21:任務10 -親友の過去ー
イギリスは、晴天になる日数が少ない事で知られている。
バリーの葬式中の天候も、どんよりとした曇り空で、少し雨が降り始めていた。
教会の敷地内にバリーの墓所が、設けられていた。
その傍で、神父と遺族が、死者への祈りを言っている最中だった。
「この勇敢なる戦士であり、父親であった者を神の国に委ね、その体を土へと還します。土は土に。灰は灰に。塵は塵に……」
大きく質素な棺桶は、激戦を潜り抜けてきた戦士に相応しいのか、否か誰にもわからなかった。
遺族は、黒服を身にまとい悲しみに包まれていた。
棺桶を取り囲み、それを太い紐でつるして、墓所の穴に入れていった。
バリーの両親、妻のアーサの両親、そして息子のカールと娘のエリカが、その役目を行った。
未亡人となったアーサと子供たちは、憔悴しきっていた。
「……うっ」
母親として、子供達に泣き顔を見せまいと、必死に耐えているアーサと、棺桶を吊るしている紐を生気のない目で持っているのは、カールとエリカだった。
二人とも一点を見つめて、今行っていることが、事実として理解しているか、わからなかった。
遺族の周りには、距離を置いてSASの面々が、立ち並んでいた。
その中にジェイミーとエドガーの姿があった。
「……」
ジェイミーは、大黒柱を失った家族に何を言えばいいのか、わからなかった。
−−−ただ、口を閉じて、この葬式が終わるまで待てばいいのか?……
正直に言って、彼は重圧から早く逃れたかった。
だが、逃げるわけにはいかなかった。
その目で、バリーの旅立ちを見届けて、遺族に謝罪するのだ。
棺桶が、墓所の穴の底面に完全に下ろされ、紐が取り除かれた。
埋めるための土を葬儀屋が、シャベルで穴に入れ始めた。
しばらくして、穴が完全に埋められた。
神父が役目を終えて、教会へ向かった。
遺族たちは、葬儀後の飲食会場行きのバスへ、ぞろぞろと歩き始めた。
話しかけるチャンスは、今しかなかった。
ジェイミーは、SASの列から抜け出し、アーサへ近づき、話しかけた。
「あの…… アーサさん…… この度は、誠に」
「何も言わないで」
アーサの憮然とした態度が、ジェイミーの心を突き刺した。
「わかっているわ…… あなたが、任務中は夫と最後まで行動していた事は…… それに見捨てようとしたわけでもない」
アーサは、眉間に皺を寄せて、はっきりと言った。
「でも、夫がいなくなったのは、事実よ。今、自分はそれを受け入れられないでいる。そんな状態であなたと話しても、まともな会話が出来る自信がないの」
アーサは顔を伏せて、傍にいた子供たちを引き寄せた。
「だからもう、私たちに関わらないでください。お願いします」
その言葉は、銃弾で身体を撃ち抜かれるより、ある意味苦痛をともなう言葉だった。
子供たちは、相変わらず一点を見つめて、何も話そうとしなかった。
アーサは、子供たちと手をつなぎ、ジェイミーの前を去っていった。
ジェイミーは、その後姿を黙って見ているしかなかった。
−−−どうすればいいんだ?……
謝罪を拒否され、気持ちの整理がつかないまま、葬儀は終わってしまった。
そんな心中を察してか、エドガーが近づいてきて、肩を叩いた。
「……行くぞ」
ただの帰るのを促す言葉だったが、今のジェイミーには、救いの言葉に等しかった。
「はい」
小雨から大雨になりつつあった。
傘を叩く水滴が、激しさを増し、ジェイミーの心にいっそうの影を落とした。