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リベンジ ー理想の影ー  作者: ソルティ
30/44

30:罠2&再会

そこは、地上から見て、高さ三十メートルほどで、ウォルターの家を一望できる、絶好の狙撃ポジションだ。

フィンは、木の根元に陣取り、周辺の気配を探った。

虫のさえずり、風が吹き木の葉を揺らし、こすれる音が聞こえた。


その中に人為的な音が混じっているか、神経を集中させた。

今のところ異常は、感じなかった。

いつでも発砲出来るよう、ワルサーを胸のあたりで保持しながら、さらに移動した。


その時、何かが聞こえてきた。

電子的なピッピッピッという音だ。

フィンは、その場でしゃがみ、ワルサーを構えて、周辺の木々へ銃口を向けた。


ワルサーの照準をピタリと合わせて左右に振り、警戒した。

電子音は、絶え間なく聞こえている。


−−−この感じだと、北西の方向だな……


狙撃予想位置は北東だったが、反対側だ。

フィンは、北西へ進んだ。

すると、大きな大木を見つけた。


そこから電子音が聞こえているようだ。

大木の周囲は、更地で直径二十メートルの円形に拓けていた。

足首までの長さの雑草が生えている程度で、木は生えていなかった。


フィンは警戒して、更地に身をさらさないようにした。

狙撃者が、この付近に潜んでいる可能性は否定できない。

下手に出ていけば、撃たれるのは目に見えている。


雑木林から出ず、更地の端を時計周りに進みながら、大木を見ていた。

すると、大木に何かが縛り付けられていた。

月光が雲に隠れて、詳細がわからなかった。


しばらく待って、月光が大木を照らした。

キャシーだ。


−−−なぜここにいる? 逃げたんじゃなかったのか?……


フィンは、困惑した。


キャシーは、紐で大木に縛りつけられて、頭を下にむけていた。

さらによく見ると、体に何かが付いていた。

フィンは、作戦用ベストから小型双眼鏡を取り出し、確認した。


キャシーの胴体に四角い物体が三個、ガムテープで固定されていた。

素材は、粘土のようで白っぽい色をしていた。

その表面にデジタル式タイマーがあり、数字が表示され点滅していた。


−−−C4爆弾……


フィンは、現役時代に幾度となく、使った経験があった。

アレが爆発すれば、周辺の木々と共に天へ召されるはずだ。

とにかく接近して、状況の確認と可能であればⅭ4爆弾の解体を行わなくてはいけない。


フィンは、双眼鏡を周囲に巡らせて、接近できる位置を探した。

すると、ちょうどキャシーの縛られている大木の裏側が、月光によって影になっていた。

小型双眼鏡を作戦用ベストに入れた。


更地の端を移動し、影になっている部分に移動した。

月光が遮られ続けているのを確認した。

ワルサーを構えつつ、大木の裏へ移動した。


到達して、その場にしゃがみ周囲を見た。

異常なし。

すぐにキャシーの近くへ向かい、Ⅽ4爆弾を見た。


信管が爆弾本体それぞれに一本ずつ刺してあって、タイマーへ繋がっていた。

キャシーは、意識を失っていたが、息はしているようだ。


タイマーに表示されている数字は、十五分だった。

電子音を鳴らし、点滅はしていたが、カウントは始まっていなかった。

フィンは、信管に手を伸ばして、ゆっくりと一本目を引き抜き始めた。


キャシーの呼吸で胸部が動いている。

手元が狂わないように注意した。

一本目は抜けた。


二本目も同じようにして、抜いた。

残り一本だ。

三本目の信管に手をかけようとした。


「う…… ううん……」


フィンが、信管に手をかけた瞬間、キャシーが、うめき声を上げて、大きく体を動かした。

耳障りで大きな電子音が、周辺に響き渡った。

フィンは、思わず身構えた。


よく見るとタイマーのカウントが始まっていた。


「クソ!」


フィンは思わず悪態をついた。

これ以上信管に触れると、爆発する可能性があった。

他に解体の手がかりがないか、Ⅽ4爆弾を調べた。


よく見ると、タイマーの側面に鍵穴があった。


−−−これか!


何かを叩くような鈍い音が、遠くから聞こえた。

ヒュッと風切り音が、耳に入ったとたん、目の前の大木に穴が開いた。


「えっ? 何?」


キャシーは、衝撃で目を覚ました。

フィンの本能が、すぐに動けと命じた。

今、彼女の身を案じることはできない。


前転してその場を離れた。

フィンの後を追うように銃弾が、大木の側面を抉った。


「きゃあ!」


キャシーは、悲鳴を上げた。

フィンは、大木の裏に回り込み、銃の射線上から身を隠した。

その時、声が聞こえてきた。


「甘いな。やはりその程度か? だから、彼女を守れなかったということだな」


「なっ」


フィンは、思わず声を上げた。

懐かしい声だ。

だが、今は死の宣告を告げる声でもある。


「あの時ほど時間はないぞ。十五分だ。それまでに何とかしてみろ」


また銃弾が、大木の側面を抉った。


「なんで……どうしてここに」


疑問を感じている暇は、なかった。

残り時間は、限られている。

Ⅽ4爆弾を解体するのは、現時点で不可能だ。


あの鍵穴がヒントだ。


−−−アイツがカギを持っている……


狙撃予想位置は、大木を起点にして、西のようだ。


「フィンなの? ちょ……ちょっと! お願い助けて!」


キャシーの懇願する声が、聞こえた。


「すまない! 今、ソレに触れば爆発する!」


キャシーは、そう言われて自分の体を見た。


「ウソ! 冗談でしょ!」


驚愕の目で、Ⅽ4爆弾を見た。


「とにかく体をむやみに動かすな! 爆発するかもしれない! 俺が解体方法を探す! それまでそこでじっとしているんだ!」

キャシーが何か言っていたが、フィンの耳には聞こえていなかった。


先ほどと同じように影を背にして、更地を横断して雑木林へ戻った。

フィンは、雑木林と更地の境目近くを移動し、西へ向かった。

ワルサーのグリップを握る手に力がこもった。


−−−相対した時、自分は……


最悪の結末を想像し、身を震わせた。

そんな事にはしたくない。

彼は、戦友でもあり親友だ。


だが、自分に対して怒りを向けている事は、充分わかった。

あの時、どうして行動できなかった?

どうして、任務に行ってしまったのか?

悔やんでも悔やみきれない。


−−−ツケを払わなきゃならない……


自ら背負った十字架の重みが、肩にのしかかるようだった。


「どうした? 何をもたもたしている? 早く見つけてみろ」


また聞こえた。

近くから聞こえてくるのが、わかった。

そう遠くではない。


フィンは、その場にしゃがみ、神経を研ぎ澄ませた。

その時、何かがこすれる音が聞こえた。

目をカッと見開き、足腰のバネを効かせて、走り出した。


こすれる音は、まだ聞こえていた。


西へ向かうほど、木々の数が増し、走行速度を妨げた。

音の発生源と思われる位置に来た。

フィンは、ワルサーを構えた。


小型スピーカーが、木に括り付けられていた。


「こんな小細工にひっかかるとは、残念だよ」


スピーカーから、声が聞こえた。

それは、落胆と蔑みが含まれていた。

ワルサーから弾丸が、発砲された。


弾丸が命中し、スピーカーは火花と煙を上げて沈黙した。


−−−なんてことだ! 冷静に考えればわかることじゃないか……


狙撃手が、わざわざ自分の位置を教えることなどない。誘いだとなぜ考えなかった?

己の判断ミスが歯痒かった。

フィンは、しゃがんで周囲を見渡した。


とにかく、地形の把握だ。ヒントを探し出したい。


−−−この雑木林で、狙撃に適した場所は、一体どこだ?


ふと目が止まった。

小高い斜面が、ここからもう少し、西にあった。

斜面上に潜んでいれば、大木のあった更地を一望できる。


フィンは、足早に斜面へ向かって、移動し始めた。


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