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リベンジ ー理想の影ー  作者: ソルティ
36/44

36:事情4

二人は、商店街を歩いた。

目的の八百屋や肉屋までは、もう少し距離があった。

珍しいものはないかと、周辺の店に目を向けて歩いた。


「ワンワン!」


二人の耳に元気な犬の声が、聞こえてきた。


「何? かわいい声が聞こえた」


エイミーの顔が幸せで満ちた。


「ああ。ペットショップか」


ジェイミーは、看板のさび付いたペットショップに目を向けた。

少年時代には、小学校の帰りによって眺めていたものだ。

社会人になってから、とんと縁がなかった。

寂れつつある商店街で、なんとか生き残っているのが、たくましく感じた。


「ねえ。見ていこうよ」


エイミーの喜びを隠しきれない声が、耳朶を打った。


「先に行こうとしても駄々こねる気だろ? わかっているよ。行こう」


ジェイミーは、苦笑してエイミーと一緒にペットショップへ入った。

店内は、カゴが段々積みにされ、様々な動物たちが売られていた。

その一角に犬のスペースが、広く取られた場所があった。

コーギー、ブルドッグ、コリー、主に中型犬を多く扱っているようだ。


「あ。さっきの鳴き声はこの子かも」


エイミーは、足早に目当てのカゴへ近づいた。

名札には、柴犬と書かれていた。


「柴犬だ。いいなあ、今はペット禁止のフラットに住んでいるけど、フィンと一緒に住む家は、絶対犬を飼ってもいいところにしよう」


柴犬は、エイミーを見て、飛びつこうとしたが、カゴが邪魔していた。

その時、柴犬は隣に立っていた人間に目線を移した。

ジェイミーは、柴犬をじっと見つめた。


柴犬は、くりくりした丸い目で、ジェイミーを見つめた。

両者は、数秒間お互いを観察し合った。

やがて柴犬は、目の前の人間が敵ではない事を悟った。


カゴの間から鼻を出して、ジェイミーの匂いを嗅ごうと、鼻息を鳴らし始めた。


−−−ほう……


犬が、興味を示しているのが、わかった。

ジェイミーは、手を差し出した。

柴犬は、ペロペロと舌を出して指先をなめていた。


一心不乱になめているので、何か食べ物か何かと勘違いしているのかと、思ってしまった。


「うふふ。仲がよろしいことで」


ジェイミーが、柴犬に集中している間にエイミーは、悪戯っ子のような表情をして、両者を見た。


「別にこいつが懐いているだけだ」


ジェイミーは、目をそらした。


「嘘。ちゃんと顔に書いてあるよ。犬と遊べて楽しいって」


ジェイミーは、いつの間にか自分が、笑顔になっているのに気づいていなかった。


「ねえ。あなたも犬を飼ってみれば?」


エイミーは、柴犬の鼻を突きながら言った。


「いつも任務で、家にいないことが多いからな。まともな世話ができないだろう」


ちょっと残念そうにジェイミーは、答えた。


「あなたにもいい人が見つかればいいね」


 その言葉は、ジェイミーの心に重くのしかかった。


−−−本当は君が……


その言葉が、喉から出かかった。だが、堪えた。

フィンに譲ると、決めたことだ。


「なあ。この柴犬を同棲祝いに買ってやろうか?」


違う話題を振った。


「え? そんなの悪いよ」


エイミーは、かなり困惑していた。


「俺がそうしたいんだ。いいだろ?」


ジェイミーの多少強引な言い方にエイミーは、たじろいだ。


一分後、エイミーは降参とばかりに首を僅かに振った。


「わかったわ。あなたって意外に強情なとこは、前から変わってないのね」


先ほどとは逆に苦笑されて、ジェイミーは目をそらした。


これでいい。

これで、一区切りつくはずだ。

この気持ちに整理を付けるには、ちょうどいい機会だった。


「でも、今すぐフィンと同棲するわけじゃないから、改めて連絡するね。その時は、家に遊びに来てね」


異性の友人を気遣う気持ちが、こそばゆかった。


「ああ。その時は、フィンの奴を小突いていじり倒してやるよ」


ジェイミーは、精一杯の笑顔を作って、エイミーに向けた。


ペットショップの店主が、鋭い目つきで睨んできた。

買う気がないなら、出ていけの合図だ。


エイミーは、店主に見えないように舌を出して、片目をつむった。

ジェイミーも頷いた。


二人は店を出て、商店街へ戻っていった。

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