16:麻薬組織5
「!」
ホセは、風で帽子が飛ばされ、体勢が崩れた瞬間、側頭部に何かが掠めるのを感じた。
「ボス!」
リカルドが、ホセに警告する暇はなかった。間髪入れずに第二弾が、ホセの腹にぶち当たったのだ。
「ぐぶっ」
ホセの口から血の泡が出た。体の力が抜け、その場にくずおれる。
着弾した腹の大穴から、大量の出血をしている。長くはもたないだろう。
リカルドは、その場にうつ伏せに倒れそうになったホセを支えた。
「しっかり!」
声をかけるが、ホセの目は虚ろなままだ。
「くっ……うおおおおおおお!」
顔に青筋を立てて、リカルドはその場で咆哮する。
「リ……リカルド……」
ホセの顔から生気が失われ、体から力が抜けていく。
何もできない自分を呪うリカルドは、唇を噛み、血を口の端から流す。
数秒後、失血多量でホセは死亡した。瞳孔の開ききった目は、意味もなく虚空に向けられていた。
その時、輸送機の後部から、標準的な野戦用の帽子を被り、迷彩服を着た人間が、8人降りてきた。
いずれも屈強な肉体をしており、厳しい訓練を積んでいることが一目でわかる。
彼らは、リカルドと同様の元特殊部隊隊員たちである。
麻薬組織から提示された高給に惹かれてきた腕の立つ荒くれ共だ。
装備はそれぞれAKS74を持ち、チェストリグを野戦服の上に着て、AKS74のマガジンと無線機を入れていた。
「リカルド! 銃声があったが、敵襲か!」
チームのサブリーダーが、リカルドに大声で話しかける。
その瞬間、彼の近くに自分たちのボスが、哀れな亡骸となって血を流しているのを目の当たりにした。
「クソッタレ!」
額に青筋を立てて、悪態をつくチームリーダーを手で制止したリカルドは、指示を出す。
「すぐ近くに敵がいるはずだ! 追跡するぞ! マルコス! お前は、工場の人間をまとめて工場の周囲を警戒しろ!」
口角泡を激しく飛ばし、周囲に怒鳴りつける。
「へい! まかせてくんなせえ!」
この時ばかりは、マルコスも大きな声で返事をする。
「この借りは必ず返す……」
リカルドは、憤怒の混じる言葉を口にし、決意を固めた。