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リベンジ ー理想の影ー  作者: ソルティ
18/44

18:任務7 -親友の過去ー

ジャングルの行軍は、危険が伴う。

周囲に生息する生物たちに対する警戒、敵が仕掛けたトラップの警戒、睡眠をとる際、場所の確保に神経を削ることになる。


それが、夜の行軍となれば尚更だ。

ジェイミー達のチームは、縦一列に並び、お互い五メートルの等間隔で、距離を離して行軍した。


先頭がバリー、二番目ジェイミー、三番目バッカス、四番目ベンの順番だ。

国境を目指し移動を開始してから日が暮れて、かなり時間が経っていた。回収場所に時間通りに到着するためには、距離を稼ぐしかない。


「あ~、疲れた~。はやく巨乳揉みて~」


しんがりのベンが、気晴らしなのか話し始めた。


「おい、ムラムラしてくるからやめろや」


バッカスの情欲の含まれた返事がある。


「お前らこんなトコでバカ言ってんな。さっさと足動かせ」


バリーの激が飛ぶ。

暗闇の中を行軍する為、各自はベルゲンから暗視装置を取り出し、ヘルメットのマウントに装着していた。

それを通してグリーンの靄がかかったジャングルの風景を見ていた。


その時、バリーの目線上に動きがあった。ちょうど五メートル程離れた草むらが、激しく動いたのだ。

バリーは、サプレッサーを付けたM16A2を構え、スコープをのぞき、十字線を草むらに合わせる。少しでも不穏な動きを見せたら発砲出来る体勢をとった。


その時動く物体が、草むらから飛び出した。

バリーの指が、引き金をひく直前、それがカピバラだったとわかった。

齧歯類の中で、最大の大きさを誇るカピバラだが、その性格は温厚で知られる。


暗視装置を通して見るカピバラの目は、怪しい光を放ち、少し不気味だった。

しばらくすると、チームの進行方向とは、反対方向に去っていった。


「バリーの旦那、脅威は去ったかい?」


バッカスの言葉は、あからさまなからかいが含まれていた。


「ミッキーマウスの親戚は、去ってくれたよ」


バリーは、適当にあしらう。

時刻は、○二○○時。急ぎ足で距離を稼いだおかげで、国境まではかなり近くまで来ている。

ここまで多少の無理を通して来たので、大休憩が必要だった。

ジェイミーは、チームの面々を見渡した。


「大目に休憩をとる。バッカスとベンは、先に三○分間睡眠を取れ。その後、俺とバリーが休憩を取る」


「やった! 大休憩~♪」


ベンが一時的に緊張感を解く。


「おい、さっさと寝床探すぞ。ついて来い」


バッカスの冷静な指摘が、すぐに現実に引き戻す。

バッカスは、辺りを見渡し、鬱蒼と茂る木々を凝視した。

チームの位置より、西に十○メートルの場所にUの字に並んでいる木々を見つけた。

ふたり並んで、横になってもあまり目立たないのが、いい感じだった。


「いい場所、あるじゃん♪」


バッカスの目が、自慢げに光る。


「そんなの見つけられんのは、フツーじゃん」


ベンは、つまらなそうにしていた。

バッカスは、ベンを睨みつけると、耳を引っ張り、U字の木々の間に彼を引っ張っていった。


「やれやれ、俺たちもさっさと監視をするか」


バリーのあきれた声を聞いたジェイミーは、その場にしゃがんだ。

ジェイミーは、北と東を担当。

バリーは、西と南を担当。


両者は、M16A2のスコープをのぞき、十字線を木々の間から間へ移動させる。

周囲の動きと音に意識を集中させる。

動物たちの鳴き声や、虫の羽音、移動音が聞こえた。

それらの中から、人間らしき影や動きを見つけるため、神経を尖らせた。


一方のバッカスとベンは、カムフラージュのシートを被り、早くも仮眠に入っていた。

しばらくの間は、異常はなかった。

そして、動きがあった。だが、バリーは、見落としていた。


それは、U字の木々の5メートルさらに西の草むらだった。

その草むらが、かすかにうごめいていた。

出来る限り、音を立てずにバッカスとベンが仮眠を取っている場所へ、ゆっくりと近づいて行った。


バッカスとベンは、意識がまどろみ、その存在に気付くのが遅くなった。彼らとの距離が、2メートルまで迫った時、一瞬草むらが大きくこすれる音に気付き、最初にバッカスが飛び起きた。


「はっ…… なっ、野郎!」


ギリースーツを着て、草むらに完全にカムフラージュした人間二人が、バッカスとベンに襲い掛かった。


「えっ、ちょ…… マジかよ!」


ベンの狼狽をよそに毛むくじゃらは、首を絞めつけようと猛然と距離を詰め、腕を伸ばしてきた。

組み付かれたバッカスとベンは相手と取っ組み合い、転げまわった。


「くそ! ジェイミー! 敵だ!」


接敵に気付いたバリーは、援護しようと足を動かそうとした瞬間、銃弾が腕をかすめた。


「ちっ!」


銃弾は、四方から飛び交い、ジェイミーとバリーは、地面に伏せる。

鈍い銃声が辺りを包み、あっという間に足止めを食らった。


−−−サプレッサー付の小銃で、四方から同時射撃……やるな……


この状態では、周囲に何人いて、どこから射撃しているかわからない。

更に暗視装置の視野の狭さも加わり、状況の把握は一層難航した。


「くそっ! バリー! フラッシュバン!」


ジェイミーの声が響き渡る。


「おう!」


ジェイミーとバリーは、作戦用ベストからフラッシュバンを出してピンを抜いた。

すぐに鈍い銃声がしている木々の間へ、勢いよく投げ込む。


一秒

二秒

炸裂。


凄まじい大音響が周囲に響き渡り、目を閉じていても明るく感じる閃光が、神経を強く刺激した。

同時に当たり一面に煙が充満した。

ジェイミーとバリーは、暗視装置をヘルメットに上げ、伏せて身構えていたため、影響は最小限に食い止められた。


対して、周囲に潜んでいた敵は悲惨だった。

暗視装置は、調光装置で強烈な閃光を遮断した。

しかし、大音響を耳で受け止め耳から血が流れ、方向感覚がおかしくなった。


さらに構えていた銃を落として、その場でうずくまっていた。


「よし! いくぞ!」


バリーは、暗視装置をヘルメットから下ろし、猛然と立ち上がり、担当範囲にまず牽制で、M16A2を発砲した。

それと、ほぼ同時にジェイミーも、それに倣って発砲した。

M16A2のセレクターをフルオートにして、指切りした。


そのうちの数発が、敵の体に当たり、肉を貫く嫌な音がした。

今度は、確実に仕留める為、接近した。

M16A2のセレクターをセミオートにして、ダブルタップ(二発速射)をした。


ジェイミーは、担当範囲にいた敵三人を目視した。射線上に対して、横一列に並んでいた。

絶好の位置だ。


左から右へ、スコープの十字線を動かし、敵の体に合わさる度、ダブルタップした。

銃弾が、着弾する度に血飛沫が舞い、敵三人は沈黙した。


「グッ!」


反対方向より、苦痛に歪む声が聞こえた。

ジェイミーが、振り向くと、バリーの右上腕部がえぐれているが見えた。

二人の敵は、バリーによって射殺されていた。

しかし、先ほどのフラッシュバンの影響から回復しきっていないが、落とした銃を持った残りの敵一人が、でたらめに発砲していた。


仲間がやられた姿を見て、ジェイミーは憤慨した。

無駄のない精密機械のような動きで、M16A2を構え、スコープの十字線を敵の顔に合わせる。


ダブルタップ。


口内に着弾し、後頭部より脳組織が飛び散った。

敵は、ジェイミーが狙っていたことに気づかないままあの世へ旅立った。


「バリー! 大丈夫か!」


「朝飯前よ!」


二人は、お互いを確認し合った後、U字の木々へ目を向けた。


フラッシュバンの煙が、晴れるにつれて、見えてきた。

バッカスとベンは、ギリースーツの二人と殴り合いになっていた。

相手を戦闘不能にするため、拳が角度を変え飛び交かい、頬にめり込んだ。


衝撃で、ヘルメットが地面に転がっていた。

バッカスは、タイミングを見計らって、敵の拳をかわし懐に入ると、襟をつかんだ。


「シッ!」


敵の腹に膝蹴りを叩き込む。

だが、腹は腕でガードされ、膝を受け止められた。


「おら!」


敵は距離を離すため、前蹴りをバッカスへ放つ。

胸板へめり込み、バッカスの体勢が崩れる。

稼いだ距離で、回し蹴りがバッカスに迫る。


その蹴りは、バッカスには命中しなかった。

敵の蹴りを放った足を絡め取り、地面へ倒したのだ。


「そうら、よっと!」


敵の頭を下にして、地面に激突させて脳震盪を狙う。

それは敵に読まれていた。頭が激突する瞬間、体勢をひねり、地面を手で叩き、受け身を取ったのだ。


二人は、一緒に地面に倒れこんだ。

バッカスは、ここぞとばかりに体の位置を変え、敵の腕を取り、十字固めを決める。


「ギギギ」


肘関節がきしみ、敵を鋭い痛みが襲い、苦悶の声を出した。


「降参しろや!」


バッカスの闘志に燃える声が、辺りに響き渡る。


「大丈夫か?」


ジェイミーは、近づくと敵の足をタイラップで固定し、動きを封じる。


「屁でもねえよ」


自信に満ちた声で、バッカスは言う。


「こっちもフォローしてくれよ~」


ベンは、どうにか敵の首を絞めて、意識を落としていた。


「お前は、どうにかしたんだからいいだろ」


バリーは、子供を諭すように言う。

すぐさま、敵をタイラップで手足を固定した。

フラッシュバンの煙が完全に無くなり、周囲のジャングルに静寂が戻りつつあった。


射殺した六人の死体から、血だまりがひろがり周囲に鼻をつく匂いが広がった。

バッカスの十字固めを解かれ、顔を歪めた敵は、ジェイミーに追加で、手にタイラップを付けられた。

そのまま意識を失った敵の方に突き飛ばされ、近くへ倒れこんだ。


「これで全部か?」


ジェイミーは、暗視装置で周りを見渡し、他のメンバーに向き直る。


「だろうな。二チームで行動していたようだ。射殺した六人と、この生き残り二人合わせて八人だ。とりあえず、制圧は出来たな」


答えたバリーも念を入れて、暗視装置で周囲を見ていた。

先ほどの右上腕部の銃傷から、血が流れ出て、野戦服が一部赤く染まっていた。


「おい、バリー大丈夫か? 手当してやろうか?」


ジェイミーが手を伸ばそうとすると、その手が遮られた。


「たいした怪我じゃない。自分でやる」


バリーは、ベルゲンから包帯と止血剤を取り出し、野戦服の袖を肩までまくった。

すぐに止血剤を振りかけ器用に包帯を巻き応急処置を完了した。


「てか、その二人どうする?」


ベンが、顎をしゃくって、方針を決めたがっている。


「うーん、そこの木に括り付けておけば良くないか? どうせ、しばらく連絡がなければ、奴らの増援がくるだろ」


めんどくさそうにバッカスは、腕を回しながら答えた。


「けっ…… てめえら調子に乗るのも今のうちだぜ」


筋を痛め、顔を引きつらせている敵が、威圧的な視線を向けてきた。


「あ? 口聞けんなら、もう一度わからせてやろうか?」


バッカスは神経を逆なでされ、睨みつける。


「逃げられると思うなよ…… お前らは、俺らのリーダーを怒らせちまったんだからな」


敵は、ニヤリと笑みを浮かべ、バッカスを見る。

バッカスは、舌打ちすると、敵に近付いていった。


「いい度胸だ。そんなに拳を食らいてえか」


青筋を立てて、胸倉をつかんだ。


「いいってバッカス。動けなくすれば、ここで野垂れ死にするだけなんだからさ」


普段は、バッカスに諭されることが多いベンだが、今回は逆だった。


「早く国に帰って、巨乳ちゃんと楽しもうぜ、なあ」


ベンは、バッカスの肩に手を置き、なだめようとした。

その時、敵が汚い歯をむき出しにして笑い、何かを噛む動作をした。

一瞬、わずかなカチッという音が聞こえ、辺りに轟音が響き渡った。


バッカスとベンは、何が起きたのかわからず、その爆発に巻き込まれ、吹っ飛ばされた。


「なっ」


ジェイミーとバリーが、暗視装置をヘルメットのマウントに戻した直後の出来事だった。

バッカスとベンは、爆発の衝撃で五メートル吹っ飛ばされ、倒れこんだ。直後に痙攣が始まり、かなりの重傷を負ったのは明らかだった。


「クソ!」


バリーが先んじて、二人に駆け寄った。

意識を失っていたと思ったもう一人の敵が、わずかに動いたのを見逃したのは、致命的だった。


バリーが、近くを走る瞬間を狙って、敵は自爆した。またしても轟音が響き渡り、バリーを吹っ飛ばした。


「バリー!」


ジェイミーは、大声を出し駆け寄った。

バリーは、うつ伏せに倒れていた。幸い距離が少し離れていたおかげか、野戦服は爆発物の破片で破けて、顔や手足に小さな裂傷が数多くみられるだけだった。


「俺のことはいい…… あいつらを…… 早く」


バリーは、爆発の衝撃で、少し意識がはっきりしなかったが、味方の心配ができるぐらいは正気を保っていた。


ジェイミーは、バッカスとベンに駆け寄った。二人の状態を確認すると、思わず吐き気がこみ上げた。

バッカスは、爆発の影響で顔面が焼け爛れ、鼻が無くなっていた。


ベンも顔半分ではあるが、同様の状態で、顔面の皮が剥がれかけ、筋肉が見えていた。


「だっ……」


大丈夫かと声をかけるのが、おこがましかった。

二人とも緊急搬送が必要な状態だ。

だが、回収ポイントまで、距離はまだある。


ジェイミーは、モルヒネを二本、作戦用ベストから取り出した。


−−−助かる見込みは薄い、だが見捨てられない……


バッカスとベンの太ももの付け根に一本ずつモルヒネを注射する。

野戦服と皮膚を突き破る感覚が、手を通して伝わった。

後ろに気配を感じ振り返ると、バリーが立っていた。


「ひでえな…… こりゃ」


二人の惨状を目の当たりにし、おもわず口に出た。


「正直、手に負えない…… 二人を背負って、増援部隊が来る前にここを離れよう」


ジェイミーはそういって、バリーの状態を見たが、人間一人を背負うには怪我を負いすぎていると思った。


「おい、お前の考えている事はわかるぞ、背負うのは無理だって? バカいうな。若造にそこまで心配されるほど、落ちぶれちゃいねえぜ」


バリーの肉体からアドレナリンが分泌され、多少の痛みは感じなくなっているのは、わかっていた。

メンバーの古株から、頼もしい返事をもらうと、心強い。ジェイミーは、心中で感謝した。


「よし、背負うぞ」


ジェイミーが、声を発した時、鈍い音が聞こえた。

それが聞こえた瞬間、バリーは先ほどの銃傷に新たな銃弾が撃ち込まれバランスを崩し膝が地面についた。血飛沫が辺りに飛び散った。


「ツッ……」


撃たれた衝撃と痛みで、バリーは苦悶の表情を浮かべ、冷や汗がどっとでた。


「……やっとぶち込んでやれたぜ」

その声は、南西の木々の間から聞こえてきた。

正確な位置や距離はわからない。

ギリースーツで景色に溶け込み、暗視装置を使い、銃で狙っているのだ。


−−−まずい! このままではジリ貧だ……


ジェイミーは、悪態をつこうとしたが、直前で我慢した。

相手が視認できて、こちらは出来ない。どう考えても不利だ。

ヘルメットの暗視装置をおろし、視界がグリーンに染まった。


M16A2のスコープの十字線を周囲に巡らせ、狙撃者を探す。

仲間の傷つく姿を見て、平気な奴はいない。

だが、その闘争心と一瞬の焦りが、狙撃手の発見を遅らせてしまった。


二十メートルほど離れた木の根元の草むらから、鈍い発砲音が二回聞こえた。

その銃弾は、バッカスとベンの足に着弾し、彼らの体を振動させた。

じわじわとなぶり殺しにするつもりだ。


「野郎!」


ジェイミーは、怒りに我を忘れ、M16A2をフルオートで、その方向へでたらめに撃ちまくった。

放たれた銃弾は、木々や草むらを削り取り、狙撃者の頭を押さえ、一時的に発砲を止める効果を発揮した。

マガジン一個を撃ち尽くし、使い切ったマガジンを地面に落とした。


作戦用ベストから、次のマガジンを取り出し装填したところで、大きな手がM16A2の銃口を下げた。


「何をする!」


冷静さを失ったジェイミーは、激昂して大声を出した。

その瞬間、拳が彼の頬にめり込み、視界にノイズが、混じった。


「落ち着けよ、坊や」


対照的に冷静な声が、脳に染み渡る。

バリーは、ジェイミーの作戦用ベストから、フラッシュバンを出し、ピンを抜き、狙撃者がいると思われる場所へ投げた。


「伏せろ!」


バリーは、ジェイミーの暗視装置をヘルメットのマウントに戻してやり、肩を回して一緒に地面に伏せた。


一秒。

二秒。

炸裂。


再び、凄まじい大音響が周囲に響き渡り大量の煙が発生した。

二人の頭上に土埃が大量に振りそそぎ、爆発地点の近くの木々が千切れ、木片が周囲に落ちた。


あらかた落下物が落ち切った後、バリーの声が聞こえた。


「まったく、肝心な時に怒りに我を忘れるのは、よくねえぞ? まだまだだな」


その声は、息子を心配する父親の声に似ていた。

ジェイミーの実の父は存命だが、バリーを仕事上の父親と感じていた。

バリーと出会いチームを組んで長かった。いつも自分がヘマをやらかした時はかばってくれた。


ある時、なぜそんなに気にしてくれるのかと尋ねた事があった。


「なんだろうな。時々お前が気を張り詰め過ぎていて、そのまま事切れてしまうんじゃないかと思う時があってなあ」


バリーは微笑を浮かべ、ジェイミーの肩に手を置いた。

その時の事を思い出し、自分は周りに気にされているのを実感した。思わず、涙腺が緩みそうになったのは、内緒だ。

任務が終わった後、特殊部隊の荒くれ共は、行動は決まっている。


独身は、酒と女とサッカー。

既婚者は、酒と浮気とサッカー。

そんな集団に他の隊員の悩みを真面目に聞く人間は、少なかった。


バリーは、彼らとほとんど代わらなかったが、既婚者の中では、比較的夫婦関係を維持している方だった。

しかし、浮気の前科三犯の事実は消えず、嫁との喧嘩は絶えなかった。

それでも続いているのは、奇跡に近い。

やはり子供がいるからか。


子供は小学校三年生の男の子と小学校一年生の女の子がいた。

あまり帰ってこない父親を慕い、オフの日はいつも一緒に遊んでいる。

そんな、子供を持つ親だからか、ジェイミーの家庭状況を知り、気にするのは自然だったのだろう。


さらに子育て経験と戦闘経験が合わさり、任務で組んだチームの性格を把握するのか得意だ。

一癖も二癖もある集団の調整し、任務を成功に導くのはお手の物だった。

そんな器の大きいバリーを信頼していた。

この不利な状況下でまたしても、豊富な経験と冷静な判断で、救われた。


「ありがとう」


ジェイミーは、感情を抑え気味に言った。


「気にするな。それよりあの二人だが」


バリーはすぐに兵士の表情に戻った。

周囲は、まだ煙が充満しており、詳細を見てとれない。


「煙がもう少し晴れたら、あいつらのとこへ行って、背負って逃げるぞ」


ジェイミーが頷いた。

その時、何かが地面に落ちる、不吉な音が聞こえた。

よく見えなかったが、黒いテニスボール状のモノが、彼らから五、六メートル近くへ落ちていた。


最早、何であるかは明白だった。

ジェイミーとバリーの生存本能が、フル回転した。訓練で鍛えた足腰のバネをきかせて、地面を蹴り、全速力で駆け出した。


そのモノから、十メートルほど離れた瞬間、背後で炸裂音が響き渡った。

幸いにも背中にはベルゲンを背負っていたので、破片はそこに突き刺さった。

爆発の衝撃でまたしても吹っ飛ばされた。


意識が飛びかけるが、身体が地面に叩きつけられた瞬間、意識がはっきりした。


「仲間を見捨てるのは、嫌だが逃げるぞ!」


先に立ちあがったバリーは、ジェイミーの腕を引っ張り、走り出した。


「クソ!」


バッカスとベンを置き去りにするのは、苦痛だった。

だが、背後から鈍い発砲音が、聞こえた。

煙は晴れてきたが、狙撃者はこちらの位置が把握できていないのだ。


このチャンスを逃すと、逃走の機会を失うだろう。

戦闘で疲れ切った頭と身体に鞭打ち、ジェイミーとバリーは走って、回収ポイントまで急いだ。


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