!」


 馬と呼吸が合わなかったのか、少し引っ掛けたようだ。少し速度が落ち、すぐ後ろに迫っていたサニユリウスが軽やかに障害物を乗り越えると、彼を抜き去った。


「サニちゃん! アクセル様! 逃げてぇ!!」


 しかし後ろからグングンと迫るロレンツォとその馬に、嫌な汗を掻く。

 追いつかれてしまう。もう見ていられない。

 レリアが目を瞑ったその瞬間、勝敗は決まった。


「勝者! アクセル・サニユリウス組~~!!」


 そのアナウンスを聞いて、レリアはパチっと目を開ける。アクセルが手を上げて群衆に応えていた。

 どうやら、僅差ではあったが勝てたようだ。ほっと息を吐いて彼を見つめる。するとアクセルと目が合い、彼はいつものように嬉しそうに微笑んでいた。


「レリア殿。無礼を働いたことを、お詫び致します」


 ロレンツォは厩舎に戻って来ると、そう言って丁寧に頭を下げてくれた。何かまだ言いたそうな感じはあったが、負けたのは自分だからと飲み込んでくれたようだった。既婚者だとばらされなかっただけで、レリアには十分である。

 レリアは気になさらないで下さいと微笑みすら見せて返した。


「しかしロレンツォ、アルバンに何しに来ていたんだ?」

「いや、アルヴィンの奴が野菜の出来を見に来いとうるさくてな。ノルト村に里帰りしたついでに寄ってみただけだ」


 こうやって美形男子が話しているのを見ると、とても絵になる。しかも先ほどとは打って変わって仲の良さげな姿。微笑ましくってにやにやしてしまうのは仕方ない。


 ロレンツォと別れると、二人はアクセルの部屋向かった。そして紅茶を淹れてほっと一息つく。


「アクセル様、とても格好良かったですわ」

「ありがとう。障害物無しなら確実に負けていたな。コインを表と言ってくれたレリアに感謝だ」


 え? とレリアはアクセルを見た。近くにいたアクセルは、そのコインの表裏を見ていたのだろうか。

 そんなレリアの思いを察するように、アクセルは笑った。


「レリアには、俺の気持ちが通じるようだ。あの時、表と言ってくれと強く願った。本当は、裏が出ていただろう?」

「……ええ。怒らないのですか? 私、咄嗟に嘘をついてしまったというのに」

「俺はそんなにお綺麗な人間じゃない。レリアと別れたくはなかったからな。こういうこともするさ」


 意外だ。アクセルは小ずるい画策などしないと思っていた。確実性がないことなので、ずるいとも言えない、運任せなところが大きいのだが。

 レリア自身、障害物有りの方がアクセルに有利だと思っていたわけではない。ただ、ロレンツォの早駆けは有名だったので、普通に走っては難しいのかもしれないと感じただけだ。


「ロレンツォに、惚れたか?」


 唐突に問われ、レリアは首を傾げる。


「いいえ、ちっとも。どうしてそう思うんですの?」

「さっきロレンツォを見て、嬉しそうに微笑んでいたからな……少し気になった」

「え? ああ、お二人が仲良く話しておられたので、微笑ましくってつい」

「そう、か」


 アクセルはほっとして、そしてレリアを抱き寄せてくれた。彼の手が、レリアの頭に回される。


「アクセル様?」

「レリアだけは、ロレンツォに取られたくない。俺が好きになる女性は、皆ロレンツォを選ぶ」


 悔しさからなのか悲しさからなのか、レリアも取られるかもしれないという恐怖からなのか。彼は少し震えているようだった。レリアはそんなアクセルをゆっくりと包み込む。


「私は、アクセル様を選びます。信じてください」

「ありがとう、レリア」


 ロレンツォは、もちろん魅力的な人物だと思う。飄々としていて優しくて、馬の能力を引き出すのが上手い。女性の扱いも丁寧で、一緒にいて不快感などない。

 だけどレリアには。

 少し不器用で、すぐ熱くなって、どこか子どもっぽくて、すれたところなどないまっすぐなアクセルの方が、魅力を感じる。薄っぺらい上部だけの言葉など言ったりはしない。彼はいつも真剣で、常に本心をさらけ出してくれる。

 そんな風に生きられる人間は、そういないだろう。育ちのよさがそうさせるのだろうか。


「アクセル様、紅茶が冷めてしまいますわ」


 抱き締めたまま動こうとしないアクセルにそう伝えると、彼は少しだけ距離を取った。そしてレリアと顔を付き合わせると、そのままそっと口付けられる。

 軽く瞑った目を開くと、彼は少し照れ臭そうに「お茶にしよう」と笑っていた。

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ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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