理想の彼氏、ではない。
モデル顔負けのイケメンで、頭が良くて、運動神経抜群で、社交的で、お金持ちで、恋人想い。そんな100点満点な彼氏が欲しい。
・・・だからこの男が理想なわけでは、断じてない。
「あんたさ、人の家に来てまでなにやってんの?」
「ゲーム」
カッコよさなんてかけらもない、無難なシャツとジーパン。無造作とは言いにくい寝癖だらけの髪と、じゃっかんのびたヒゲ。つまめる脂肪と、濃い体毛。
茂本将生17歳ゲームヲタク。
悲報、私の彼氏。点数評価40点の、理想からだいぶ転落した男。
「ゲームって、彼女の家に来てすることじゃないだろ。私に構え」
「今とても忙しい」
暴れまわるドラゴンを華麗に避けて、背後から切りかかる操作キャラ。将生は黙々とコマンドを打ち込んでいる。ドラゴンが魔法を唱えた。ファイヤブレスがフィールドに広がる。将生が素早く十字キーを押したが、僅かに攻撃を食らってHPが3分の1減少した。ドラゴンの必殺技なのかもしれない。
・・・なるほど、とても忙しそうだ。
「もういい。マンガ読む」
「・・・」
将生の指が猛スピードでボタンを押す。私の話を聞いていないのかもしれない。
おととい友だちに借りたマンガの続きを読むことにした。マンガを持って戻ると、あてつけみたいに将生の背中に背を向けて座った。隣になんか座ったやらない。将生の視界にも入らない場所で、密かな反抗をしてみた。
私はスねてるんだ。せっかくの初お家デートでお前がゲームなんかするから怒ってるんだぞ。
たぶんこれっぽっちも効いてない。将生はニブチン野郎で、女心のおの字も分からないのだから。
どうしてこんな奴と付き合ってしまったんだろうか。告白されて舞い上がった昔の自分が恨めしい。
カチャカチャカチャペラカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャペラカチャカチャカチャ・・・。
生産性のない音。マンガの内容なんか少しも入ってこない。
初の家でデートする約束をしてから、すごく楽しみにしていたのだ。だらだらとひっついて、他愛もないことで会話をする予定だった。それはもうイチャコラする予定だったのだ。
互いに背を向けて違うことに没頭したかったわけじゃない。
「将生のバカ」
ゲーム音にかき消されてしまうような小さな声で文句を言ってやった。ゲームに夢中の将生には聞こえてなんかないだろう。
じわあって涙がにじんできて、あわててマンガを遠ざけた。安全な場所に避難させて、涙をぬぐう。
将生のバカ、死んじゃえ。
「失礼な」
え?
空耳かと思った。ふり返っても将生は変わらずゲームをしてる。私の方なんか見てないし、顔すらあげてない。指だけが高速で動いている。さっきと変わった様子はなかった。
いや、少し違う。髪の間から覗いた耳がほんの少し、赤くなっていた。
「照れてんだろうが」
・・・は?
「普通初の彼女の家とか緊張するし恥ずいだろうが。平静保とうとしてることぐらい察せよ」
はー。とか、呆れたみたいな溜息までついた。
「でもまあ、悪かった。だからこっちおいで」
初めて将生がゲームから手を離した。そのまま自分の左隣をポンポン叩く。
乾いた目を擦って、そろそろと四つん這いで将生の隣に座った。将生はもうゲームに戻ってコマンドを打ち続けている。
その肩にちょっとだけ寄りかかってみる。将生は何も言わない。でも俯いた顔が赤くなっているのが見えた。
「・・・40点から50点にしてやってもいい」
理想の彼氏とは程遠いけど。私の彼氏としては及第点ということにしておこう。
「50点?何の話?」
「こっちの話」
「ふうん。―――あ!」
「きゃ、なに?」
「パラメーターカンストした!!」
やっぱり落第。
まあ、私に彼氏はいないのだけれど…。