29:狙撃2&罠1
何か使えるものがないか、物色する。
頭上や足元の引き出しを開けて、探すがこれといってめぼしいものは見つけられなかった。
裏口へ向かい、外に出た。
そんなに長くこの家にいたわけではないが、長期間閉じ込められていた気分だった。
「ふう……」
その位置は、狙撃される心配はないため、その場でストレッチをした。
緊張で筋肉がこわばっていたので、筋が伸びで少し気分が落ち着いた。
一通り終えると、腰からワルサーを抜いた。
ウォルターが一発発砲した為、残り六発だった。
片手で持つと、家の壁伝いに角へ、歩いて向かった。
家の角まで来て、全速力で走り、正門まで向かった。
不思議な事に狙撃が、なかった。
−−−あれほど正確に狙撃してきたのになぜだ?
正門を抜けて、今度は家を取り囲む塀を伝いに移動し、角まで来た。
−−−どうにも気になる……
フィンは、塀の角に体を押し付けながら、そこから顔半分を出して、雑木林を観察した。
雑木林は、傾斜の少しキツイ斜面の上に生い茂っていた。
南から北へ向かって広がっており、樹木が密生しているのがわかった。
しばらく様子をうかがっていたが、やはり狙撃してこない。
こちらの位置を把握しているのに撃ってこないのは、誘っている可能性があった。
いずれにせよ倒すには近づくしかない。
雑木林の端までは、百メートル離れていた。
さっきと違い、少し距離があった。
また、ワルサーをタクティカルベルトとズボンの間に突っ込み、飛び出す準備をした。
月が、また雲に隠れそうだった。
フィンは、月が隠れた瞬間、猛然と走った。
狙撃を警戒して、ジグザグに走って、射線を定めさせないようにした。
雑木林の端に達すると、近くの木へもたれかかった。
息を整え、ワルサーを手に取った。
雑木林の中を注意深く観察した。
鬱蒼と茂る木々の枝は、節くれだった魔女の指のように奇怪に入り乱れていた。
そのせいで、月光もあまり内部へ届かず、視界は悪かった。
狙撃者がいると思われる位置は、およそ百五十メートル先だ。
崖の端まである木々の近くに潜んでいる可能性が高い。
フィンは、ちょうど雑木林の端にいたので、最短距離を狙って、木々の間へ進んでいった。
存在を悟られないように気配を消した。
木から木へと、点と点を線で結ぶようにして、木の枝を踏みつけないように注意しながら、さらに先へと進んだ。
すると、目の前に長さ五メートル、幅二メートル、深さ三メートルの溝が現れた。
その両端は、木々がこれでもかと密生しており、通行に困難が生じるほどだった。
−−−罠か……
溝の上を見ると、巨木が倒れていて、何かツタのようなものがぐるぐる巻きついていた。
そのツタに何かを葉っぱで巻いた物体が、数個ついていた。
−−−偽装爆弾……
あの葉っぱに火薬が仕込まれていて、ツタにまぎれて点火コードがあるはずだ。
溝を通ったら、足元の紐を踏むか切ると、爆発に巻き込まれて、一瞬でお陀仏だ。
左の木々を見た。
通れないわけではないが、隙間が空いていた。
フィンは、そこを通ろうと、歩いて行き、体を通した。
顔面に鋭いトゲが、向かってきた。
フィンは、間一髪しゃがんで、それを回避した。
鈍い音を立てて、トゲは木に突き刺さった。
一呼吸おいて、それを見た。
木の棒に鋭利に加工された木のトゲが、数本組み付けられていた。
体に何か紐のようなものを引っ掛けた感触は、なかった。
だが、現に罠は発動した。
そうとう巧妙に隠していたにちがいない。
フィンは、ゆっくりと隙間を通ると、また前進し始めた。
こんなに長時間、緊張状態を保ったのは、久しぶりだ。
除隊してから、体をなまらせないために筋力トレーニングはしていた。
当然、一般人に戻ったので、敵と命のやり取りをすることはなかった。
ここで勘をよみがえらせるしかなかった。
罠がこれだけとは、到底思えなかった。
狙撃予想位置まで、残り五十メートルだった。
木々や地面の状態をよく見て、進んだ。
フィンは、視線を巡らせて、気になるものを発見した。
また罠だ。
今度は、もっと分かりやすい。
目の前にある木の近く、四メートル上に鉄釘付きの巨大な丸太が、威圧感丸出しで仕掛けてあった。
丸太を吊っている紐は、太い枝に引っ掛けられ、木の根元へ伸び、地面に刺された二本の木の棒に結び付けられていた。
−−−さっきと同じ囮……
フィンが、チラリと左を見ると、地面に似たような紐が見えた。
木の棒に結び付けられ、見事に雑草で隠されていた。
その紐を目で追っていくと、木の中ごろに弾性をもった長い木の棒が、縛り付けてあった。
棒の先端部にはさっきと同じ、尖らせた木のトゲが組み付けてあった。
紐に触れば、体にトゲが刺さる配置だった。
フィンは、右をチラリと見た。
今のところ怪しい罠は、見えていなかった。
万全を期して、雑木林と崖のわずかな間を進もうと思った。
かなり、幅が狭く歩行しにくい状態だった。
諦めて、右の雑木林を進もうと、歩を進めた。
ヒュッという空を切る音がした。
フィンの体が揺れて、鈍い痛みが襲った。
弓矢が、作戦用ベストと抗弾ベストを貫き、体に穴を開けた。
幸い、肺に穴が開くような致命傷ではなかった。
紐を引っ掛けた感触はなかった。こんな巧妙な罠を次々に仕掛けられる人間は、そうそういない。
−−−軍隊経験者しかいないだろう……
厄介な相手が、ここに潜んでいる。
それも相当の腕だ。
フィンは、体に刺さった弓矢を抜いた。
血が付着し、地面に血の滴が落ちた。
手当に必要なものがないため、そのままにした。
しばらくその場から動かず、他の罠がないか入念にチェックした。
紐らしきものは、見当たらなかった。
フィンは、前進を再開した。
右肩の銃傷と弓矢の傷が、歩くたびに痛みが響いた。
額に汗がにじみ、心臓の鼓動がはやくなった。
そして、ついに残り距離十メートルに達した。




