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一日目〜友情運上昇中!


朝、やかましい目覚まし時計の音で目を覚ました。


普段は意識が覚醒するにしばらくぼーっとする。


だが今日の俺の目覚めは最強だった。


ワクワクするのである。

今日一日、ミントが何をしてくれるのかが!


「おはようございます。昨日はなかなか寝付けなかったようですね」


クスッと笑ったミントがリビングで朝食の準備をしてくれているようだ。


味噌汁の良い匂いが空腹の俺の鼻をくすぐる。


ウサギさんの刺繍が入ったピンク色のエプロンを腰に巻いたミントが朝食を運んできてくれた。


白米、味噌汁、目玉焼きにサラダ。それにコーヒーと、オードソックスだが、洋食派の俺には充分だった。


「おいしいですか?」


「…うまい!」


お世辞でも何でもなく、純粋に旨い。


がつがつと胃袋に流し込んだ。


「ふふ、良かったです」


俺の食べっぷりを見てミントも嬉しそうに笑った。


………何だよ、この同棲初日のカップルみたいな光景は。


意識すると何やら照れ臭いので、さっそく本題に入る事にした。


「ミント、今日が一日目なわけだが…一体どこがどうなるって言うんだ?」



まさか、ミントが作ったこの朝食がそれなんじゃないだろうな?


これはこれで嬉しかったが、もしそうなら期待外れだぞ。


「はい。じゃあ、これの内どれか一つ引いて下さい」


ミントは鎌を召喚させた時と同じく、黒いホールからトランプサイズのカードを七枚取り出した。



裏返しに並べたカードの内、左から二番目のカードを何となく選択した。


手に取りひっくり返してみると、そこには〈友情〉と書かれていた。


「一日目は〈友情運アップ〉です」


友情…だと?

待ちやがれ、俺には友達がいないんだぞ?


その理由が人付き合いが面倒だからだ。


人は裏切る醜い生き物である。だったら最初から関わらなければ良いだけの話。


所詮は他人を利用しているだけなのだ。



人はなぜ友達を作る?


・一緒にいて楽しいから

・相談に乗ってくれるから

まぁ、大体そんな所だろう。


だが、どうだろう?

果たしてこの理由は自分の為に利用しているだけとも言えないだろうか?


自分が一人じゃつまらないから友達と一緒に居るんだろ?


自分の不安を誰かに聞いてもらいたいから友達がいるんだろ?



綺麗事ばかりじゃねぇか。そういうのを利用しているって言うんだ。



俺は人に利用されたくない。それこそが友達を作らない理由だ。



「冗談じゃねぇ。俺は友達なんか……」


「いいから! 早く学校に行きますよ。準備して下さい?」


俺の言い分などお構いなしに話を進めるミント。

登校時間は刻一刻と迫っているが、遅刻上等サボり上等の俺にとっては慌てる必要がない。


自転車通学であるため、電車の時間も気にしなくて済む。


あくまでも自分のペースで支度を終えた俺は、ようやく家を出た。


途中、昼飯を買う為にコンビニに寄った。



少し遅れての登校だったため、俺の通う高校から最寄のコンビニは、朝の通学ラッシュで立ち寄る学生に殆ど人気商品は買われている。


すぐには商品も追加しないだろう。ここは無難にノリ弁で良いか。


俺はノリ弁とコーヒー牛乳を持ち、レジへ向かった。


その時…顔全体を覆い隠す黒いマスクを被り、全身黒づくめで手にコンパクトナイフを持った、明らかに誰が見ても分かる強盗が入ってきた。


店内には客は俺一人。ミントは見えていないだろうからな。


それに店員は二十歳くらいのフリーターと、気弱そうな店長のたった三人…と一人。


「動くなぁ! おう、金出せ! レジの金全部だぞ!」


ナイフを店長に向け脅す強盗。


こんな事件に巻き込まれたのは人生初である。

と、言うよりも本当にいるんだな、コンビニ強盗なんて。


俺だったらコンビニなんかじゃなくて銀行に押し寄せるけどね。


どうせ犯罪犯すんだったら規模も大きくなくちゃ。



まぁ良い。店長も店員もバンザイしてるし、〈死なない俺〉が何とかしてやるかな。


「辞めなよ。すぐ出てけ」


「…っあぁ!? なんでガキが! 刺されてぇのか!?」


はっ、刺されたって俺は死なないんだよバーカ。



「てめぇ…オイ! このガキが刺されたくなかったら早く金出せ!」


強盗は俺の首に片腕を巻き付けナイフを突き付けてきた。


どうやら人質に捕られちまったみたいだな。



「……能力発動」


ミントが呟いた。

その瞬間、自動ドアが開いた。


入って来たのは警察ではなく、俺と同じ制服を着た奴だった。


「こ…こ…こう…いち…くんを……は、離して…離せ!!」


手足がガクガクと奮え、今にも泣き出しそうな声で言った。


俺の名前を知ってる…?

もしかして同じクラスか?


まぁ大体の奴は名前どころか顔すら覚えていないからな。



それにしても、何しに来たんだコイツは。通報したのか? 何の策もなしに出て来たんだったらただの馬鹿だぜ。


「なんだぁお前は? ったく…最近のガキはよく分かんねぇぜ!」


「離せ…光一君を離せ…離せえぇーー!」


もはや泣きじゃくっているが、そいつは強盗にタックルした。


その拍子に俺は強盗から解放されたが、予想しなかった不意打ちの行動に慌てた強盗の持っていたナイフが、そいつの腹に……。



「うっ……ぎゃあぁあぁぁ…ぁ……ぁ」


自分から流れる大量の血と余りの激痛に、そいつは腹を抱えてうずくまってしまった。


その隙に通報した店員を見て、慌てて強盗は逃げて行った。


さらにその背後に店長が投げたペイントボールが命中した。


一目散に逃げていく強盗を尻目に、倒れたそいつの救助に向かう。


「おい! 大丈夫かい!?」


店長の呼びかけにも、うめき声で返事するのがやっとのようだ。


……馬鹿が!

何の勝算もなく出て来たって言うのかよ!


俺にまかせとけよ!

俺は刺されたって死にはしねぇんだよ!



他人が倒れようが、くたばろうが、今までの俺なら特に気にも止めなかっただろう。


酷いと言う奴も居るが、これは誰にも否定できないし、酷いと言う奴だって実際の所は見て見ぬフリだ。


例えば、このコンビニのレジの隣に設置されている募金箱。


これにわずかでも金を寄付すれば、世界中の貧しい国で助かる人間は大勢いる。


だが、わざわざコンビニに来て何も買わずに寄付金だけ置いて帰るような、そんな奴がこの世にいるだろうか?



……いない。

居たとしたらそいつは相当なお人よしか馬鹿かのどちらかだ。


まぁ後者として見られるだろうな。



他人が死のうが飢えようが、病に苦しもうが…俺達は知った事じゃない。


せいぜい十円くらいの小銭が、つりとして出た時に寄付し、〈あぁ、良い事をしたなぁ〉と自惚れるのが関の山だ。



だが、今のこの瞬間に死ぬ人間は何百といるにも関わらずだ…。

俺達は平気で笑ってる。


何故?



自分じゃないから。

自分には関係ないから。



痛むのは自分じゃないから………!!



そう、痛み苦しんでいるのは刺されたコイツだ。

刺されていない俺は痛くもない。



痛くもないはずだろが…!



何だ、この涙は!?



何で、こんなに胸が痛いんだ!?




まるで刺されたかのように……


痛い! 胸がズキズキと脈をうつ。



実際、本当に刺されたコイツの痛みとは比べ物にならないだろうし、これはまた別の痛みだろう。



「救急車が来ました!」


放心状態となっていた俺は、店員の声で現実世界へ意識を戻した。



「うぅ…い…たぃ…」


「喋らないで、大丈夫。死なないからね!」



「酷い出血だな…。身元を調べて家族に連絡を!」



慌ただしくも、手際良く仕事をこなし、そいつはタンカで救急車まで運ばれた。






「待って下さい! 俺も連れてって下さい!!」




自分でも分からないが、勝手に体が動いていた。




「君は…同じ制服? この子、知り合いかい?」



救急隊員が問い掛ける。




〈知り合い〉じゃないさ。



「〈友達〉です!!」




ーーーーーー。



結局、そいつは意識不明が続き、危ない状況だったが、何とか一命は取り留めたと聞かせれた。


さすがにその時は安堵の表情が過ぎる。


駆け付けた両親と共に、ずっと待っていただけあって、緊張の糸が切れたのか俺はその場に座り込んだ。


「ありがとう、きみ。え…と。名前は何だったかな?」


そいつの父親が俺に喋りかけてきた。


「光一って言います。すいません、俺のせいで…」


「そんな光一君が謝る事なんてないのよぉ。それより、たっくんは良いお友達を持ったわねぇ」


母親が優しい表情で俺を慰めてくれた。

たっくんとは呼び名だろうか?


「あぁ、達也たつやが珍しく寝坊したと思ったらまさかこんな事件に巻き込まれるとは思わなかったけどな。光一君がAB型で良かったよ。輸血が足りないって言われた時は覚悟したからな…!」


「いえ、そんな…当然の事をしたまでです」


俺は達也の血が足りないと聞かされ、真っ先に自分の血を使ってくれと申し出た。


たかがそれだけの事で、何を俺は偉そうな事言ってやがるんだ。


「達也君が目を覚ました」


看護婦がそう報告に来たのは夜10時を回った頃だった。


俺と両親は達也を覗き込むように見た。


「よかった…光一君、無事で…」


散々両親を心配させておいて、第一声がコレだ。


「馬鹿野郎! 何で俺なんか庇ったりしたんだよ!」


安静にしないといけない事や、大声が傷に響く事など分かっている。


だが、これだけは聞かずにはいられなかった。


「光一君…いつも教室で…つまらなそうだったからさ…。これでもし光一君が死んだら…勿体ないと思って…さ」


涙がまた出てきた。

馬鹿野郎にも限度ってもんがあるだろうが。



「…心配かけやがって」


そして、病室は笑顔に包まれた。



もう夜遅いとの事で、俺は達也の父親に車で家まで送ってもらった。


母親は病室に泊まるらしい。



部屋に着くなり、さっきから気になっていたが、人前だったので聞けなかった事をミントに尋ねた。


「達也が刺されたのは俺のせいなのか? お前の能力が原因なのか?」


「…さぁ?」


「さぁじゃねぇ! 惚けるな!」


「他人がどうなろうと、知った事じゃなかったんじゃないですか?」


「……ぐっ!」


「安心して下さい。刺されたのは能力のせいじゃないです。あれは事故です」


ミントをどこまで信用して良いんだ?

仮にもコイツは死神なんだ。

言った事を丸々信用するのは辞めた方が良いのかもしれない。


「それより、友達のありがたさが分かっていただけました?」


「あぁ、充分すぎるほどな。だが楽しくもないし、死んだらまた生まれ変わりたいとも思わなかったぞ?」


「全然分かってないですー。達也君を守りたいとか思わないんですかー? 友達は守りたいって思うのが人間ですー」


……ミントに言われなくたって、そんな事は気付いていたさ。ただ、当たり前過ぎて言葉にならなかっただけだ。


「死んじゃったら誰が残された人を守るんですかー? 光一君にだって、できる事は山ほどあるです。今日は初日なので、その事を自覚して欲しかったんですー」


俺は勘違いをしていたようだ。ミントが言う楽しさと言うのは、快楽だけを言うもんじゃなかった。


そして、生きる上で最も大切な事は、自分以外の人を守りたいという気持ちなのかもしれない。

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