27:反撃3
フィンは、室内に入り視線を走らせた。
月明かりが窓から差し込んでいた。
しかし、光量が足りず、奥の暗闇を鮮明に照らすほどではなかった。
逆手に持ったコンバットナイフを起点として、構えの体勢を崩さなかった。
必要最小限の足さばきで、気配を消しつつ奥へ進んだ。
右にドアが見えた。カギがかかっていたドアだ。
その床に血痕が、数滴落ちていた。フィンは、その軌跡を目で追った。
すると、ベッドと別のドアが、目に入った。
ベッドには、多くの血が付着し、近くのゴミ箱には注射器の残骸、包帯などが見えた。
−−−クソ……手当したか……
その別のドアへ向かい、ノブを回したが、開かなかった。
血痕がドアの前に落ちていた。
手当に使ったと思われる医療品が、このドアの向こうに存在するのは、確かなようだ。
もしかしたら、ここに奪われた装備があるのでは?
カギのありかを推測しようと頭を回転させた。
物音がした。
フィンは、驚くべき速さで背後に向いた。
物音は、小さなものだった。
何かが、こすれるような音だ。
神経を研ぎ澄まし、視覚と聴覚を鋭敏にした。
聞こえた。カサコソという音だ。
視線を周囲に巡らせて、音の発生源を探した。
また音がした時、目がピタリと止まった。
前方の部屋の端っこ、両側を窓で挟まれているところだ。
天井に視線を動かすと、四角の枠に囲われた板の部分が目に入った。
ゆっくりと近づいていくと、その真下にうっすらと埃がたまっているのがわかった。
近くの壁には、木の棒が立てかけてあった。
−−−ビンゴ……
頭隠して尻隠さずとはよくいうが、よほど慌てていたらしい。
天井の板は、少し隙間があいていた。
フィンは、木の棒を手に持ち板をゆっくりとずらした。
銀色の直線が、わずかだが見えた。
おそらく梯子だろう。
それを引き出そうと、木の棒をうまくひっかけようとした。
ブシュッという乾いた音が、聞こえた。
フィンの背中に何かが、ぶつかった。
それも勢いよく。
その衝撃で、足元がぐらつき、体勢を崩した。
呼吸が止まりそうになったが、気合で無視した。
音の発生源へ体を向けた。
ダメ押しに二回、何かが胸にぶつかった。
今度こそ一時的な呼吸困難におちいった。
コンバットナイフを落とし、その場へ前のめりに倒れそうになった。
床へ完全に倒れこむのを耐えて、膝をついて咳き込んだ。肺が悲鳴を上げていた。
呼吸を整えるまで、少しかかるだろう。
酸素が足りずに視界に星が、チラチラと瞬き、意識をはっきりさせるため、頭を振った。
ネズミが近くを通った。
開かれたベランダ側のドアへ向かっていくのを見て、忌々しく思った。
その時、ベッドの下から不敵な笑みを浮かべた黒い影がぬっと出てきた。