勇者召喚! 前編
やっと来ました勇者召喚!
前置き長くてすみません。
「うわっ!」
「にゃっ!」
「ふわっ!」
上から雹堂、結衣、私という順番に、先程の魔法陣の描かれた大理石の上に落ちた。
「痛っ……と、ここは?」
雹堂がすぐに立ち上がり、声を上げる。
私は、先程落ちた時に腰を強か打ち付け、呻いた。
「痛っ!さっきからなんなのよ、もう。」
結衣は悪態をつきながら、打ち付けた所を手でさすっている。
痛みがゆっくりと引いていく中、私は結衣に大丈夫かと声を掛けながら、あたりを見渡した。
そこには、真っ黒のフードを被った、ローブの人達がずらりと並んでいた。ふと、服を引っ張られた感じがし、横を見ると結衣が顔を強張らせたまま、私の制服の袖をぎゅっと握っていた。私は、無意識の内にその結衣の手を両手で包み、緊張のために息をつく。
「どういうことだ!」
「今までの召喚では、勇者は二人だと聞いていたが……?」
真っ黒のローブの人達が、それぞれに叫んだり、呟いたりしている。結衣の手を包みこんでいる手に、自然と力が入る。
「静まりなさい。勇者様方が、怖がっておられます。」
魔法陣が出て来た時に聞こえた女の子の声が、その中で大きく響いた。それに合わせて、ローブの人達が、静まり辺りが静寂に包まれる。
「失礼しました、お見苦しい所をお見せして。」
ローブの人達の中から、一人魔法陣の中に入りながら、フードを取り女の子がそう言った。女の子は、金色の髪を腰まで伸ばし、若草色の綺麗な目をした容姿をしていた。年は、私達よりニ、三歳下ぐらいだろうか。
「……あの、これはどういうことですか?」
雹堂が戸惑いながら声を出す。
その間に、私と結衣は立ち上がり、雹堂に近寄る。
「これは失礼しました。あなた方は今回私達の行った、勇者召喚の儀で召喚されました。今は、それぐらいでよろしいでしょうか?後で、この世界についてはお教え致しますので……。あっ、私の名前はアリア=リュース=グラキスと申します。この国の第一女王です。」
雹堂は、先程の説明ではよく分からなかったのか、顔をしかめていたが、最後の自己紹介で雹堂は表情を変えた。
「俺の名前は雹堂陰絇です。グラキスさんの言ったように言えば、クラク=ヒョウドウですね。」
微笑みながら、女の子……アリアさんに向かって言う。
あぁ、またハーレムが形成されていく……。
あの微笑みで、アリアさんが落ちた。
ため息をつきそうになるのを、我慢しているとふと視線を感じ、見て見るとアリアさんが、私と結衣を見ていた。先に私は結衣に自己紹介するように促す。
「えと、私は朝霧結衣です。さっき、グラキスさんが言ったように言えば、ユイ=アサギリになります。」
しどろもどろになりながらも、結衣は自己紹介を終わらせる。
アリアさんの視線が、私に向く。
「私の名前は、添木華梨花です。さっき、結衣が言ったようにいえば、カリカ=ソエギです。」
アリアさんは、こくりと頷いた。
「えっと、クラク=ヒョウドウ様、ユイ=アサギリ様、カリカ=ソエギ様ですね。先程、ヒョウドウ様アサギリ様がグラキスさんと呼びましたが、私のことはアリアで大丈夫です。」
アリアさん……アリアは、私達の名前を確かめるように言い、名前の呼び方を指摘して来た。
「分かりました。では、こちらもそのように呼んでください。ついでに、敬語も辞めてもらえると嬉しいのですが?」
それに対し、雹堂もやんやわりと、アリアに言った。
「この口調は癖なので……。では、クラク様、ユイ様、カリカ様とお呼び致します。私と話す時は、敬語ではなくていいですよ。」
アリアは申し訳なさそうにそう言う。
それを見た雹堂は、癖なら仕方ないねと言って苦笑した。
そんな光景を見ながら、ふと結衣の方を向くと、結衣は嬉しいような悔しいような顔をしていた。きっと、嬉しいのは敬語で話さなくても良い相手ができたため、悔しいのはアリアと雹堂が、楽しそうに会話しているからだろう。結衣も、お疲れさまだなと考えていると……。
「今から父の……王の所へ向かいます。ついて来てください。」
いつの間にか、ローブの人達を解散させたアリアが、私達に声を掛けて歩き始めた。
また、アリアと雹堂が話し始めるような気がしたので、私は結衣の背中を押しアリアと雹堂の横に並ばせ、三人の後ろを歩くことにした。
楽しそうに会話している声を背景に、私は思考に耽る。
まさか、召喚したりする側の存在が、召喚されることになるとは思いもしなかった。
召喚されたということは、ここは異世界である可能性が高い。ならば、何故言葉が通じているのだろうか……あぁ、あの時の魔法陣。きっと、それにくぐった者に対して発動する翻訳の魔法陣も、一緒に組み込んであったのだろう。
私はほぅと息を吐き、思考の海から出る。
前を見ると、廊下の突き当たりに、大きな扉が見えた。
アリアは、私達の方に向き見てて下さいと言って、扉と向かい合った。
『風の第一魔方陣、扉を押し開き我らに道を与えよ。魔方陣展開!』
すると、扉に大きな……二メートル程の魔方陣が浮かび、辺りに強い風が起きる。私はなびく髪を手で押さえつけながら、周りの人に見られないように、顔をしかめた。
あの詠唱は、また此方の物とは違う。……でも、あれは無駄に力を使い過ぎている。いくらマナが空気中に溢れているとはいえ、もう少し量を調整するべきだ。
まぁ、私……地球での魔術師の場合空気中のマナは使わないのだが……。今更だが、私は魔術師だ。魔法師とは少し違う。……魔術と魔法の違いから言っておこう。魔術は人それぞれの体の中にある魔力を使い、奇跡を起こす。だが、魔法は違う。魔法は、空気中の魔力……マナを体の中に貯め、奇跡を起こす。
他にも、小さな違いが何個かあるのだが、これぐらいでいいだろう。
……どうやら、この世界は魔法が主になっているようだった。先程のアリアが、詠唱をしたときにマナが集まってくるのが分かった。
「魔法⁉︎」
「すごい、妄想の中の世界だけかと思ってた……。」
雹堂と結衣が、それぞれ呟いたのを聞き、私はまた思考の海に潜っていたことに気づいた。
私は、苦笑しそうになるのを我慢しながら、すごいと二人に合わせるように、呟いた。
それを聞いたアリアが嬉しそうにしながらも、顔を引き締めて言った。
「では、お入りください。王が、お待ちです。」
私達は頷き、謁見の間に入る。
目の前には、豪華な椅子に座った四十代半ばと思われる、男性が座っていた。
「来たか。ご苦労だった、アリアよ。部屋で休んでいていいぞ。」
温かみのある、バリトンボイスが部屋に響く。
「……いえ、大丈夫です。ここで、見ています。」
アリアは、少しの間悩んでから答えた。
王はそうかと頷き、私達の方を向いた。
「勇者様方、ようこそいらっしゃいました。私の名は、ミスリル=ガイス=グラキスと言います。」
「クラク=ヒョウドウです。」
「ユイ=アサギリです。」
「カリカ=ソエギです。」
王……ミスリルさんの自己紹介に合わせて、私達も名前を名乗る。
私は王の前なのに、跪かなくていいのだろうかと、らしくも無いことを考えながら、ミスリルさんを見る。
何を考えていたのかは分からないが、二人もミスリルさんのことを見たようだ、ミスリルさんが口を開く。
「アリアから、話しは聞いたか?」
雹堂と結衣は困ったように、顔を合わせた。私はどうすればいいのか分からず、アリアの方を見た。
「勇者召還の儀でここに来た、と言うのは伝えたのですが、ちゃんと伝わらなかったようです。」
アリアは何とも言えない顔をして、私達の代わりに答えてくれた。
「……ふむ、なるほど……。ならば、一から説明した方が早いな。……勇者様方。単刀直入ですが、ここはあなた様方のいた世界ではありません。」
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