六日目〜健康運上昇中!
次回が最終話となります。エピローグも同時に載せる予定ですので、もうしばらくお付き合い下さい!
頼む! この状況を逆転できる能力…来やがれー!
「六日目…健康運上昇ですー!」
健康運!? なんだ、それは?
「光一くんに隠れた潜在身体能力が上昇しますー!」
何だ、この感覚は…。
体中に力が漲るような…そんな感じ。グッと力を入れると、腕の血管がビクビクと脈打つのが分かる。
って事は…
「うおおおぉ!」
動く! 上に乗った重りが動くぞ!!
もう少し…もう少しだぁぁ!
「だあぁらぁあぁぁあ!」
「力持ちですー!」
ど…どうだ。見たか、この野郎…。
へへ、ざまあみろ。退かしてやったぜ…救ってやったぜ!
「店員さん、もう大丈夫ですよ!」
「はぁはぁ…はい」
くそ、暗くて何も見えん。
頭と足の血を止めたいが、何も見えないんじゃ話にならん。
馬鹿でかい瓦礫から下敷きを回避できたものの、まだ周りは瓦礫に囲まれているし、小さい瓦礫が崩れてくる。
上手い具合に上の方で引っ掛かってくれて、俺達は横に寝られるだけのスペースは確保した。
ただ、それだけ。
そこ以外は身動きできない。
やはり、このまま救助を待つしかない。
「大丈夫です。きっと助かりますからね」
「あ…。ありがとう……ございます」
「辛いなら喋らないでも結構ですよ?」
「いえ…大丈夫です。暗くて…恐くて……お話…しましょう?」
不安なのだろう。俺だってこんな状況だったら不安で仕方ないはずだ。
ただ、今の俺はずるいのだ。こうなる事を事前に知っていたし、何より、死なない。これが大きい。
死なないというハンディキャップ。これによって何でもできる。
もし生身の俺だったら。
死ぬかもしれない俺だったら、そもそもこんな所にいない。
関わらないように、いち早くその場から遠退いただろう。
爆発が起きたのが5時くらい。そこから気を失って、日付けが変わって、ミントの能力を使えた。
それからさらに一時間は経ったはずだ。
深夜になっても救助は続行してくれているのか?
もう既に、閉じ込められてから約八時間が経過しようとしている。
救助、遅くないか?
なぜ、周りから音が聞こえないんだ?
この店員は一刻を争う程の怪我かもしれないんだぞ?
大丈夫なのか、俺達?
「…私達、助かります……よね?」
店員の声に、体がビクッと反応した。おそらく、今不安だったからなのだろう。
「はい、助かりますよ」
「お名前を…教えてくれませんか?」
「光一って言います。あなたは?」
「美里です」
「いい名前ですね」
「光一さんこそ。他人の私なんかの為に……体を張ってくれて……」
「いえいえ、そんな事ないですよ。それに、俺は後二日で……」
おっと、これは言わない方がいいよな。
「え? 後二日で…何なんです?」
「いや……その…この土地を引っ越しますし」
「……そうなんですか」
上手くごまかせた。最近はアドリブが効くようになったもんだな。
この後も、美里さんと色々な事を話した。
普段はどういう生活をしているか。好きな食べ物は何か。好きな異性のタイプ。とにかくつまらない事でも、何か話していないと不安だろうと思い、話題を振った。
美里さんとは話が合わない点もたくさんあった。
俺の事を話す度に驚かれる。
高校生なのに、欲がない。
それは自身にも充分に分かっている事である。ミントにしろ、葉月にしろ、俺の部屋を見た最初の発言がそれだった。
そういえば…葉月は今なにやってるんだろうなぁ…。
「光一さん! 朝…朝ですよ!」
「え!?」
美里さんとの会話は、不安だけでなく、時間までも取り除いてくれたみたいだ。
話している内に、気付けば朝日が昇る時間になっているではないか。
瓦礫の隙間から差し込む光が、とても眩しく感じる。
「早く! 早く着てちょうだいよ!」
「子供が…高校生くらいの子が残ってるかもしれないの!」
「まだ美里の行方が分からないの! 絶対この中にいるんだから!」
「分かりましたよ。今から作業を再開しますので、離れて下さい」
今の声…聞こえたぞ。微かだが…確かに聞こえた。
きっと、四階のフロアにいた婦人達だ。こんな朝っぱら来てくれたのか。
「美里さん、聞こえましたか?」
「…もちろん。さっき私の事を心配してくれてた人の声は……早紀…ありがと…」
美里さんは既に泣いてしまっている。安心したのか、嬉しかったのか…どっちでも良いか。
後は俺達の場所をアピールできれば良いんだが…
どうやらクレーン機が動き出したようで、その音に俺の声は掻き消されるだろう。
美里さんの怪我が心配だから、大声を出させたくはない。
やはり、じっとしているしかないのか…。
救助が始まり、約二時間。
無事に俺達は発見された。
美里さんは急いで救急車に運ばれて行った。
俺はたいした怪我はしていないが、念のためと言う事で救急車に乗せられ病院へ運ばれた。
美里さんは急患なので、違う病院に運ばれるらしく、別々の救急車に乗った。
俺が担架で運ばれる時、朝から来てくれていたのであろう婦人達が集まってきた。
「ありがとね、君のおかげで、ほら。この通り怪我一つないわ」
「本当は昨日の夜のうちに助けてあげたかったんだけどね、救助隊の人達が夜が明けてからって…」
「大丈夫ですよ。僕もたいした怪我はないですし」
「あらそう。よかったわぁー」
と、言うよりも…傷口が既に治りかけていた。
美里さんを庇う時に擦りむいたはずなのに…膝には出血の跡まであるのに…。
血は乾き、傷口が塞がれていた。これもミントの能力…か。
病院に運ばれた俺は検査を受けたが、当然の事ながら異常なし。
医者も不思議がっていた。
ようやく開放された俺を待っていたのは、報道陣だった。
病院の前だと言うのに輪を作り、俺を囲う。
やべ…有名人の気分なんですけど。
「怪我はないですか?」
「どんな気分でした?」
「レストランのオーナーが高校生が予言したと言ってましたが?」
迫りくる質問の嵐。決して気分は良くないが、案外悪いものでもない。
適当に質問に答え、もうそろそろ満足しただろうと思われる所で抜け出した。
時間は午後になったばかりか…。
あー…今日はテスト二日目だったのになぁ…。せっかく覚えたのに無駄になっちまったか。
全教科満点という快挙を逃してしまったな。まぁ、仕方ない事だ。
それよりも美里さんが気になる。
そこで俺は報道陣から聞き出した美里さんの病院へ向かう事にした。
なんとも偶然で、美里が運ばれた病院は達也が入院している病院だった。
駅周辺に停まっていたタクシーを拾い病院に向かう。
受け付けの看護婦さんに美里さんの病室を聞いた。
ちなみに、達也は昨日無事退院できたらしい。よかったよかった。
エレベーターを使い三階まで上り、一番奥の部屋が美里さんの部屋らしい。
「久保 美里……ここか。失礼します」
中は少し狭いが個室だった。美里さんはベットで眠っている。
頭に包帯、腕に点滴みたいなチューブを注している。
…その姿は痛々しかった。
どうやら一命を取り留めたようで安心した。起こす事などできないので、棚の上にあったメモ帳とペンを借り、『お大事に。〜光一より』と書き置きをしておいた。
病院を出た俺は、大きく伸びをして、今後なにをするかを考えた。
昼寝をした後とは言え、一晩中寝ずに恐怖と戦ったはずなのに全くと言って良いほど眠くない。
疲れているはずなのに、逆に走り出したい気分だ。
ミントの能力も融通が効かないものである。自ら制御はできないものかね…。
まぁ良い。夜にでもなれば能力の威力も弱まるだろう。
とりあえず、疲れるためにもここから走って自宅まで帰るとするかな。
俺は約二十キロの道のりを、勢い良く走り出した。