勇者召喚! 後編
今回、シリアスな場面が急に入ってきます。
シリアスが楽しいと一時期暴走していた時期がありまして……。
側から見たらきっと可笑しい人だったんだろうなぁ……なんて思ってみたりするのですが、まぁ楽しんでもらえれば幸いです。
直球だななんて考えながら、再度私は俯いた。私の予想は当たっていたようだ。
「なっ……!」
「どう言うことですか!」
二人が、その言葉に対して叫ぶ。そんな二人を見て、私はなんとも言えない気持ちになり、顔を上げて二人を見た。
「おっ、落ち着いてくれ。単刀直入に言ったことで、混乱したのは分かるが、落ち着いてくれ。」
ミスリルさんが、私達の反応に驚きながら、優しく声を掛けてくれた。
「「すみません……。」」
二人はハッとし、同時に謝った。
それを見て、ミスリルさんはほっとしたのか、言葉を続ける。
「さっき言ったように、ここはあなた様方のいた世界ではない。私達が、この世界に強制的に連れて来たのだ。……つまりは、この世界に選ばれ召還されたと言った所だろうか……。」
二人の顔がまた引きっつていく……。私はそれを見ていられなくて、また俯いた。
「じゃあ、あの時床にあった模様は……。」
雹堂の声が聞こえた。
「うむ。あれは、勇者召還の儀に使用される魔法陣だ。」
雹堂に合わせて、ミスリルさんが言葉を繫ぐ。
「私達は、帰れるんですか?」
今度は結衣の声。
「……。今まで、勇者召還された者で、最後帰れた者はいないと聞いた。今、魔法陣を分析して、送還魔法陣を作ろうとしている所だ。難航しているが……。」
「そんな自分勝手な!」
ミスリルさんの言葉を聞いた結衣が、悲痛の声を上げる。
「自分勝手なのは分かっておる……。だが、この世界の事情を聞いて欲しい。それからならば、いくらでも愚痴や罵倒は聞こう。」
ミスリルさんは、苦しそうな声を絞り出す。
この言葉の応酬は、感情希薄な私でも堪えるものがあり、私は耳を塞ぎそうになった。
「結衣、落ち着いて。王様も落ち着いて下さい。」
その応酬を止めたのは、雹堂だった。
私は耳を塞ごうとしていた手を止め、苦痛に歪めているだろう顔を上げる。
気づけば、二人とミスリルさんは私の方を見ていた。
「やっぱり……。泣きそうな顔してるだろうなと思った。さっきの罵倒のし合いは、華梨花にとっては辛いものだろうからね。さっきも耳塞ごうとしてたし……。」
私の過去を知っている雹堂は、私を心配そうに見てきた。
こう言う、気遣いに対してはやっぱり雹堂には負けるなと私は思い直し、無理矢理に微笑んだ。
「さすが、私の幼馴染。」
もしかしたら、私の過去を知っている雹堂は、私が隠し事をしている事を分かっているのかもしれない……。
雹堂は、そんな私を見て顔をしかめていた。
“相談には乗るからな。”
そう言ってくれているようで、私は雹堂にありがとうと心の中で、呟いた。
「……華梨花。」
結衣にポツリと呟くように名を呼ばれ、私は結衣と向き合った。
「どうしたの?」
「……辛かったら、ちゃんと言ってくれないと分からないんだからね。さっきみたいに、黙って耐えるのは無し。私達は、親友でしょ?」
「うん。」
結衣も雹堂もあったかいなぁ。二人は似た者同士。結衣は、雹堂の心の傷を癒し、雹堂は結衣の心の支えになる。だからこそ、二人は親友であり、恋人たり得ているんだと、改めて痛感させられた。
「……さて、王様。この世界で、俺達を召喚した事には、事情があるのですよね?話してもらえませんか?」
私が落ち着いて来た所で、雹堂が話しを戻そうと、ミスリルさんに声を掛ける。
ミスリルさんは、私達の事を優しく暖かく見守ってくれていた。
急に話しかけられた事に慌てているミスリルさんに、なんだか申し訳なく思いながら、私は気持ちを切り替える。
「……見苦しい所を見せてしまったな……。この世界の名前はアクリアス、ここには一つの大陸に五つの国がある。一つはここ、中央の国グラキスーー」
ミスリルさんの説明を長かったので簡単に要約すると、この世界はアクリアスで、一つの大陸に五つの国があり、中央の国グラキス、北の国フシル、東の国サクラス、南の国アギナ、西の国キルミナ。
どのような国かと言うと、グラキスは人間、獣人、エルフ、ドワーフの数が平均的で、奴隷制度がない。治安も安定しており、旅人がよく訪れる国。
フシルは獣人が多く住んでおり、グラキス、サクラスと同盟を結んでいる。奴隷制度は無く、治安はグラキスよりかは悪いが落ち着いている国。サクラスはエルフ、ドワーフが多く住んでおり、グラキス、フシルと同盟を結んでいる。
ここは、武器がとても発展しており、旅人が武器を求めよく訪れる。奴隷制度は無く、治安はフシルと同等。
アギナは人間が最も多く、どことも同盟を結んでおらず、奴隷制度は表では禁止しているが、実際には存在している。治安はとても悪く、人攫いが日常茶飯事。グラキスを乗っ取ろうと目論んでいる。キルミナは魔族、魔獣、魔物しかいない国。
現在も魔王が統治しており、他四つの国を乗っ取ろうと、進行中。国に入った人間達は皆殺されているので、国の情勢はよく分かっていない。はっきり言えば、謎だらけの国。
説明が長くなってしまったが、ミスリルさんの方が長っかったので、これで許して欲しい。
まぁ、わかっていると思うが、私達が召喚された国はグラキスだ。
王族の苗字の部分に、どの国も国の名前が入ってくるらしい。
……分かり易過ぎる。
それは置いといて、最後の国の説明で分かってくれたと思うが、魔王による国への進行を止めて、魔王を倒すまたは、協定を結びたいために、私達を召喚したと言うわけだ。
「……言いたい事は分かりました。何故私達を召喚した理由も分かった訳ですが、どうして同盟を組んだ国と一緒に戦おうとしなかったのですか?」
結衣が、話しを聞き終わった後に、ミスリルさんに聞いた。
「いや、戦おうとしたのだ。……実際には、兵を集めてキルミナに行かせたのだが、どの国の兵も帰って来なかったのだ。どうする事も出来なくなり、逃げる事が出来なくなったからこそ、勇者召喚に踏み込んだのだ。ユイ殿の言いたい事は分かる。だが、こちらも後戻り出来ない状態なのだ……。」
苦虫を噛んだような顔で、話すミスリルさん。
結衣は、なんとも言えない顔をして、雹堂の方を向いた。
「……分かりました。助けを求めるために、俺達を呼んだのでしょう?であれば、俺達は魔王の元に向かう事にしましょう。」
雹堂は、はっきりとそう言った。結衣は、やっぱりと言う顔をして、私も行きますと言った。
ミスリルさんは、ありがとうと私達に頭を下げて来た。ミスリルさんの元に控えていた、大臣らしき人と、二人が顔を上げて下さいと慌てている。
「……あの、空気を悪くするようで悪いのですが、召喚された時に勇者は二人だと言っていたのを聞いたのですが……?」
本当に悪いと思ったが、これだけは聞いておかなければならないと、声を出す。
それを聞いたミスリルさんがはっと顔を上げ、私の方を見た。
他の人達も私の方を見る。
「……それなのだが、おそらく一人巻き込まれて召喚されたものがいる。心当たりはあるか?」
あぁ、完全に私だな。
「華梨花ですね。召喚される時に、俺達を助けるために飛び込んで来ましたから……。」
私が答える前に、雹堂が言った。二人の方を向けば、結衣もうんうんと頷いている。
「それは……済まなかった、カリカ殿。」
「謝らなくていいです。これは、自分がしたくてそうしたんです。その結果がどうなろうと、それは自業自得なんですよ。」
私がミスリルさんをフォローするためにそう言うと、雹堂と結衣に華梨花らしいと笑われた。
むすっとしながら、ミスリルさんの顔を見ると、ぽかんとしていた。
「罵倒されるかと、帰してくれと言われると思っていたのだが……。」
ミスリルさんが、そう呟く。
「華梨花はそんな奴ですよ。他の人と、違う発想を持っているから、俺と結衣は華梨花と素で話せるんです。」
「雹堂は、いつも素じゃない。」
雹堂がそんな事を言うが、私は実感が湧かず、雹堂に突っ込みを入れた。
それを見て、結衣は笑う。
「っと、話しはまだあってな、勇者二人に渡すものがあるのだ。アリア、案内してやってくれ。カリカ殿はどうする?クラク殿とユイ殿について行くか?それとも、ここで待っているか?」
どうしようか、きっと渡すものは武器なのだろう……。剣と杖っと言ったところだな。ふむ。見てみたい。
「ついて行きます。」
「そうか。では、案内してやってくれ。」
その言葉で、アリアがこっちですと歩き始めた……。
* * *
カリカ殿は、一体どのような過去を持っているのだろうか……。
私とユイ殿が、罵り合っている時に見せたあの顔、悲しみよりも苦痛、恐怖が強かった気がする。
言い方からして、クラク殿はカリカ殿の過去を知っているのだろう。クラク殿までもが、泣きそうな顔をしていた事から、相当なものなのだろう。
しかし、それよりもその後が凄かった。
少し声を掛け合っただけで、カリカ殿が笑ったのだ。心配をかけまいとして笑ったのかも知れぬが、互いを心配し合うその絆は大切にしてもらいたい。
クラク殿とユイ殿の絆は、どこかの夫婦のような感じのものであった。あの二人はきっと、親友であり恋人と言うところだろうか……?
アリアはクラク殿に惚れているようだったな……。さて、どうなるか。
クラク殿とカリカ殿はまた違い、親友と言うよりも兄弟と言う印象を持った。きっと、小さい頃から仲が良かったのだろう。
ユイ殿とカリカ殿は、親友であるところの絆だろうな。
私はほぅと息をついて、三人が帰って来るのを待った……。
誤字、脱字、感想などあれば、コメントよろしくお願いします。
今回の話で一つ説明できるようになったものがあったので、説明させて頂きます。
○怪異
人々が普通起きないような、超現象の事をそう呼び習わしている。
しかし本来は、魔術師の起こした魔術、またはその行為の後の魔力の残り香が引き起こすもの。
今回は、異世界からの魔法の力で引き起こされたものだったのですが、本来の怪異の意味は上記の通りです。