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27 そして休暇が終わる

 あっと言う間に二週間の休暇が終わり、舞台は再び調布支部。


 エーテル障害?

 治った治った。だって妹達て言う煩悩から離れる何てある訳無いだろ?

 いや、煩悩じゃ無いな。本能だ。


 まあ、ちょっとした事件があるにはあったのだが、それはこの先どこかで語る機会が有るかも知れないし、無いかも知れない。

 え、何で?

 役に立たなくなった俺がウジウジしてる所と、変態の女装したおっさんをずっと見てても仕方ないだろ?

 そんな感じでプロットを捻じ曲げる力が働いたんです!


 ◆


 何か、久しぶりの詰所に少し緊張しながらドアを開ける。


「おはようございます」

「どうだい? リフレッシュ出来たかい?」


 詰所に居たのは夜勤の長倉さん。

 他の面々の姿はまだ無い。

 妹達に会いたくて一時間程早く出勤したからな。


「ええ。お陰ですっかり元通りです。こっちはどうでした?」

「何も起きなかったね。うん。実に平和だった」


 とても爽やかな顔で言う。


「このまま平和だと良いですね」

「全くだ」


 席に座り、アリスにコンタクト開始。

 今日も一日頑張りましょう。


 ◆


「うーす」

「おはようございます」

「お、帰って来たか」

「ご迷惑お掛けしました」


 暫くして井下さん。

 今日は顔色が良さそうだ。


 ◆


 無言で事務所のドアが開く。

 斎藤だ。

 こちらに気付き、視線が合う。

 軽く手を上げる。

 特に反応無し。

 いつも通り。


 ◆


「おはようさん」

「おはようございます」

「ちゃんと帰って来たか」

「ええ」

「ちゃんと休んでたのか?」

「ええ」

「……まあ良い。体調は?」

「バッチリです!」

「……だろうな」


 何か含みのある言い方である。

 休暇中に部下が大暴れした報告でもあったのかな?

 出来の悪い部下を持つと大変ですね。


 ◆


 副長は、遅番だから、これで全員か。

 さて、休暇中の事件は……0件!

 うん。平和です。

 そら、税金無駄遣いと怒られるわ。

 この前の大量発生で、一気に準備室から庁への格上げを狙う動きもあったみたいだけど、これじゃ尻すぼみだろうな。

 当直明けの長倉さんを送り出し、さて、平和な妹ライフを満喫しようかという所で、詰所のドアが盛大に開く。


「すいません! 遅くなりました!」


 後輩、河南である。

 あれ?


 ◆


 課長に遅延証明書を渡しながら遅刻理由を説明して、向かいに座る河南。

 何でここにいるの?

 本部に行ったんじゃ無いの?


「お帰りなさい。先輩」

「ん、ああ」

「何でそんな不思議な物を見るような顔してるんですか?

 休暇の間に私の顔、忘れました?」

「いや……」


 横目で課長を見る。

 目が合った課長が、視線で詰所のドアを示して煙草の箱を手に立ち上がる。


「そういや、土産忘れたなと思って」

「あー、そう言う気配り出来なそうですもんね」


 うるせ。

 課長が出たのを確認し、さり気なく続く。

 紫煙を燻らせる課長に問い掛ける。


「河南、どうしたんすか?」

「どうって?」

「本部の話」

「無くなった」

「え」

「この前の騒動でそもそも組織体系を見直す機運が高まって来てな。そんな中、お前も休暇の人手不足だ。流石に放り出す訳には行かないだろ」

「俺のせいすか」

「そう言う訳でも無いんだがな」

「しかし、残念」

「お前、せっかく一人前に育った部下を横取りされる上司の身にもなってみろ。

 あと、河南の耳には移動の話は入れてない。

 下手に口を滑らすなよ」

「完全に立ち消えですか?」

「さあな」


 そうか、暫くは今のまま騒がしいのか。


「下手な手の出し方するなよ?」

「しないすよ。それ、同性でもセクハラですよ」

「嫌な世の中だ」

「似合わない事言うからですよ」

「お前がちゃんと戻って来て嬉しいんだよ」


 反応に困る上司の評価。

 それを、給料に反映してくれるなら大歓迎なんだけどな。


 ◆


「どうでしたか? 休暇は? 何してたんですか?」

「箱根に行ってた」

「へー。あ、研修センターですか?」

「そう」

「良いなー」

「休めば良い」


 どうせ暇なんだし。


「なかなか友達と休みが合わないんですよね」

「それは、まあ仕方ない」

「楽しかったですか?」

「それなりに」

「何してたんですか?」

「前半は体力作り、後半は変態の相手」


 河南が、ハンドルを握りながらジト目でこちらを見る。


「何か、聞くのが怖いです」

「安心しろ。言わないから」


 言えないんだけどな。


「引越し先、決まったのか?」


 そう言えば、そんな事を言っていたのを思い出した。

 しかし、首を横に振る河南。


「まだなのか」

「吉祥寺、ダメって言うんです!」

「誰が?」

「親が!」

「何で?」


 吉祥寺に個人的な恨みでもあるのかな?

 きっとそうに違いない。


「あんな事があったから危ないって」

「へー」


 あんな事。

 アウトブレイクだろうな。

 世の中一般的にそう言う反応なんだろう。


「それを退治するのが私の仕事だって言っても納得してくれないんです!」

「大変だな」

「大変なんです!

 一緒に、説得して下さい!」

「はぁ?」

「安全性を証明して下さい」

「何で?」

「可愛い後輩の為に」

「吉祥寺の?」

「吉祥寺の」

「嫌だよ」

「何でですか!?」

「面倒くさい」

「な! さては先輩、嫉妬してますね? 私が吉祥寺っ子になるのに」

「してねーよ」


 意味わかんね。

 大体、男が一緒に説得に行ったら余計ややこしくなるだろ。


「じゃ手伝って下さいよ! このまま実家でのうのうとしてたらアッと言う間に行き遅れです」


 ……。


「それは、副長の事か?」

「……」

「とらこ、今の会話、学習パターンから削除」

『了解だニャン』

「何はともあれ! そろそろ一人立ちしたいんです」

「じゃ吉祥寺以外で探せば?」

「うー。例えばどこですか?」

「高尾?」

「山じゃないですか」

「聖蹟桜ヶ丘?」

「いやいや、帝王線から離れて下さいよ」

「じゃー、狛江?」

「そう言う事言ってるじゃ無いんですよ。もっとこう、女子力高いとこ無いんですか?」

「女子じゃねーし」

「とらこちゃん!」

『日野がオススメだニャ!』


 んな!

 河南がとらこに助けを求めた意味も分からなければ、そのとらこが迷いも無く日野を勧めた事も理解出来ない!


「ちょ、ま、とらこ、日野に何があるんだ?」

『トラックにゃーん!』

「トラック!?」

『とらこもいつか立派なトラックになるにゃ!』

「え?」


 何、その夢。


「頑張ってね! とらこちゃん!」


 いやいや。

 えー?


「えーっと、そしたら、二人で日野に住めば?」


 いいとこだよ。多分。


「自動車通勤は、無理です。夜勤明け絶対眠ります」

『とらこなら寝てても平気だにゃ!』

「そうなんだけど、それだとお巡りさんに捕まっちゃうの」


 まあ、それは怒られるよな。バレたら。


「オレんとか、どうだ?」

「……いきなりプロポーズとか、先輩の脳みそ、何か沸いてるんじゃ無いですか? それとも、二週間の間に何か一人で勝手に思い詰めて盛り上がってたりしちゃったんですか?」

「いやいやいや」


 とんだ誤解である。


「一人だと広いからいっそ貸しに出そうかと」

「……何ですか? そのつまらない返し」

「何か期待したのか?」

「いえいえ。変態さんのプロポーズなんか要らないです。要らないですんですけど、それでも、一瞬ドキっとした乙女の気持ちを返して下さい」

「家賃、安くしとくぞ?」

「さらっとスルー……いくらですか?」

「んー月12くらいかな。都内の3LDK。築年数は少したったてるけど格安じゃないか?」

「いやいやいや。単身ですから。都内って詐欺ですよ?」

「ちなみにシェアハウスとかは不可な」

「余計要らないです。それで先輩はどうするつもりですか?」

「んー、詰所で寝泊まりしようかな。

 あ、いいなそれ。お前が住むなら二万安くするから俺の荷物そのまま置かせておいてくれない?」

「んな、それじゃ私が先輩に毎月十万貢いでるみたいなもんじゃないですか!」

「敷金礼金は二カ月分でどうだ?」

「どうだ、じゃ無いですよ! バカじゃ無いですか? いや、バカです! バーカ」

「何が不満なんだ?」

「その条件のどこに満足感を与える要素があるんですか? 先輩の荷物置きっぱって、等身大のフィギュアとか置いてありそう。怖い!」

「いや、流石にまだそこまでは」

「ま・だ!? 未然形!?」


 いや、妹型の等身大ロボットは欲しいんだが、流石にテクノロジーの進歩が未だ不気味の谷を超えるまでに至っておらず……。妹愛で覆せる様な出来ではないのである。

 これが、ケータイショップに置かれたロボットを8時間観察し、脳内シミュレーションしながら得た現時点での結論。


『御守庁準備室より入電。

 布田8丁目付近にて妖魔の目撃情報。

 推定座標は別途ナビゲーターに送信します。

 一号車は現場へ急行してください』


 突然、しぃの愛くるしい声。


「先輩が帰ってきた途端、ですね」

「まあ、お給料の分はしっかり働こう」

「ハイ。とらこちゃん、ナビよろしく!」

『了解にゃ!』


 地域の平和は御守庁が守ります!

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