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三日目〜金運上昇中!

現実はこんなに上手くいきません(笑)

「じゃあね」

「おう、またな!」


俺は葉月が電車に乗った事を確認すると、大きく背伸びをした。


「それでは、今日の運気を上昇させるですー」


ミントがカードを五枚出してくる。

よし、今日はど真ん中のにしようかな。


「…金運?」


うーむ。これはいただけない。

俺は腐る程とまではいかないが、金は持っている方だ。


しかも欲しい物がないから特に必要としないんだがなぁ…。


「これパスできないの?」


「できないです。ってか、光一君が想像しない程の大金です。ま、いずれ分かりますよ」


「何をやれば良い? ちなみにギャンブルはやった事がないぞ」


「んー…。まだお昼ですからね。まずは…ここ入りましょう!」


ミントが指差した先にある建物は…


「じゃんじゃんばりばりパチンコ店?」


マジこの中入るのかよ…。


「あ、財布持ってきてねぇぞ?」


「そんなの大丈夫ですー。さ、ほら」


ミントに背中を押され、嫌々と店内に入る。


うぎゃーー、うるせぇ!

耳を塞ぎたくなる程の騒音が鼓膜を刺激する。


煙草の煙で充満した店内。空気がまずい。


どうしよう、一刻も早くここから出たい。


「おーい、ちょっとそこの兄ちゃんよ!」



何だ? 俺の事か?

パチンコを打っていた作業衣姿で、頭に白いタオルを巻いた三十代の人に声をかけられた。


これは絡まれたのか?

もしやカツアゲされるのか?


パチンコ店にいる人だから柄が悪い人だもんな。あー人間不信。


「な、何ですか?」


「もう休憩終わっちゃうから行かなくちゃいけねぇんだけどよ、この台兄ちゃんにやるわ!」


休憩時間の合間にやるなよ。


その台の液晶画面の右上には確変中の文字が。

確か…次回当たりまで手持ちの玉を減らさずにいられるモードだよな。



「じゃあな、頑張れよ!」


俺の返事も待たずに、玉が入った箱だけ持って慌てて帰っていった。


丁寧に僅かに玉も残して行ってくれた。なんて親切な人なんだろう。


もし俺がパチンコを打つギャンブラーなら、こうゆう時はラッキーだと思って舞い上がるのだろうな。


ただ、今の俺にとってはこれは必然だと思えてしまうところが恐い。


えっと、とりあえずハンドルを回して玉を打ち出せばいいんだな。


〈大当りーー!!〉


うお! 一回転目で当たった。 しかもまた確変だ。


何やら訳が分からない内に、次々と玉が出てきては当たりを繰り返して、結局二時間出っ放しだった。


それで手にした金は


「……四万円」


それがたったの二時間で…。


うーむ…パチンコとは恐ろしいな。


「よし、元金ができたですー。じゃあ次はここですー」



「……ここは」


駅からバスに乗り、着いた先は競輪場だった。


番号の付いた人が自転車に乗ってレースをし、俺達は誰が一着になるかを当てるギャンブルだ。


「二車複…? 三連単…? ボックス……流し…わかんねぇよ!」


ってかまず買い方すら知らねぇよ!

何だよこの紙! 書き方も知らないのに当たるわけないだろうが!


「大丈夫ですー、適当に書いて買えば。ちなみに掛け金はさっきパチンコ店で出たお金全部行っちゃいましょー」



こういうのって悪魔の囁きって言うんだろうか?

まぁコイツは死神だし俺は元々ギャンブルはやらんから聞いた事はないがな。



俺は適当に三連単と言う所に印をつけ、誕生日である四月六日だから4と6、あと一つは次が第8レースだったからそれにした。


一着4番

二着6番

三着8番


の券に四万円を掛けた。



車複しゃふくとは一着二着どっちでも良しで、掛けた番号が入賞すれば良い。


車単しゃたんはその逆で一着二着をピタッと当てなくてはならない。


例えば、自分の買った券が3−5なら


一着5番

二着3番


ときたら、車複なら当たりで車単なら外れになる。


ただし当たり前ながら車単の方が配当金の払い戻しは大きい。


三連単れんたん三連複れんぷくも同じで、三つの番号を当てるだけだ。






そしてレースが始まった。


ゴール直前の第四コーナーに差し掛かる時に事件は起きた。何と、転倒である。


先頭を走っていた人が転び、それが連鎖を巻き起こしパタパタと次々に倒れていくではないか。


周りのオジサン連中からは溜め息や怒鳴り声が上がる中、見事にゴールしたのは一着に4番、二着に6番、三着に8番。俺が買った券と丸っきり一緒。…って事は当たったのか?



「なんだよ、※ヨーロッパ来ちゃったのかよ!」

「こりゃー万車券だべぇ」

「やってられねーよ畜生」


※ヨーロッパとは、4・6・8が入賞する事を言う。


競輪は1〜9の数字があるが、そのレースの中でも4・6・8には人気や実力が低い選手が抜擢されてしまうので、滅多にこない。



なお、これらの数字が絡んだ時のオッズ(払い戻し金額)はかなり高い。




「第8レースの払い戻し金額は…三連単、23万6千円。三連複……」


場内にワァーと声が上がる。


えっと、俺が買ったのが確か三連単だから23万6千円か。おぉー、結構増えたなぁ。


「違うですよ。光一君はそれを四万円買ったです。一口百円だから四百倍ですー」


23万6千円×400…?


えーと………




嘘! マジで!?

九千四百四十万円!?

94,400,000!?


良いのか? こんなんで当たっちゃって?


俺は指定された窓口に券を持っていくと、担当のおばちゃんがそりゃもうビックリな顔をしていた。


そして誰か別の人を呼び出し…



……俺は事務所へ連れていかれた。



恐い人数人に囲まれ小さく縮こまって椅子に座る。


「えっと…あの……その………」


僕はこれから何をされるのでしょうか?


「心配するな、坊主。金は払う。ただ、身分を調べさせてもらうけどな」


やばい、財布は家に置いてきちまったぞ。


スーツを着た人達はパソコンやら電話やらで俺の名前と住所から身元を割り出した。


そして、徐々にに顔が真っ青になってゆく。


「……失礼しましたぁ!」


なんか頭下げられたけど、もぉ恐いよぉ。


「まさか、あなたの叔父様が…」


ん? 俺の叔父?

あぁ、まぁ…あれですよ。俗に言うヤクザのあれです。


「いえ、あの、そんな…」


「おい、早急に金を用意しろ!」



そしてトランクケースにギッシリと万札が詰まったのが三つも現れた。


「帰りに何かあっては大変なので、車の手配もします。どうぞ!」


言われるがままに車に乗り、わざわざ自宅まで送ってくれた。



部屋に戻ると、俺はベットに倒れ込んだ。



「…どうするよ、これ」


そしてテーブルの上に置かれた大金を見て悩む。


「光一君は欲しい物とかないですかー?」


「あったらこんな部屋じゃないだろうね」


欲しい物…か。



「兄弟……なーんてな」



もし俺が一人っ子じゃなかったら、こんな荒んだ人間じゃなかったのかな?


いや、人のせいにはすまい。



俺はふと、人の欲について考えてみた。


そうだよ、欲がないと言うならば、なぜ自分を犠牲にしてまでも人を救わないんだ?


俺は金を持つだけ持ち、貯め、いつか自分の物に使おうとしている。


それは別に悪い事なんかじゃなく、むしろ普通の考えだ。


自分で手にした金を、なぜ人の為に使わなくちゃならんのだ。



ただ、そんな世界から嫌気が差していたはずだ。



俺は家の電話を手にした。



「もしもし? 救助センターの方ですか? はい、えぇ。94,400,000円、全部。…え? 嘘じゃないですよ。寄付します。


救って下さい。救いを持っている人達を」

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