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エピローグ〜死んじゃうんだって




12時ジャスト。



俺はこれから死ぬ。



さようなら。そして、ありがとう。



「待ちなさい!」



ミントがかざした手を止める。


誰…だ? 俺は訳も分からず時計を見た。



一秒、二秒…と、タイムリミットが過ぎていく。



な、なんだ? なんで俺は生きているんだ。



「ーー神様!? なぜ、ここに?」



神様…と呼ばれたジイさんは、白く長いヒゲを生やし、髪の毛はない。純白の布を身に纏い、眩しい程の光を放っている。



同じ空間にいるだけで、この緊張感。ただ者ではないことが伺える。



「その青年は、生きるべきじゃ」


………え?

何だと?


俺は…生きていて良いのか?


死ななくて良いのか!?



「神様!? 何を!?」


ミントが慌てて聞き直す。


「なりません! いくら神様の命令だろうと、光一くんは、今から私がーー」


「私の命令が聞けぬか!」


神様はミントに手を向ける。手から肉眼では確認できない『何か』が放たれ、それを浴びたミントは、壁に飛ばされる。


「青年よ、生きるがいい」


そして、次は手を俺に向ける。


そこから放たれたのは、衝撃波などではなく、優しく…温かい光だった。


「……させない…!」


その光を、立ち上がったミントが遮る。


「この光、生きている者が浴びると、ただでは済まないぞ?」


「構わない…光一くんは…死ぬんです!」


俺は寒気を感じた。


今まで感謝していたミントが…良い奴だと思っていたミントが、必死に俺を殺そうとしている。


なんでだよ、ミント…。


俺、生きられるんだろ?


だったら、良いじゃんよ…。


生きたいよ。


死にたくないよ。



「り…理由は? 光一が生きられる理由…なぜ、運命が変わったのですか!」


ミントは、なおも光を浴びている。その表情はかなり辛そうだ。


「運命を変えたのは、青年、お主じゃ」


「……俺?」


「お主は、この一週間の内、死ぬはずだった人間を何千人と救った。スターサイドの客、それに最大の原因はーー」


「競輪で当たった金を………寄付した…」


「そうじゃ。それにより、死ぬはずの魂は黄泉に来なくなった。よって、青年は生かす事に決めた」


…やった。


やった、やった!


やったぁ!


俺は叫びたい程嬉しくなった。


生きていて良い…。


神様直々に、そう言っていただいたのだ!


やったぁ…やったぁ!!



「駄目です!!」


それでも、ミントは認めない。


はぁ? 何こいつ?


そんなに俺を殺したいわけ?


「なりません……光一くんは死ぬんです…! 神様がそう言うなら……私が今、光一くんを殺します!!」


ミントは俺の方に振り返る。


光を浴びたミントは苦痛の表情を浮かべ、俺に近づいてくる。



「やだ…やだ…死にたくない……やだ…神様…助けて…」


俺は逃げる。ミントは敵だ。やっぱり死神なんか信用しちゃいけなかったんだ。


神様は人間の味方だ。


俺は神様の方へ逃げた…。


「きゃあ…! ぐっ……ぐうぅぅ…。痛い…体が溶ける……でも、光一く…ん………を殺…さな……きゃ…」


いやだ…いやだ…いやだ…


俺は死にたくない。


やだ、やだ…やだやだやだやだ!


「神様! あの死神を殺してくれぇ!」


「残念じゃが、死神は死なないんだ。よって、黄泉への強制帰還じゃ」


そういって、神様は光を強めた。


「きゃああぁあぁあ!」


ミント…いや、『裏切り者』はその光を浴びて、蒸発した。



「…た、助かった。神様…俺は本当に…」


「私が認めた事だ。これからの人生に励むがよい」


そう言って、神様は消えた。


暗い一室に、俺一人だけが残される。まるで、長い夢を見ていたかのように。


でも、今、全てが終わった…。




目が覚める。目に映るのは、いつもの俺の部屋の天井だった。


生きている…確かな実感。


そうだよ、俺、生きていて良いんだ!


父さん、母さん! 俺、生きているよ!


喜びを抑えられない俺は部屋を飛び出した。向かった先は、もちろん隣の部屋。


父さんと母さんに、伝えたかった。


呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばすと、それより先にドアが開いた。


慌ただしい様子の母さんが出てくる。


「母様、俺…」


「どきなさい! 私は急いでいるの! あぁ、もう…なんで日本に帰ってきちゃったのかしら!」


……え? かぁ…さん?


その隣のドアが、勢い良く開く。父さんだ。同じく慌ただしい表情…。


「父さん、俺、生きて…」


「私に話しかけるな! 周りに見られたらどうするつもりだ!? それに、敬語を使えと言っただろう!」


…父さ…

な、何言って……。



いいや、落ち着くんだ、俺。


そうだよ、俺と父さんが一緒にいるのが見られたら、やばいに決まってるじゃないか。


俺は俺なりの人生を…そう、学校だ! 友達が待ってる。葉月が、達也が、皆が待ってるんだ!


そうと決まるが早いが、俺は学校に走って行った。


「おはよう、皆!」


教室のドアを開け、クラス全員の奴らに挨拶をする。


「…………」


友達からの返答はない。


ふと、達也の姿が目に入った。そうだ、達也は退院できたんだ。学校に来れる程回復したのか。


「達也、おはーー」


「何しにきたんだよ」


「ーーーえ?」


「お前が居なければ俺は刺されずにすんだんだ」

「そうだよ! 達也が可哀相だ!」

「達也は偉いよな。まさか光一なんかの為に身体はってさ」


クラス全体から、俺に向けて罵声が飛び交う。


ま、待ってくれよ。なんだよ、これ…。


「おかげでテスト受けられなくてさ、お前のせいだよ」


達也が睨んでくる。



俺は何も言えなくなり、おとなしく席に座った。


隣の席には、葉月がいる。


「葉月、おはよう」


「……………」


「葉月?」


「ちょっとあんた! 葉月に気安く声かけてんじゃないわよ!」


葉月の後ろに、友達らしき人物が四人、立っている。


「あんた、葉月の事レイプしたんだって?」


「はぁ!? ちょっ……えぇ!?」


「ゴムも付けずにさ! これで葉月が妊娠したら、どう責任とるつもり!?」


ちょっと…待てって…!

何だよ…皆して…。



葉月…達也…説明してくれよ…。


何が…どうなってるんだよ…!




「片瀬光一くん、片瀬光一くん、至急職員室まで」


未だ頭の中が整理できない俺に、突然呼び出しの校内放送。


教室にいては、クラスメートの視線が痛いので、すぐに職員室に向かった。


中に入ると、これまた重苦しい空気だった。おそらく、さっきの放送は担任の声だった。ざっと見回して、担任を発見したので、そちらに向かう。


「先生、呼びましたか?」


「これを説明しなさい!」


…………?


先生はいきなり、新聞を叩きつけてきた。

記事の内容…それは、スターサイドの例の一件。


俺は褒められに来たのか?


いや、違う。どうも先生方は、俺を怒鳴り散らしたい様子だ。


「これが、何か?」


まだ事態を飲み込めない俺に、先生はムッとした表情を浮かべ、記事の一文を指差してきた。


そこには、こう書かれていた。


ーー先日、スターサイドの突然の爆発の一件だが、爆発の原因はレストランからではなく、故意的犯行者がいることが判明した。

犯人はいまだ捕まらないが、事件が起こる約30分前に、ある高校生が忠告をしている事から、グループの関係者ではないかとの疑い。

警察はなおも捜査を続行しているーー



「……はい?」


「なぜ、お前は事件が起こるのを知っていたんだ? 犯人を知っているのか?」


「ちょっ…待って下さいよ!」



夢で見たから…なんて、言えるはずがない。


どうやら、俺は疑われているようだ。


「我が校のイメージががた落ちだ!」


「待って下さい。もし俺が犯人のグループだとするなら、わざわざ危険を犯してまで皆を助けに行くわけ…」


「それは署の方で聞かせてもらうよ。…詳しくな」


肩に手を置かれ、振り返ってみると警察が二人。

俺は連行されてしまった…。



事情調査を行われ、なんとか俺の白が認められた。

だが、急にどうしたっていうんだ?


世界が、歪み始めている…。



警察署から開放され、俺は真っ直ぐ自宅へ帰る事にした。



おかしい…。


葉月も、達也も…。


明らかに今日、何かが変わった。



もはやこうなれば、原因はミント以外考えられない。


くそ…! アイツ、俺を不幸のどん底に道連れしやがったな!


許さねぇ…ちくしょう…ちくしょう!



部屋に入り、行き場のない怒りを拳に込め、壁に叩きつけた。


何の解決にもなってねぇ…。手が痛んだだけだ…。



「光一様…でいらっしゃいますか?」


ふと、部屋の中から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「だっ、誰だあんた! 不法侵入ーー」


「ミントから手紙を預かってきました。どうぞ」


ミントの存在を知っている…? こいつ、死神業者か?


「ミントは…? あの野郎どこ行った!」


「ミントは神様に逆らった罪により、一生奴隷まで降格になりました。それより、手紙です。本来、これは禁じられていますが、ミントがどうしてもと言うので、特別に許可がおりたものです」



俺は手紙を受け取り、封を解いた。


ーー光一くん。私はあなたに重要な事を言っていませんでした。しかし、これを先に言ってはいけない決まりなので、今更ながら言わせて下さい。

私の能力は、あなたの運を一時的に急上昇させますが、実はこれにはある仕組みがあります。

それは、光一くんの未来の分の運を前借りという形で縮小させたものなのです。


それが、この一週間で起こった全て。つまり、光一くんはこれから何をやっても…どんなジャンルでも、運を使い果たしてしまっているので、全て失敗に終わります。

それだけではありません。今まで仲の良かった人、この場合は葉月さんと達也さんにあたりますが、この一週間とまるで逆の態度をとられてしまいます。


私が必死に光一くんを殺そうとした理由がそれです。

あなたには、生まれ変わって、新しい人生を歩んで欲しかった。

もう二度と会えないでしょう。

それではーーミントより




「……な!?」


「ご理解いただけましたか? では、私はこれで」



「待ってくれ!」


放心状態の俺をよそに、そいつは消えてしまった。



な、何をやってしまったんだ…俺は………。



ーーーーーーー




俺は今、住んでいるこの町の中でも、間違いなく五本指に入る高さのビルの屋上で風を浴びている。


こっちの心境なんかお構いなしに吹く心地良い風が、無造作にセットされた長い黒髪を靡かせた。



そこで俺は目を閉じてみる。




今までの18年間の出来事が、嘘のようにポッカリと忘れ去ってしまっている。



ーー否、ここ一週間の出来事だけが、頭の中から離れない。



俺は向かう。フェンスの向こう側へ。

もちろんその先の地面など、遥か下の方である。


間違いなく即死できる高さだ。



下を見ると、人間が豆粒のように小さく見えた。

不思議と恐怖は感じられなかった。



「さて…」


俺は一度大きく息を吸い、そして吐いた。


準備完了。いつでも逝ける。



そう、一週間前はここでミントに出会った。


でも、ミントは今………。




ふいに背後から、声が聞こえた気がした。




「ーー死んじゃえよ」

これで完結です。バットエンドになりましたが、いかがでしたでしょうか? もしやエピローグは蛇足? 今後の参考にさせていただきますので、よろしければ感想お願いします。 最後までお付き合いしてくれて、ありがとうございました!

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