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S・S・R  作者: 雪山ユウグレ
第13話 階段突破のルール
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1

 ついに修威(しゅうい)達は階段の番人である巨木人を倒すことに成功した。以前梶野が単身で、しかも簡単に勝利していたことを考えれば随分と苦戦したものだが、それでも勝ったことには変わりない。修威は満足を惜しげもなく顔に出し、真奈貴(まなき)とハイタッチを交わした。

「おう、ワンコも! やったな!」

「ワンコって呼ぶんじゃねぇ!」

 この勝利の立役者ともいえる舟雪(ふなゆき)ともそんな会話と共に手を叩き合い、そしてどちらからともなく高く掲げた拳をぶつけ合った。そして喜びも束の間、修威はふと真面目な顔でポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認する。

「あと10分ちょいってとこか。思った以上にぎりぎりだったな」

「このやり方だとどうしても時間はかかる。けどその分安全にはなるだろ」

 舟雪はゲーム機のリセットボタンを操作しながら言う。確かに、S・RPGの仕組みを利用したターン制・マス目行動制の戦闘は互いに同時に行動することが制限されるためにただ殴り合うのと比べて随分と長い時間をかけることになる。課外授業の時間は1日1時間までという制度上の決まりがあるため、その時間内に終えることのできないような、例えば集団を相手にした戦闘であればこの方法は使えなかっただろう。

「苗田くんの魔法は使いどころが大事なんだね」

 そう言う真奈貴に、舟雪は素直に頷く。だから彼はこれまでの課外授業ではあまりいい成績を残すことができなかったのだという。

「いつもはせいぜい木人相手にガンシューやってただけだから。討伐数は稼げねぇし、防御のしようはねぇし、正直お手上げだった」

 でも、と舟雪は修威の方を見やりながら続ける。

「あんたの言った通りだったよ。1人で闇雲にやっててもどうしようもなかったのに、あんたらと組んだら木人討伐どころか階段番まで突破できた。ありがとう」

「……おおう」

 あまりに真っ直ぐな礼の言葉に修威がわずかにのけぞる。何だよ、とややムッとした様子で返す舟雪にいやいやと手の平を向けてから、修威は改めて開かれた4階への階段を見上げた。

「なぁ、せっかくだからあと10分、4階行ってみねぇ?」

 砕けた鉛筆槍を元の大きさに戻してポケットに突っ込み、持ってきたペンケースから新しい鉛筆と金属製の定規を取り出しながら修威が言う。真奈貴は何も言わずに舟雪を見て、舟雪は少しだけ迷う素振りを見せた後に「ああ」と頷いた。心なしか頬を上気させ、彼は階段の先を睨む。

「ここまで来られたんだ。見てぇよ、4階」

「決まりだな」

 にっと笑った修威は新しい鉛筆のペンシルキャップを跳ね飛ばし、それを槍の大きさへと変えた。まだ魔法の時間は続いている。であれば、新しい段階に進むことをためらうのは面白くない。駆け出した修威に「慌てると転ぶよ」と冷静な声を掛けつつ真奈貴が続く。そして修威は友人の忠告も虚しく階段でつまずき、3階と4階の間にある踊り場で盛大に転んだ。おいおい、と舟雪が修威の落としたペンシルキャップを拾ってから2人に追いつく。

「焦んな! そんなで怪我してらんねぇぞ」

「うるせぇ! 俺はどんくさいんだ!」

「堂々と言うな!」

 修威達は浮足立っていた。入学してもうすぐ2か月が過ぎようとしているこの時期、高校生活にも課外授業にも慣れてきた修威達ではあるが、それにしても今回の勝利は紛れもない快挙である。他の1年生の多くが舟雪のように初段か、あるいはまだ段位を手にできずにいる中で階段の番人を突破したのは修威達だけだ。そしてこの事実は修威にとって段位が上がる以上に嬉しいことだった。

 入学して間もなく、初めての課外授業で巨木人に敗れたときに修威は確かに「悔しい」と感じたのだ。それまで随分長いこと修威は悔しさなど感じてこなかった。何も特別他より秀でていたわけでも、負けたことがなかったわけでもない。走れば遅い、授業中は眠気に負ける、当然のことながら学期の終わり毎に渡される成績通知表にはぱっとしない数字ばかりが並ぶ。修威のこれまではその繰り返しだった。学校生活が嫌いだったわけでもないが、そこに悔しさを見出すほどの意味も感じてこなかった。

 しかしこのレーネ大和瀬高等学校に入学し、“Sur(シュール)-Schule(シューレ)-Rule(ルール)(超学校的規則)”通称S・S・Rの制度に従った課外授業というものを、そして自分の中にあった魔法というものを体験してやっと修威は自分が悔しがるほどに面白いと感じることのできるものを見付けたのだ。どうしてそれがそうだったのか、修威自身にもはっきりとは分からない。ただ、魔法をもっと知りたい……自分の中にある魔法を外に向かって出していきたい、表現したい。その欲求が修威を課外授業へと駆り立てた。

 だから階段の番人を倒したとき、修威の胸には弾けんばかりの充足感があった。そしてそれは修威を4階へと上らせるには充分すぎるほどの勢いとなった。

「来たぞ、4階!」

 誰にともなく叫んで4階の廊下へと足を踏み入れた修威だったが、しかしそこではたと立ち止まる。遅れて上ってきた真奈貴と舟雪が修威の両脇に並んだ。そして同じように立ち尽くす。は? と舟雪が茫然とした顔で首を傾げる。

「おい、ここ……学校だよな?」

「さあ」

 真奈貴が少しだけ顔を笑みの形に歪めながらやはり首を傾げた。修威はそんな2人の間から1歩、その廊下へと踏み出す。

 タイル張りの床とは全く異なる感触が上靴越しに修威の足へと伝わる。それはもっと柔らかく、そして細かな凹凸があって不安定だ。足音も全く違う。タイルを踏む硬く高い音はどこからも聞こえず、ただとん、と軽い音だけが修威の耳に届く。

 そしてさらにおかしなことに、そこには壁も天井もなかった。見上げた先には薄く膜を張ったような曇り空。辺りを見回せば土色の上に雑草の緑だけが散らばるだだっ広い荒野。修威は心なしかふわふわとした眩暈を感じながら、それでもさらに数歩前に進んだ。緩やかに吹き抜ける風の中には紛れもない土と草の匂いがある。

「これも魔法、なんだろうな」

 一度後ろを振り返り、そこに階段があることを確認してから修威は言う。曇天の荒野の真ん中に、まるでそれだけ切り取ってきたかのように階段があるのはとても奇妙な光景だ。しかしそれがあることで修威達はそこがあの4階へと続く階段の先にある空間なのだと認識することができる。逆に言えば、それがなければ夢でも見ているのかと疑いたくなるところだ。

「苗田の魔法と似たようなもんかもしれねぇな。まるでゲームの世界じゃねぇか」

 そう言って軽く笑う修威に舟雪もやっと状況を呑み込んだ様子で頷きを返す。

「確かにな。オレのとは規模が全然違うけど」

「4階は3階までと違って、学校の廊下で木人を倒すっていうだけじゃないみたいだね」

 真奈貴が言って、修威はうーんと唸りながら何度か辺りをぐるぐると見回した。以前梶野から聞いた話では4階から上にはさらに手強い敵が待っており、彼曰く「木人よりも強い木人」というものが待ち構えているらしい。それが一体どういう意味だったのか、木人より強い木人というのは果たしてどこにいるものなのか、目を凝らして探してみてもどこにもそれらしきものは見当たらなかった。

「これまでとは違うルールなのか」

 修威がどこかぼんやりとしながらそう呟いたとき、3人の足元がぐらぐらと揺れ始める。よろめいた真奈貴を支えようと身体を捻った修威が足を取られて身体のバランスを崩し、それをしかめ面をした舟雪が片手で何とか受け止めた。うおう、とかおおうお、といった妙な声を上げていた修威がやっと思い出した調子で舟雪に礼を言おうと口を開いたそのとき、3人の足の下にあった地面がめりめりと音を立てて裂け始める。ぐらり、と舟雪の身体が傾いた。

執筆日2015/01/08

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