武器召喚! 前編
「ここですね。」
謁見の間の右側にある部屋に入ると、勇者召喚の魔法陣とは違った魔法陣が二つあった。
「魔法陣が二つ?」
雹堂が、呟く。
「今から説明します。私達から見て、右側にある魔法陣が勇者様の武器を召喚するもの、左側は勇者様の使い魔を召喚するものとなっています。」
武器を召喚と言っているが、多分魔石から作る魔武器の事を言っているのだろう。
「分かった。……いよいよ、異世界って感じになって来たな。」
「なんかどきどきする……。」
さっきまで、なんだかんだ言ってたのに、順応早いな。さすが、勇者に選ばれる二人ってか。
私は呆れて物も言えず、ため息をついた。
……今日だけで何回目だろう。
「では、一人ずつ魔法陣の前に立って下さい。」
結衣が武器召喚の魔法陣の前に、雹堂は使い魔召喚の魔法陣の前に立った。
「ユイ様は、これを。」
アリアが、魔石を部屋の端に置いてあった、麻袋から取り出す。
「これは?」
結衣が受け取りながら、アリアに聞く。
「これは、魔石と言います。先程は武器を召喚すると言いましたが、少し違い本当は武器を作るのです。……どの勇者様からも、同じ武器しか作れなかったので、召喚すると言われるようになったんです。」
「これから、作られるんだ……。」
アリアの説明を聞きながら、まじまじと魔石を見る結衣。
「では、ユイ様、クラク様。この短剣で、指を切って魔法陣に垂らして下さい。」
アリアが気を取り直し、懐から短剣……刃渡り十センチ程の剣を二本取り出し、二人に渡しながら説明をする。
二人は、マジですかという顔で、それを受け取り、顔を顰めながら指の腹を少し切り、魔法陣に血を垂らした。
その瞬間、両方の魔法陣が強い光を放ちだし、あっという間に二人の姿が見えなくなってしまった。
光が収まり二人の方を見ると、結衣だけが立っており雹堂の姿が見えなくなっていた。
「……陰絇は?」
結衣もそれに気づいたようで、心配そうに辺りを見回す。
それはきっと……。
「多分、逆召還されたのだと思います。時々、勇者様の召還の時に、そのような現象が起こるらしいです。心配しなくとも、すぐに戻ってこられると思いますよ。」
安心させるように、アリアがゆっくりと結衣に言った。
そういや、私の時も逆召還されたなぁ……。
「そういや結衣の武器はどうなったの?」
ふと思い、結衣に尋ねる。
「そうだった……私の武器は、っと。……杖、かな?」
あれ?それは……。
「その杖は、セレーネと言う名なのだそうです。」
「それ杖じゃないよ?」
杖で話しが通って行っていることに、不満を抱き私はアリアと結衣の会話の中に割り込む。
「「えっ?」」
私が言った言葉に、二人が戸惑いの声を出す。
「それは杖刀。結衣、その杖の頭の所に切れ目があるでしょ?それを境目にゆっくり引き抜いてみ?」
「えっ?あ、うん。」
戸惑いながら、結衣は私に言われた通りのことをする。
カチッと音がし、杖から日本刀のような刀身全体が姿を現した。
杖刀の杖自体の長さは、百二十センチぐらいだったので、刀身の長さはきっと六十センチぐらいだろう。柄の長さは二十五センチぐらいなので、全体の長さは八十〜九十センチ辺りになるだろう。
「セレーネは、女神の名前。魔法の女神の名前を持ち、下界を照らし悪しき闇を払う存在。その杖刀、結衣にぴったりの名前だね。」
驚いている二人を見ながら、私は説明をする。
「……どうして分かったの?」
「ん?……見たことあるしね。」
結衣が、戸惑いながら聞いて来たので、私は遅れて答える。
「は?見たことあるって……。」
結衣が呆れた顔をしている。
「うーん。いつだったかなぁ……。数年前に、持ってる人がいてね?いろいろと見せてもらったんだよ。あっ、ちゃんと登録してるやつだよ?」
「聞いた私が馬鹿だった。」
本当は私が持っていただけなのだが、そんなこと言うわけにもいかず、とっさに違う話しを出した。これも、本当にあった話なのだが……。
結衣は最終的に、ため息をついてから、刀を杖の中に戻した。
「カリカ様は一体何者なのですか?」
アリアが結衣のように呆れて、私に聞いてくる。
「結衣と同じ異世界人だけど?」
「あぁ、もういいです。」
本当は、異世界人であり魔術師だけど……。
「アリアまでも……。ひどい、本当の事なのに……。」
私がしくしくと泣き真似をしていると、召還魔法陣から強い光がまた出てきた。
「戻って来られましたね。」
光が収まると、そこには黒豹を連れた陰絇がいた。
「お帰り〜。」
私は、わざと軽く陰絇に声を掛ける。
「ただいま。……えっと、こっちの黒豹はテスカトリポカだよ。」
「テスカトリポカだ。今回陰絇の使い魔になった。テスカと読んでくれ。」
「んなっ!」
三人と一匹がびくりと震えた。
「あっ、ごめん。まさか、創造神を召還するとは思ってなくって……。」
テスカトリポカは、創造神であり悪魔だ。世界を作り出す時に片足を失ったとされている存在だ。
「……華梨花って、なんでも知ってるよね。」
結衣がそう言うと、雹堂とアリアがすぐに頷いた。
「いやいや、そんなことないよ。一時期、それを調べるのにはまっててね……。」
「かり、か……華梨花?まさか……。」
結衣の言った私の名前に反応して、テスカがぼそりと呟く。
私はこれ以上何も言わないようにテスカだけに向けて殺気を放つ。
テスカはぶるりと震え固まった。
「ん?どうした、テスカ?」
それに気付いた雹堂が、テスカに話し掛けた。
「……いや、何でもない。まさか私の事を知っている者がいるとは思わなくて、驚いただけだ。」
テスカが、私の方を見ながらそう言った。
やはり、正体が暴露たか……。
「ねぇ、雹堂。テスカ触ってもいい?」
「テスカに聞いたらどうだ?そこは、俺の意思を優先させるべきじゃないだろ?」
「さすが、雹堂。」
私は笑って頷き、雹堂の腰まである大きさのテスカに近づき、目線を合わせるためにしゃがんだ。
「触ってもいい?」
「あ、あぁ。」
先程の殺気を放った時とのギャップがあったのか、戸惑いながらテスカが答えた。
「わーい。」
短いが、黒く整った毛並み。首から背に掛けてをゆっくりと撫でる。
「……お前は、あの“白銀の華梨花”なのだろう。」
雹堂達に聞こえないように、テスカが確信を持って聞いてくる。
「どうして分かったの?今の私は術式解放してないから、全体の五パーセントの力も出せてないはずだけど?」
「お前は、術式封印していても、力が漏れている。それに、お前の使い魔である、四神や他の奴の匂いがした。……まぁ、名前を聞くまで分らない程だったが……。」
術式封印とは、言えば私のためだけに作られた魔術だ。本来の力の二十分の一まで減らす事ができる。まぁ、それをしていても初期の魔術師並みの力を出そうと思えば出せるのだが……。
私は無意識の内に、魔術の掛けられているブレスレットをそっと触った。
しかし、私の使い魔達の匂いが付いていたとは、驚きだ。
消せていると思っていたのだが……。さすが、創造神。
「そっか……。うむ、テスカは気持ちがいいな。」
声の大きさを元に戻し、私は言った。
テスカは、急に話しが変わった事に目を白黒させながらも、気持ち良さそうにグルルと鳴いた。
「いいなぁ。華梨花!私も触りたい!」
私がテスカを撫でているのを見て、結衣が羨ましそうに言う。
「はいはい。……聞きたい事があるのなら、後で私のところにきてね?今は秘密にしときたいから。」
私は念を押すようにテスカに言うと、テスカは頷いた。それを見た後すぐにテスカから離れ、結衣にバトンタッチをした。
「あの……。ユイ様は使い魔をクラク様は武器を、召喚したいのですが……。」
「「あっ……。」」
空気になりかけていた、アリアが二人に声を掛ける。
「忘れてたんかい。」
おいおい、大丈夫か?
私が呟くように突っ込むと、結衣は私に武器預け、使い魔召喚の魔法陣に、陰絇はアリアに魔石を貰い、テスカに待っているように言ってから、武器召喚の魔法陣に走って行き、魔法陣に血を垂らした。
先程と同じように、両方の魔法陣から光が放たれる。
今回は、結衣が逆召喚される事なく、二人ともが立っていた。
「我を呼んだのは、お前か?」
暖かいテノールの声。見れば、銀狼が魔法陣の真ん中に立っていた。
「は、はい。えっと、ユイ=アサギリと言います。貴方は?」
「うむ。我はフェンリルだ。」
どもりながら、結衣が自己紹介をすれば銀狼……フェンリルも、それに答えた。
「……マジすか。てか、もふもふしたい。」
私がフェンリルに驚きながら、そんな事を言えば、私の足元にいるテスカに呆れられた。
「どうしたらそんな思考になるのかが不思議だ。噂に聞く“白銀の華梨花”のイメージが、崩れていくぞ?」
「そんな事、私は気にしないの。と言うより、フェンリルは私の事知っていると思う?」
私はまたしゃがみ込み、テスカを撫でながら、小声で聞いた。
今アリアは、近くに居ないので心配はないのだが、念の為に。
「知らないと思う。多分、先程まで封印されていたのだろう。力が弱まっている。」
「あぁ、なるほどね。……って、この状況やばくない?私の力漏れてるんでしょ?」
「あっ。」
テスカが間抜けな声を洩らした。
「……その時になったら、テスカが止めてね?」
「分かった。」
私が相当引きつった顔をしていたのだろう。テスカはすぐに了承してくれた。
「えっと、この後はどうすれば?」
私達の話しが終わり、立ち上がれば、結衣の戸惑った声が聞こえた。
「あぁ、そうだったな。我に名前を付けてくれれば、契約完了だ。」
魔術師の契約とは、また違うんだ……。
私はふむと呟きながら、関心した。
「魔術師と魔法師の契約の違いに関して、何か思うところがあったのか?」
「うん。まぁ、魔法はマナを身体に取り込む事が前提だから、そうなってくるのは分かる、かな?でも、ちょっと違和感がある。」
私の行動を見ていたのか、テスカがまた話しかけてくるので、そう答えれば、テスカは苦笑の声を洩らした。
「そうだな。魔術師は、契約相手に自分の魔力を送り込んで契約をするからな。違和感があるのは当然だ。」
私は頷いた。
「うーん。じゃあ、フェンリルから取って、フェンで。」
「うむ。相分かった。……ところで。」
「?」
名前が決まり、フェンリル……フェンが辺りを見回していた時、びくりと身体を震わせ、声を出した。
「テスカ……。」
「あぁ。行ってくる。」
やってしまったと、テスカの名前を呼べば、テスカは早々にフェンに向かって行った。
「フェンリルよ、久し振りだな。」
フェンリルの次の言葉を遮るように、テスカがフェンに声を掛ける。
「お前は、テスカトリポカ!」
「知ってるの?」
武器を手にし、近づいた雹堂が声を掛けた。
「あぁ。私が神なら、フェンリルは神獣だ。神を食ったとされている……な。」
「「なっ。」」
テスカが、フェンについて話せば、結衣と雹堂が驚いた声を上げた。
「テスカトリポカよ。今の我はフェンと言う名が付いている。その名で呼べ。 」
二人が驚いている最中、フェンがテスカに声を掛ける。
「分かった。ならば、私もテスカと呼べ。」
「相分かった。」
フェンが、テスカの言葉に頷いた。
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