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22 騒動!妖魔大量発生

 平和だと言ったな。

 アレは嘘だ!

 いや、嘘だった、と言うのが正しい表現か……。


 巡回の車は吉祥寺通りを北上中。

 地図の上では三鷹市になるのだが、このへんは市境が入り組んでいるので多少は仕方ない。

 交差点で東八道路を左折して、調布市に戻るルートだ。

 と、フロントガラス越しに黒い影。


「妖魔だ!」


 俺達を追い抜き、上空を北上していった。


「何!? あ、本当だ」


 副長もハンドルを握りながらその姿を追う。


「どうします?」


 飛んでいった先は吉祥寺支部の管轄。

 とは言え、応援要請が来ることも有る得る……。


「ちょっと、様子を見ようか」


 そう言って副長は右にウインカーを出す。

 ひとまずコンビニに停車し、様子を伺うようだ。


 コンビニの駐車場に車を停め、念の為と、副長が店に断りを入れに行った。

 俺は、ひとまず情報収集。

 ……広域の情報ならまこ、なのだが、繋がらないな。

 次善はアリスか。


『はい。兄様』

「吉祥寺、情報入ってる?」

『入ってます。が、処理しきれてません』

「え?」

『警戒して下さい』

「あ、うん」

『情報の処理が終わったら連絡します』


 そう言ってアリスは通信を切った。

 うん?

 何が起きてるんだ?


 副長が戻って来る。

 手に買い物袋を下げているところを見ると、断りついでに何か仕入れてきたな。


「アイス、食べる?」

「うん。確認してたけどイマイチ状況が……」


 副長からアイスを受け取ろうとして、そして、絶句する。

 妖魔の飛んでいった先。

 北の方角の彼方に、蚊柱の様なものが現れていた。

 固まった俺の異変を察知し、副長も振り返る。


「何、あれ……」


 遠くに見える蚊柱。

 その全てが……妖魔?

 三年前、欧州で起きた、アウトブレイク。

 まさか、その再来とでも言うのか?


「アリス!」


 その判断が可能なのは彼女しかいない。


『はい』

「まさかアウトブレイクか?」

『断定できません。まだその規模ではありません』


 まだ……。

 あれ以上増えるのか?


「現時点の想定数、おおよそで良い」

『およそ500。アウトブレイクなら一時間後に四十倍になります』

「中断させてすまない。最善策を算出。ユウも飛ばせ」

『はい』


 野川の反省を踏まえ、ユウは必要な時に自力で屋外へ飛び立てるように設定した。

 今頃、アリスは帰国子女を叩き起こしているだろう。

 そして、その情報も入れて、最善策を演算してくれ。

 一刻も早く。


「行きましょう」

「そうね。また、アレを見ることになるなんて」

「今度は、一人じゃないよ」

「そうね」


 とは言ったものの、既に目の前の道路は渋滞が始まっていた。

 とても、とらこを動かせる状況では無さそうだ。

 となると、徒歩か……。

 遠くから緊急車両の音が聞こえる。

 アレが、御守庁に有れば……。

 アレが……。


「まこ! 返答しろ。最優先事項だ」

『はい』

「警察への応援要請は?」

『避難誘導の要請済みです』

「場所は?」

『井之頭公園近辺です』

「ありがとう」

『気をつけて下さい』


 井之頭公園か。

 丁度目の前の吉祥寺通りの先。


「菜三さん、ちょっと無茶する。装備持ってきて」

「え。何を?」


 俺は、説明の代わりに調布方面から吉祥寺通りを北上してくる白と黒の緊急車両を指差した。

 サイレンを鳴らしながら、渋滞の車を避けさせ我が物顔で道を進むパトカー。

 俺は大きく手を振りながら、車道に飛び出てその進路を塞ぐ。

 目的地が、同じであってくれ。

 志が、同じであってくれ。

 そう祈りながら。


 クラクションを鳴らしながら、それでもどかない俺の前でパトカーが止まる。

 運転席、助手席、両方のパワーウインドウが開く。


「邪魔だ! どけ」


 どいてなるものか。


「御守庁です! 行き先は井之頭公園ですか?」

「そうだ! わかってるなら邪魔するな!!」

「お願いです! 乗せて下さい」


 ボンネットに手を付き、深々と頭を下げる。


「ふざけるな。どけ」


 しかし、運転席からは当然の返答。


「お願いします!」


 引き下がる訳にはいかない。

 何ならボンネットにしがみついても良い。

 それで連れて行ってもらえるならば。


「わかった。乗れ。急げ」


 助手席から救いの声。


「良いんですか?」

「良い」


 車内のやり取りが耳に入る。


「助かります! 副長!」

「ありがとうございます!」


 一部始終を見ていた副長が後部座席のドアを開け乗り込む。

 それを確認し、俺も続く。


「ありがとうござます!」


 大声で礼を言いながら、ドアを閉める。


「気にするな」


 助手席の警官が前を見たまま言った。

 部外者を乗せたパトカーは、けたたましくサイレンを鳴らしながら、現場へ急行する。

 俺達に無い力。

 正義の為に、安全の為に、他者を押しのける力。

 今日ほど羨ましく思った事は無かった。


「何が起きてるんだ?」


 運転席の警官が問いかける。

 ミラー越しに目があう。


「妖魔が大量発生しています。詳しいことは、まだ、何もわかりません」


 正直にそう答えた。


「そうか。頑張ってくれ」


 短く、それだけ言って再び視線を前方へ転じた。


 連雀通りと交わる交差点ですでに交通規制が敷かれていれ、一般車両は通行禁止となっていた。

 それ抜け、進むパトカー。

 玉川上水を越えたところで、停車する。


「ここで良いか?」

「はい! ありがとうございました」

「気をつけてな」

「「はい」」


 目測で妖魔の柱は井の頭池の上辺りに出現している。

 走りながらそちらを目指す。


「久方です。はい。岸田と現着しています。はい。はい。以後は伊藤課長の指示に従います」


 副長が、調布の遠藤課長に連絡を入れている。

 で有るならば俺は。


『伊藤です』

「調布支部の岸田です。ご無沙汰しています。現着しました」

『早いわね』


 吉祥寺支部課長、伊藤いとう華子かこ。東堂の上司にあたる。

 セクシーボイスの持ち主である。

 俺の妹達にはない魅力。

 いや、そんな事妹の前では言わないけども。


「どちらに行けばよろしいですか?」

『自然文化園の分園。池の周りよ』


 示された分園の方を指差し、副長に伝える。

 そして、俺の視界の先を妖魔が横切る。


「動物園の方は、避難確認できてますか?」

『と思うけど、そこまでは手が回ってないかしら』

「妖魔が飛び込んで行きました。念の為見て回ります」

『了解。お願いするわ』


 一度通信を切り、副長に伝える。


「分園の方に来て欲しいそうです」

「了解。岸田は?」

「念の為、動物園の方を一回りしてから行きます」

「一人で大丈夫?」

「アレに比べれば」


 公園の木々の向こうには妖魔の柱が出来上がっていた。


「すぐに合流します。無茶しないで。菜三さん」

「総司もね」


 ◆


 井之頭公園。

 吉祥寺通りを挟み、東西二つに別れた公園。

 西には動物園と遊具があり休日であれは家族連れで賑わいを見せる。

 東には、井の頭池を含む緑地が広がっており、休日は老若男女を問わず安らぎを与えている。


 普段は、入り口で入場券を買われねばならない井の頭自然文化園の入り口。しかしすでに係員の姿は無く、無賃入場を咎められる事は無さそうだ。

 止まる事無く、入場口を走り抜ける。

 閑散とした公園が目に飛び込んで来る。

 やや警戒しながら奥へと走る。

 公園内を、通路に沿って反時計回り一周。

 そう、頭で計算する。

 その直後、向こうから走り来る二人組の姿を確認。

 立ち止まり、敬礼。

 警察官だった。


「ご苦労様です」

「ご苦労様」

「園内の避難は完了しましたか?」

「ああ。もう人は居ない。妖魔が来たから我々も退避する」

「了解です。そちらは引き受けます」

「任せる。園の中心付近に四、五匹いた」

「ありがとうございます」


 再び敬礼し、警察官と別れる。


「アリス」

『はい』

「向こう、菜三さんのフォローをしてくれ。こっちは大丈夫だろう」

『わかりました。兄様』

「頼んだ」


「ユウ」

『ハーイ!』

「あちらの映像を逐一アリスに。ただ、数が多そうだ。余り無理に近づくな」

『オーケーい。ソージもムリしちゃダメよー』

「ああ」


「しぃ、まこ」

『『はい!』』

「入電が多くなると思う。いつも以上に可愛い声でみんなを安心させてあげてくれ」

『わかった! 頑張ってね! お兄ちゃん!』

「うん! 頑張るよ!」

『無事をお祈りしてます。兄さん』

「ありがとう!」


「みこ」

『はい』

「最速で終わらせて、副長を助けに行くぞ」

『はい。サポートは任せて下さい。お兄様』

「信頼してる」


 走りながら妹達にそれぞれ声をかける。

 一刻も早くこのおかしな事態を収束させねばならない。

 それには、彼女達の力が不可欠。

 彼女達も立派な戦力だ。

 そして、そんな妹達の声が、俺を、何倍にも強くするのだ!!

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