4 潜入!地下トンネル②
「岸田から各所。これより国領出口より上り線線路に侵入します」
各々から了の返答がある。
拳銃を構えながら、線路に沿って歩いて行く。
保線作業員のお二方を同行してもらいながら。
このまま、布田駅まで先行。
そこで一旦停止し、長倉隊が下り線の捜索を行う。
坑内に明かりはあるが、十分では無いため片手に懐中電灯を構えている。
銃口と共に電灯を向ける。
ハリウッドでよく見るやつ、やってみると案外難しい。
即座に銃口を引く余裕がないかもしれないなどと考えつつ、布田駅まで到着。
「岸田から各所。布田駅着。道中異常無し。この場所にて待機します」
『長倉より各所。国領出口より下り線線路、捜索を開始』
了の返事を返しつつ、アリスに確認。
「各駅のカメラに異常は?」
『ありません』
「了解。引き続き頑張って」
『はい』
異常が有れば直ぐに警告をしてくるので確認する必要は無いのだが、そこはコミュニケーションだ。
「ユウ、そちらは?」
『変わりないでーす』
「了解。引き続き頑張って」
『ラジャでーす』
ユウのところに妖魔が現れるのだけは止めてほしいものだ。
彼女は対妖魔装備を積んでいない。
出現したらバッテリーが続く限り追跡を行うよう言いつけてはあるがその前に坑内で退治してしまいたい。
まぁ今日は不幸の副長がいないので大丈夫だろう。
それだけで少し好材料と言える。
長倉隊、布田駅に着。異常なし。
岸田隊、調布駅まで進行。異常なし。
長倉隊、調布駅に着。異常なし。
岸田隊、八王子方面上り線をトンネル出口まで。異常なし。
岸田隊、自律式ドローンを回収しつつ、下り線を調布駅へ。異常なし。
「残りは二つですね」
『ああ、それじゃ作戦通りに』
長倉隊は調布駅地下二階より橋本方面へ下り路線を、岸田隊は調布駅地下三階より橋本方面へ上り路線を、それぞれ同時進行する作戦。
ユウは念のため調布駅地下二階にて待機。
「岸田から各所。調布駅より上り線線路、橋本方面に侵入します」
『長倉より各所。調布駅より下り線線路、捜索を開始』
見落としが無ければ、これで発見できるはずだ。
慎重に、一歩一歩、歩を進めていく。
『長倉より各所。妖魔発見! 橋本方面に逃走。型は小鬼と推定。井下さん、気を付けて』
『応!』
待ちくたびれたであろう井下さんから気合の入った返答がある。
『井下さん! 落ち着いて!』
長倉さんの叫び声が響く。
そして、遠くトンネルの先から絶叫が聞こえる。
「ハハハハー! 死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね……」
笑い声と、死ねの連呼が、トンネル内に木霊する。
え、井下さん?
後ろで、保安路線員の二人が若干、いや、本気でドン引きしている。
ややあって。
『井下だ! 妖魔消滅! 蜂の巣にしてやったぜぇー!!』
イヤホン越しに嬉しそうな声が木霊する。
生声もトンネル内に反響しているが。
「アリス、様子、見てた?」
各員の映像を逐一モニタリングしていた彼女に確認。
『妖魔は消滅を確認しました。ですが、その、酷い戦いでした』
うーん、なんだろう。気になる。
「酷い部分だけ、転送してもらえる?」
『はい。今用意します』
送られてきた、井下さん視線の映像を確認。
トンネルの中から走りくる妖魔。
そして、乱れ飛ぶ銃弾。
トンネルの壁に当たり、淡いエーテルの光を撒き散らしながら消滅していく。
その数が、半端でない。
秒間四発、いや、もっと早いか? リロード、全発発射、リロード、全発発射、リロード、全発発射……。
トリガーハッピーと言うやつか。
既に銃弾に貫かれ妖魔が消滅した空間に向け、それでもまだ、銃弾を撃ち続けている。
うん、たしかに酷い。
『長倉だ。井下さんを確保して詰め所に戻る。国領駅の車を取って戻ってくれるか?』
「了解です。大丈夫ですか?」
未だ、井下さんの笑い声が響いている。
『時たまああなるんだ。一発ぶん殴れば正気に戻るだろう』
「そうすか。じゃ、お願いします」
扱い慣れているみたいなので任せてしまおう。
「妖魔の駆除は完了しました。ご協力ありがとうございました」
保線員に向き直り、敬礼をしながら礼を言う。
「お陰様で、明日も安全運行を行えそうです。それでは私どもは保線の続きがありますので」
彼らは引き続き、下り方面へ進み、俺はユウの待つ調布駅方面へ引き返した。
調布駅でユウを回収し、そして地上を徒歩で国領方面へ戻る。
空はまだ暗く、人の姿も無い。
静かな夜の散歩。
『ソージを独り占めしたら、ミンナが怒りまース』
ユウが嬉しそうに言う。
「たまには良いだろ。みんなわかってくれるさ」
ユウと二人っきり。
夜明け前のデートである。
◆
定刻通り出勤した遠藤課長に報告書を出しながら引き継ぎ。
「あー、わかった。長倉と岸田は午前の巡回は良いから仮眠でもとってろ」
「「了解です」」
「それとな、井下。電鉄さんから苦情が入った。あんまり市民の方々を怖がらせないようにな」
「うぅ……胃が痛い」
便利な内臓ですね。