うちは代々そういう家系
王城の地下には地上のきらびやかさとはかけはなれた、かび臭い地下牢が並んでいる。
そこは通常の裁判では裁けない闇へ葬られる囚人が収監されているのだ。
ある者は他国の政治犯、ある者は堕ちた英雄、だれか一人でも明るみに出れば国を揺るがす一大事件になる。
そんな地下牢に一人の少女が収監されていた。金色の美しい髪、切れ長の青い瞳には高い知性が宿り、このような牢獄にいてなお怯えを見せないその様には自尊心の高さがうかがえた。
収監された少女は本来こんな場所にいるはずではない。彼女は本来なら王子の婚約者だった。
あれほど愛の言葉を囁いてくれていたはずの王子は成人の日が近づくにつれ疎遠になっていった。少女と会う時間は減っていき、代わりに違う女性との噂話を聞くようになっていった。それでも自分は婚約者なのだと、王子に少しでも振り向いてもらおうと努力しているうちに、あらぬ疑いをかけられ気が付けばここに収監されていた。
少女が自分の短い半生を振り返り、口を開く。
「ガッデム」
どうも、元婚約者です。先月までは王城の舞踏会に参加してきらびやかな生活を送っていたはずなのに、気が付けば地の底で、ネズミがお友達です。ネズミかわいい。見分けがつかないので名前はまだない。
まぁねこんな事になるだろうと予想はしてましたよ。
なぜかって?うちは代々『悪役令嬢家系』だからです。
うちの家系はなぜか嫁入りする前にご破算になること多数。しかも何故かこっちが悪者になるオマケつきです。以前かわいい弟(何故か男は問題ない)に訊いてみると「なんか恋愛するにはいいんだけど、一緒に暮らすってなるとちょっと考えちゃうタイプだよね」と言われました。回答が生々しくて涙が出ました。
この呪いともいうべき遺伝はうちの一族なら全員知っています。だから、私が王子に見初められて婚約者の話が出た時から英才教育がほどこされました。つまり、一人で生きていくための技術です。どちらかといえば結婚できるように努力したかったのですが、「それは何度も失敗してる」と血の涙を流しながら言われたので仕方ありません。
まず、王族からいらぬ恨みを買わないように礼儀作法とこの国の法律を勉強しました。
次に、国外追放されても大丈夫なように護身術と他国の言葉。
その他、何があっても困らないように知識と身体能力を詰め込めるだけ詰め込まれました。
そして、現在ここです。修道院でも国外追放でもなく、地下牢に収監されるとは。
自分の予想から大きく外れた未来にため息が出る。
「まさかこんな楽な場所だなんて」
食事は勝手に出る。私物も一部認められている。寒くない。礼儀作法に厳しい人もいない。
私の苦しい修行時代を返せと言いたい。
しかもだ、
「叔母さーん!おなか減ったぁ!」
牢獄中に響く大きな声で呼びかけると、遠くで檻を叩く音がする。
はっはっは、怒ってる、怒ってる。
はい、看守は身内です。うちの家系が代々地下牢の管理やってます。ほぼ実家に里帰り状態です。
鍵開けも練習させられたので、この牢の鍵なら自力で開けてご飯とりに行くこともできそうですけど。
まぁ持ってきてくれるのにわざわざ自分で動く必要もありませんね。
最近隣の牢屋のオッチャンから牢名主と呼ばれています。解せぬ。




