37: 亀裂1
ジェイミーは、エイミーと別れ、実家からヘリフォードへ戻った。
彼は任務がなく、訓練のみを行っていたときだった。
キンコーン
自宅のチャイムが鳴り、ジェイミーはドアへ向かった。
のぞき窓で訪問者を確認すると、いかつい顔をした男性が立っていた。
「ジェイミーさんですか? 警察の者です。少しお時間をいただけまか?」
警察手帳を目の前に出されたので、本物のようだ。
ゴツゴツした感じの声で、少し発音を聞きとりにくかった。
「なんですか?」
ドアを開けて、対応した。
何かやらかした覚えはなかった。
「実は、あなたの知人のエイミーさんについてお聞きしたい事があります」
ピクッとジェイミーは、反応してドアをすぐに開けた。
「彼女に何かあったんですか?」
まくし立てるように聞いた。
警察の男は、少し面食らったようだが、すぐに話し始めた。
「落ち着いてください。私は、ロンドン警視庁の刑事です。ここは、ヘリフォードなのですが、ロンドンで発生した事件ですので、私がここに来ました。エイミーさんのご家族から連絡があり、二週間ほど連絡が取れない状況なのです」
ジェイミーの血の気が引いた。
(まさか……)
エイミーに財布を拾って、手渡したサラリーマンの男が思い浮かんだ。
「今のところ目撃者がいなくて、関係者に聞き込みを行っている最中です。それで、何か思い当たるふしがあれば、教えていただきたいのですが」
刑事の肩眉が、ちょっとあがり試すような目つきだった。
「はい。実家に帰省していました。その時、彼女と久しぶりに会いました。彼女が、ハンドバックと運転免許証を落としたのですが、それを拾って手渡ししたサラリーマンの男が気になります」
刑事は、その情報に反応した。
「もう少し、その話を詳しく教えてください」
ジェイミーは、詳細を話した。
刑事はそれを殴り書きで、メモを取っていた。
「分かりました。ご協力感謝します」
あらかた話し終えて、刑事はその場を去ろうとした。
「待ってください」
ジェイミーは、刑事を引きとめた。
「フィンには、事情聴取を行っていますか?」
ジェイミーの目に怒りが見て取れた。刑事は、その目をチラリと見ると、答えた。
「ええ。聞いています。彼の情報によると、失踪する前、エイミーさんは、自宅に怪しい手紙が届いたと言っていたそうです。内容は、新聞紙の文字を適当に切り取って貼り付けて、意味不明な文章が書いてあったそうです」
ジェイミーの眉間に皺が刻まれた。
「フィンは、その時点で、彼女に危険が迫っていたとか、言っていなかったですか?」
声に怒りが、混じっていた。
「いえ、言っていませんでした。その時は、単なるイタズラだと思い、特に感じることはなかったと言っていました」
ドン!
ジェイミーは、怒りが頂点に達して、近くの壁を殴りつけた。
刑事は、その姿を見て険しい表情をした。
「捜査は、続けます。では、失礼します」
刑事が去った後もジェイミーは、動かなかった。
いや、動けなかった。
(なぜ? どうして……)
自問自答しても答えはでなかった。
直接聞いてみるしかなかった。
ジェイミーは、スマホを取り出してクレンデンヒル本部へ電話した。
フィンが任務から戻ってくるのは、いつなのかを確認するためだ。