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24 騒動!妖魔大量発生③

 東京都武蔵野市、吉祥寺駅のほど近く、井の頭池上空に出現し、アウトブレイク、三年前欧州での出来事を予感させた日本において初めての妖魔大量発生事件。

 しかし、警察、消防、及び御守庁の活躍により、人的被害はゼロに抑えられた。

 特に御守庁においては、事件発生当初より現場に急行し、その妖魔発生を封じ込めることに成功した。

 これにより、妖魔のアウトブレイクにおいて初期対応が最重要であるとの仮説が証明された。

 初期の封じ込みに成功した要因は二つ。

 最初期に、一般兵装と異なる高火力装備を持つ要員が現場に二名いた事。

 発生現場を管轄とする、東京西支部第一分室伊藤華子課長、及び、東京西支部第二分室久方菜三係長である。

 特に久方係長に於いては事件発生直後の迅速は情報収集によって、管轄外にも関わらず現場に急行し大いにその力を振るった。

 もう一点は、御守庁技術開発局により作成された新兵装、スタングレネード弾の存在である。

 一般装備検討へ少数作成されたそのテスト用弾丸は、事件発生直後、多摩センターの技術開発局備品開発センター多摩分室より迅速に現場に届けられた。

 そして、遺憾なくその効果を発揮し、宙を舞う妖魔を尽く地面に撃墜してせしめた。

 なお、隣接する自然情報文化園内に於いても少数の妖魔発生が確認されているがこちらも一人の職員によって駆除されている。

 このように、御守庁によって妖魔の対処が進む中、警察、消防の各職員、及び地元消防団による現場周辺速やかな避難誘導が行われた事も決して軽んじてはならない。

 各位が、妖魔大量発生と言う大事件に際し、それぞれ最適な行動を行った事が、人的被害ゼロという素晴らしい結果を残すこととなったのである。


 ◆


 と、まあ、後日新聞に掲載された記事の抜粋にて事の顛末をお伝えした。

 ちなみに、まぁ、察しの通りかと思うが、好意的に書いてくれている記事を抜粋している。

 酷い記事は、ホント酷いものであった……。

 載せないけども。

 さて、では、前回の続きをどうぞ。


 ◆


 暑い……。

 目が覚めて最初に思った事。

 そして、全身から吹き出た汗が気持ち悪い。


 どこだ?

 ここは。


 目の前は見覚えのあるベージュの天井。

 ……とらこの中か。

 開け放たれた左の窓の外に、井之頭公園の動物園入り口が見える。

 運転席側、窓の外に寄りかかる誰かの後ろ姿。

 多分、菜三さんだ。


 どうしたんだ?

 俺は。


 河南に会った気がする。

 河南が、いて……。

 確か、赤目を……。

 そうだ、赤目。

 妖魔! アウトブレイク!


 事態を思い出し、慌てて体を起こす。

 助手席のドアを開け、とらこの外にでる。


「起きたか」


 その音に気付いた副長がこちらを振り返り言う。

 頭からタオルを被っていた。


「俺は……?」

「気絶していた。エーテル使い過ぎだろう。後部座席に食べ物がある」


 言われてとらこの後部座席を確認。

 コンビニの袋に、ペットボトルとおにぎり、ゼリー飲料が幾つか入っていた。

 取り敢えずゼリー飲料を手にして、とらこの反対側に回る。

 井下さんがとらこに寄りかかり地面に腰を下ろしていた。

 顔色が悪い。


「おう」

「大丈夫ですか?」

「お前よりはな」


 彼も、エーテル消費過多と見える。


「えっと、どうなったんですか?」


 副長に説明を求める。


「開発局の試作品のおかげで妖魔は大体駆除出来そうだ」


 副長の視線の先、先程まであった妖魔の蚊柱は無くなっていた。

 まだ、空を舞う数体の妖魔の姿は認められるが。


「試作品?」

「スタングレネード弾だとよ」


 答えたのは井下さん。

 この前のあれか。


「一発撃ってこのザマだ」


 彼が実験台にされた訳か。

 それにしてもよく試作品が届いたな。

 開発局もたまには頑張るもんだ。


「副長は?」

「バッシャンバッシャン池の水被りながら警棒振り回して、エーテル切れ」

「変な病気にならないと良いですね」

「本当だよ」


 うんざりした様な顔で言う。

 仄かに生臭いのはそのせいか。

 大丈夫。

 こんな事もあろうかと、とらこに消臭スプレー積んであります。

 後で、シュッシュしてあげます。

 て言うかそうしないと、とらこに乗せません。


「で、俺は何でここに居るんですか? と言うか、何でとらこがここに?」

「さあな。河南から連絡があって来てみたらお前が車の中で寝てた。

 どこのお姫様かと思って思いっ切り殴りたくなったのは言わないで置く」

「言ってる。言ってる。

 その河南は?」

「知らん。来た時は居なかった」

「ていうか何で河南が? とらこも河南が?」

「知らんつーの。あとで本人に聞け」

「……訳がわからないよ」

「ホント、訳がわかんねー事ばっかりだ。この先、どうなんのかね」


 井下さんが、うんざりした様に言った。


 結局、奥多摩地域を除く東京西の各分室そして、世田谷、杉並、中野、練馬からも応援が来て日本発の大量発生は、大した被害もないままその日の夕方前には収束が宣言された。


 調布支部の面々は、比較的元気な長倉さんと斎藤、事後処理が残る課長を残し終業前ではあるが解散となった。

 エーテル切れの職員など、猫の手以下。そういう事である。

 長倉さんにそれぞれの家まで車で送り届けてもらい、俺は夜まで泥の様に眠った。


 ◆


 夜中に、目が覚めた。


 妹に、正義の味方は妹をいじめちゃダメだと怒られた。妹は一人しか居ないのにおかしな話だなと、まどろみの中で思った。

 でも、悪い夢では無かった。


 今、何時だろう。

 携帯を探す。


 ……。


 アレ?

 携帯どうした?

 家の中、置いてそうな場所を探すが見当たらない。


 記憶を辿る。

 あー、詰所のロッカーの中かも。


 どうする?

 アレが無いと明日起きれ無いぞ。多分。

 菜三さんに起こしに来てもらうか?

 いや、携帯が無いからその菜三さんに連絡取れないんだって。

 由々しき事態だ。


 そして、腹が減った。

 店はやってる時間だろうか?

 不便この上無い。

 一度、詰所に行こう。

 携帯を取って、それからメシ。


 冷蔵庫から水を取り出し一口。

 顔を洗って出かける準備をする。

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