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S・S・R  作者: 雪山ユウグレ
第39話 街案内のルール
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 大和瀬真奈貴(やまとぜまなき)と本庄ルト。長い黒髪を軽く結わいて垂らし、臙脂とオレンジを散らした鮮やかなワンピースとふわふわの白いカーディガンを合わせた今日の真奈貴の出で立ちは修威(しゅうい)にとってたまらなく好ましい。一方、流れる水のような淡い色をした髪を左右の耳の後ろで結び、レモン色のシャツに濃淡のある茶のチェック柄のパンツを合わせた上に薄手のグレーのジャケットを羽織ったルトもまた学校で会うときとは異なる新鮮な印象を修威に与える。そうして並んで修威を出迎えた2人は改めて見ると確かに顔立ちに似通ったところがあるのだった。わあ、と修威は声には出さずに感嘆の吐息を漏らす。髪色の差が激しい分、目元の似ているのが目立つ。

「なるほど、いとこだってことに今更納得」

「え、見て分かる?」

「目ぇそっくりだよ真奈貴ちゃん」

「ええー……」

 修威の指摘に真奈貴はどういうわけか複雑な表情を返す。ルトと似ていることは彼女にとって不本意なのだろうか。ではルトの方はどうかというと、修威の感想や真奈貴の冷めた表情など全く意に介していない様子でにこにこと2人を見てこんなことを言う。

「真奈貴! そのワンピース、とってもよく似合っている。修威も帽子と上着の組み合わせが格好いいよ。靴紐の色もおしゃれだ」

「紳士は靴紐の色まで褒めるんすか」

「当然だよ」

 当然らしい。修威は一応ツッコミを入れてはみたものの、こうもあっさりと返されてはそれ以上言えることなど何もない。そうっすか、と適当な相槌を打ってとにかく出発することにする。

 今日は新学期に入って初めての休日であり、この街に来たばかりだというルトに街を案内するということになったのだった。先日ルトが教室まで真奈貴を訪ねてきたのもその打診のためだったという。何故わざわざ授業の合間に、という疑問に対してはルトが「そのときに思いついたから」と極めて単純な答えを返した。

 学生寮の1階共用ホールで待ち合わせをした3人はそのまま近くの駅へと向かう。寮の近くにはルトを案内するほど面白い場所があるわけではない。ならばやはり向かうべき場所は中央駅前の超大型複合施設“かぜらば”だろうと昨日の夜のうちに修威と真奈貴で話し合った。ショッピングモールと飲食店街、プールに映画館、ボウリング場にゲームセンター、図書館まで揃ったそこはこの街で生活をするのであれば是非とも押さえておきたい重要な場所なのである。用事も遊びも大抵はここで満足できるのだ。

 “かぜらば”に一歩足を踏み入れたとき、ルトが一度ぐるりと辺りを見回して小さく頷く。修威はそれに気付いてどうしたのかと疑問に思ったものの、同じく気付いた様子の真奈貴が何も言わないので黙っておいた。ショッピングモールを一回りした後、真奈貴は修威とルトを可愛らしい店に案内する。そこはつい先日オープンしたばかりのスイーツビュッフェで、学校でも女子を中心に話題になっている場所だった。メルヘンなモチーフの看板の下に女の子の列。ここに来たかったんだと笑う真奈貴にルトが目を輝かせる。

「可愛いお店だね! 今日の真奈貴の雰囲気によく似合っている」

「そう? ありがとう。ルト、甘いもの平気だったよね?」

「平気だよ。修威、きみもこういうお店は好き?」

「え、俺」

 まさかそこでルトが話を振ってくるとは思っていなかったので修威は少しまごつく。しかし修威も甘いものは嫌いではないので素直に頷くことにした。それならよかった、とルトは綺麗な笑顔を咲かせて列に並ぶ。修威と真奈貴も後に続いた。

 待つこと20分、案内された窓際の席に一旦腰を落ち着けた後、それぞれに好きなケーキを取りにいく。ルトは気を利かせてか「ぼくが持ってくるかい?」と尋ねていたが、真奈貴が「大丈夫、自分で取るから」と答えるとそれ以上は何も言わずに自分の分だけを皿に取り始めた。

 季節柄か果物を使ったケーキが多く並ぶ中で修威はひとまず目についたリンゴのタルトをひときれ、そして少し気の早いぶどうのゼリーを2つ取る。真奈貴はチョコレートクリームのケーキを選び、ルトは小さなモンブランを嬉しそうに皿に載せる。一口に甘いものといっても好みは様々で、ここはそんなそれぞれの好みを充分に満たしてくれるだけの品数を揃えているのだった。彩りも華やかなケーキやその他のお菓子を見ていると修威も自然と顔がほころんでくる。

 各々が一皿目のケーキを選び終えて席に戻ると、話題はやはりルトのことが中心になる。小さめに作られたケーキのひときれにフォークを刺しながら、真奈貴がルトを見て尋ねる。

「編入して一週間くらい経ったけど、学校には慣れたの?」

 ルトは小さなモンブランをナイフでさらに小さく切り分けながら「まあまあだよ」と答える。

「こっちの学校は仕組みが違うから戸惑うことも多いけれど、なんとかやっていけそうだ。それに魔法理論の授業が面白いしね」

「本庄先輩は魔法のためにこの国に来たんですか」

 修威は口の中に入れたタルトを飲み込んでから問い掛けた。真奈貴がちらりと修威を見て、それからルトへと視線を戻す。ルトはそうだよ、と笑顔で頷いた。

「ぼくはS・S・Rの課程を履修するためにこの国に来た」

 なるほど、と修威は次のケーキにフォークを刺しつつ納得する。レーネ大和瀬高等学校はこの国の中でも一番早く“Sur(シュール)-Schule(シューレ)-Rule(ルール)(超学校的規則)”通称S・S・Rの適用校として指定された、いわば国内魔法教育の草分け的施設だ。そしてこの国は世界で初めに魔法が発現した国であり、10年を経た今もなお魔法の力が衰えることなく存在している国でもある。魔法教育の歴史は決して長いとはいえないものの、S・S・Rの取り組みが世界規模で見ても先進的なものであることは疑いようもない。

「真奈貴や真奈貴のお父さんからS・S・Rのことを聞いていて、ぼくも魔法を学びたくなった。理論を知ることは本に頼ってできるけれど、ぼく自身が魔法を使うことより多くを学べるとは思えなかったからね」

 そう言ってルトは右手に持っていたナイフを皿に置き、空中で何かを握る仕草をしてみせる。そういえば前回の課外授業で修威達はルトに助けられたのだった。そのときルトは何か長い棒状のものを持って、修威達目掛けて落ちてきた天井を元に戻したのだ。果たしてあれはどういった魔法だったのだろうか。修威が疑問に思っていると、ルトは自らその答えを口にする。

「ぼくは“剣”を使って魔法で変化したものを元に戻す魔法を使う。原状回復と呼ばれる分類の魔法だよ。だから魔法に影響された場所じゃないとぼくの魔法は意味を持たない」

「ふーん……だからあのとき誰かの魔法で落とされた天井を元に戻せたってことっすか」

「イェス。修威の鉛筆の槍を元に戻すこともできるよ」

「そりゃあ困ります」

 修威が苦笑いするとルトは楽しそうに声を立てて笑う。よく笑う人だな、と修威はルトの笑顔を眺めながら考える。真奈貴も微笑むことはあるが、これほど明るく声を出して笑うことは少ない。顔の造作が似ていると分かるとなおのことそんな些細な違いが目につくようになる。不思議なものだ、と修威は改めて真奈貴とルトを見比べるのだった。

 やがて早々に一皿目のケーキを食べ終えた真奈貴が次の皿を取るため席を立ち、まだ皿にケーキが残っている修威とルトはテーブルに残る。2人きりになったところでルトがそっと修威に向かって囁いた。

「ねえ修威。ぼくは修威に聞きたいことがあるんだ」

「ふい?」

「修威は真奈貴のことが好き?」

 何故か一瞬どきりとした修威は自分を見つめるルトの目を見て今度はぎくりとする。深い青色の目が修威の意識を吸い込みそうなほどに澄んでいた。同じ目を見たことがある、と修威は気付く。真奈貴の父親でもあるジョージ・大和瀬も今のルトと同じ目をしていた。真奈貴とルトがいとこ同士であるならジョージとルトもまた血縁関係にあるのだろうか。修威は少しだけくらくらとする頭を振って、それからルトの問い掛けに答える。

「好きっすよ。クラスでまともに話せるのは真奈貴ちゃんくらいだし。俺こんなだけど、呆れてそうだけど付き合ってくれるし。ありがたいって思ってます」

「そう。それならよかった」

 ルトは心の底から嬉しそうに言う。最初に会ったときには修威を牽制するような素振りを見せていたというのにどういう心境の変化だろう。あるいは修威が女子であると知って安心したからこそそんな風に言えるのだろうか。修威は試しにこう聞いてみることにする。本庄先輩は真奈貴ちゃんのことが好きなんですか、と。するとルトは優しい笑顔で深く深く頷いた。

「ぼくは勿論真奈貴が大好きだ。彼女が誰かに好かれようと愛嬌を振りまく姿を見たいとは思わない。だけど自然にしている彼女を好きになる人はたくさんいてほしい。だから修威が真奈貴を好きだと言ってくれてとても嬉しいよ」

「……」

 真奈貴がケーキのたくさん載った皿を手にこちらへと歩いてくるのが見える。修威はなんだか不思議な気分で残っていたケーキを口の中に押し込んだ。

執筆日2015/12/19

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