武器召喚! 後編
「あの……。クラク様の武器に付いて説明しても、宜しいでしょうか?カリカ様も、こちらに。」
また、空気になっていたアリアが二人に声を掛けた後、私にも声を掛けてくれた。
私は歩いて三人と二匹に近づいた。
テスカと同じぐらいの大きさのフェンが、またびくりと身体を震わせる。
三人は幸いにして気づかなかったが、これは気づかれると怪しまれるかもと、テスカの方を少し見ると、小さな声でこそこそと話をしていた。
「では、説明させて貰います。」
私は頷いて、雹堂の手にある武器を見た。
それは、白と黒の二本の双剣だった。柄の長さは、三十センチ程で、刀身の長さは約七十センチと言ったところだろうか。刃の幅は、西洋の剣らしく十センチ程で両刃となっている。もう片方も同じような作りだった。
「こちらの黒い剣は、イロアス。血を吸う剣で、血を吸えば吸う程攻撃力……斬れ味が良くなるそうです。そしてこちらは、モーギス。“浄化”の力を持つ剣で、加えて魔法での力が増大するそうです。そして、この双剣の最大の特徴は、イロアスを使いこなさないと、モーギスを扱う事が出来ないという点です。」
双剣の説明を聞いていくうちに、雹堂の顔付きが険しくなっていく……。
「どうして、モーギスを扱う事が出来ないの?」
何も聞かない雹堂に代わって、結衣がアリアに聞いた。
「戦いでは生と死のどちからしか取れないという事を、知らなければならないからです。……甘い考えでは、勝利を掴む事が出来ないという事ですね。」
結衣は神妙な顔になり、なるほどと頷いた。
「イロアスは、殺戮、激憤、苦痛の神。モーギスは、勝利の神。」
私がそう呟くと、雹堂が顔を上げた。
「覚悟を決めないとね。……そういや、俺は結衣の武器を知らないんだけど?」
戸惑いのない真っ直ぐな目をして、雹堂は言った。緊張の風が私達の間を通り抜けて行くが、雹堂はすぐに優しそうな顔に戻り、アリアと結衣に聞いた。
「言ってなかったね。私の武器はこれだよ。」
結衣は、ほぅと息をついてアリアから、武器を受け取り雹堂に見せた。
「杖?……名前は?」
「杖じゃないんだなぁ、これが。これは、杖刀。名前はセレーネだよ。」
雹堂が杖刀という単語にピンとこない為か、首を傾げる。
「じゃあ見ててね。」
結衣は雹堂にそう言うと、あたまの部分を引っ張り刀身全体を見せた。
雹堂は驚いたようで、口をぽかんと開けている。
「えっと、それで、セレーネの能力は……ん?」
説明をしようとして、結衣は首を傾げる。
「あっ、私とした事が……。セレーネは、杖の状態であれば魔力の流れを良くし、詠唱破棄をしやすくします。剣の状態では、魔力が纏いやすく、属性付加がしやすくなります。」
「属性付加?」
結衣がアリアに聞く。
「属性付加とは、魔力を纏わせる時に、その魔力自体に属性を付ける事が出来る事です。」
なるほどと二人が頷く。
それを見たアリアは、手を叩きながらさてっ!と言った。
「では、王が私達を待っていますから、部屋を出ましょうか。」
私達は扉を押し開けた。
「……やっと終わったか。ご苦労様だった。疲れただろう?今から案内をさせよう。話しはまた明日という形で、どうだ?」
部屋から出れば、すぐにミスリルさんから声が掛けられた。
ただ、矢継ぎ早に言われたわけじゃなく、ゆっくりと言われたので、驚く事はなく雹堂と結衣は答える。
「そうですね。そちらの方が、嬉しいです。」
「私もそう思います。」
私は頷いただけだった。
「分かった。では、そうだな……朝食を終えた後に、またここに集まってくれるか?」
私達ははいと答えた。
「うむ。では、メイドに部屋を案内させよう。アリアは先に戻っていていいぞ?」
「はい、お父さま。……では、クラク様、ユイ様、カリカ様また明日会いましょう。」
ここでアリアと一回別れる事になり、謁見の間の真ん中でメイドさんを待つ。
「カリカ殿は、少し残っていてもらえないだろうか?」
沈黙がすぐに訪れ、気不味い雰囲気でメイドさんを待っていると、ミスリルさんが私に声を掛けて来た。
「いいですよ。結衣や陰絇とは違って疲れていませんから。」
「華梨花……。」
結衣が私の名前を呼ぶ。
「大丈夫だよ。後で部屋にお邪魔するから、その時はよろしくね?」
安心させるように、雹堂と結衣を見ながら言った。
「うん。……あっ、メイドさんが来たみたいだから、先に行ってるね?絶対に来てね?……フェン行こう。」
「分かった。」
雹堂も結衣と同じように、テスカを連れて歩いて行った。
「で、用件は何でしょうか?」
二人の気配が遠くなったところで、私は口を開いた。
「カリカ殿は、どうするのかと思ってな。……クラク殿とユイ殿に着いて行くのか?」
「今の所はそのつもりです。……ですが。」
私はいったん言葉を切り、言葉を濁す。
「ですが?」
「ですが、この世界の事を知れば、気持ちが変わる可能性があります。それに、陰絇や結衣が元の世界に戻りたいというのであれば、私は帰る為の魔法を作る事を優先するでしょう。まぁ、結局は陰絇と結衣次第なんですけどね?」
私は苦笑する。
「そうか……。ではカリカ殿、今から使い魔召喚を行わないか?今後の為には、きっと必要な存在になって来るだろうからな。」
さて、どうしようか。この世界での召喚の仕方でやって見るのもいいのだが、私の血でやればどうなるか分らない。いや、うまくはいくだろうが、私が怖いからしたくない。
私が急に黙ったのが、不思議だったのか、ミスリルさんが私に声を掛けてくれる。
「どうした、カリカ殿?」
「あの……いま、王様だけになる事は出来ますか?」
私がそんな事を言えば、黙っていた大臣達がそれはいけないと騒ぎ始めた。
「王を一人には、出来ません!」
「……カリカ殿には、それが必要なのか?」
「はい。」
ミスリルさんが口を開く。私はその問いに即答すれば、ミスリルさんは頷いて、大臣達に下がるように言った。
最初こそ反対していたが、ミスリルさんが話を聞かない事を悟って、大臣達は渋々出て行った。
「ふぅ。これで隠さなくてよくなった。」
「ん?どうした?」
私がそう呟けば、ミスリルさんが私をじっと見て来た。
「では、単刀直入に言いましょう。……私は、魔術師です。」
「どういう事だ?……アリアからカリカ殿達の世界には魔法は無いと聞いていたが?」
ミスリルさんが、驚きで目を丸くしながら、私に聞いてくる。
「科学の発展した世界で、存在しないと言われていた魔法があると言われれば、その世界の人達は信じると思いますか?言わば、魔法……私達の所では魔術……は、裏の世界で存在していたんです。……私はその裏の存在。」
「この世界で、科学が発展している事が、想像出来ないように、カリカ殿達の世界ではその逆が起こっているということだな?」
私は頷き、続ける。
「まぁ、それはどうでもいいのですが、私は魔術師なので、使い魔がいます。それを言いたかったんです。」
「……それだけの為に、大臣をのかせたのか?」
ミスリルさんが、私を怪しんでくる。
「だからこそですよ。きっとそんな事を言えば、私は敵意を向けられて動けなくなる可能性がありますし、何よりもう王様は私を疑っているじゃないですか。」
「……。」
ほぅと私は息をついて、言葉を続ける。
「私は雹堂と結衣を最優先にして動きます。多分、二人は元の世界に戻ろうと言い出すでしょう。王様には、それを確実に用意出来ない可能性の方が高い。だって、あの召喚魔法陣を解読出来ていないのですから……。だからこそ、私はそれを果たさなければならない。もしあなたが私を信用出来ないのなら、私はここから出て行きましょう。」
「だからこそ、今はどうするのか迷っていたのか?
」
私は何も言わず、ただ無表情にミスリルさんを見る。
「済まなかった。」
「っ!……久しぶりに大人に本心から謝られましたよ。」
いつも私が謝る側だったから……。
「カリカ殿の過去を、私は知らない。だが、今の言葉で……いや、聞かなかった事にしておく。」
「その方がいいと思います。」
何かを言いたそうな顔をしていたが、私は気にしない事にした。
「時間を食ってしまったな。カリカ殿、部屋に案内してもらってくれ。」
「分かりました。では、また明日という事で。」
ミスリルさんにそう言って、私は来てくれたメイドさんに着いて行った……。
Other 二
ミスリルSide
カリカ殿に使い魔召喚をしてもらおうと、残ってもらったが、まさかあんな話をされるとは……。
カリカ殿はこの世界に来たというのにも関わらず、冷静に対処していた。
何かがおかしいとは思っていたが、魔術師だからこその事だったか。
私は自分の事ばかりで、カリカ殿を疑ってしまった。その時のカリカ殿の目は、何かを悟ったような、闇の底を見た事があるような、光の無い目をしていた。……あれぐらいならば、十七歳ぐらいだろう。その歳でしていい目ではなかった。きっと私は彼女に辛い事を思い出させたのかも知れない。そう思うと心が痛み、自然と謝っていた。
ーー久しぶりに大人に本心から謝られました。
彼女の声が頭の中に響く……。
彼女はクラク殿のユイ殿にとても心を開いていた。
私もいつか、彼女に心を開いてもらえるだろうか?
彼女は一体……どんな闇を抱えているのだろうか?
私は、自然と涙が出そうになるのを堪え、ぎゅっと手を握り締めた……。
Side out
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