日常の中で 後編
前置きが長くてすみません!
ほのぼの大好きです、はい。
前置きが長いのは私の性分なんでさぁ…
説明で文章が読み難くならないように、ちょこちょこ分散させて中に入れて行こうと思っていますので、ご了承下さいm(_ _)m
元の副題は
行動開始! 後編 でした
* * *
帰りのHRが終わり、ふと結衣の方を見たところで、ですよねとつい呟いてしまった。合わせて、鋭い視線が飛んでくる。
「……先、行ってるよ。」
その先の言葉は言わなかった。いつもの事だ、彼女も分かっていると頷き、一緒に帰ろうと声を掛けている子達に断りを入れ出した。
そうやって嫌に引っ付いてくる人って嫌われるのに、どうして分からないのだろうか?少しぐらいさばさばしてるぐらいが、ちょうど良かったりするのだ。……人に構われ慣れてる人は特に。
きっと彼女の事なので、代理委員長の仕事もしてくるだろうし、もう少し時間が掛かるだろうと、私は昇降口とは逆の方向に足を向ける。
高校の校舎の中央には高さは二階分、広さは教室五倍以上。普通に読む小説に加え、三年生がよく借りる職業や小論文などの本が多く棚に並んでいる。
この高校を私が選んだ理由は唯一つ、これに限る。小説を買うにしても手に入れれる量は限られてくるし、気になっている書物に絶版になってしまった物も多くはない。そう言った小説達が多く集まってくるうちの高校の図書館は、私にとっては天国のような場所なのだ。
次は何を読もうかな。この前本棚を見た時に気になっていた小説の題名を頭の中に思い浮かべながら、私はくすりと笑う。
放課後、廊下ですれ違う人がいるにしても、大概は外へ向かう人が多い。外から部活動で声を張り上げている教師や部員の声が、窓に遮られながらも廊下で緩やかに響く。廊下自体の静かさをより一層に感じながら、私は目的の場所の扉をそっと開け、滑り込んだ。
先程までの廊下とは違う緊張感のある心地よい空気に私はほぅ、と息を吐き出し、目の前に映る司書の先生に軽く会釈をする。彼女もよく来る私の顔を見て笑みを浮かべ、こくりと頷き、何時ものように手を動かして彼のいる場所を示してくれた。
本当に、いつもいつもすみません、と苦笑すればいいのよと彼女は首を横に振る。図書館に向かった理由はもう一つ。彼の探索である。
私は先程示された場所……外国の翻訳小説の本棚へと進み、その姿を見つけた。
「……あ、華梨花。今日もまた小説を借りるの?」
「えぇ、誰かさんと違って逃げてくるわけではないので。」
「うっ……ちょっと、敬語は止めて。」
「煩い……結衣が心配してたよ。」
私の言葉に顰めっ面になり、彼は私の眼の前で項垂れた。
そんな事になるの分かってるのだから、最初っからしなきゃいいのに、なんて思っても口に出せない様な事を思いながら、私は彼の肩をぽんぽんと慰める意思を込めて軽く叩く。
彼もそんな性格だよね、本当に。結衣と付き合うにしても、彼自身の人の良さに吊られて付きまとう人達が多いのだから、表向きの話に出来ない。知っているのは私と……私のもう一人の親友だけであろう。
もし結衣と付き合っている事がばれた時、一体どうなってしまう事やら。ある意味良いカップルだと取れるか、それとも嫉妬し、彼女に危害を加えるか。前者は良いとしても、後者は逆恨みにも程がある。……まぁ、私がそんな事させないけれどね。
くすり、仄かに口元に笑みを浮かべれば、彼はきょとんと顔を上げたと同時に首を傾げた。
「どうしたの、華梨花?」
「いんや、なんでもないよ。」
私は頭を軽く横に振りながらそう返し、口元の笑みをかき消した後に本棚の方に視線を移す。彼も私の視線が動くのに合わせて顔を動かす。
「今日は委員長も休みだったから、大変だったんだよ。」
「珍しいな。委員長が休むなんて。」
「まぁ、あの人は風邪気味でも学校に来そうだからね。」
「今日はお見舞いに付いて行くの?」
「ご名答。」
今回は外国小説を読む予定はなかったので、場所を移動するついでに会話を続ける。
結衣と彼との出会いからは、私と比べたら短いが、お互いの事を分かっていると思う。……いや、お互いが似た者同士だから、やる事が通じているのか。
前に読んでいた小説の続き二冊に、同じ作者の違う小説を一冊手に取り、他にはないかなと辺りを見渡せば、分かっているとでも言いたいかの様に、彼が一冊私の背中側から取り出して渡してくる。
「探してるの、これだろ?」
「ありがと。」
これでも小学校からの付き合い、案外私の好きなジャンルも分かっているらしい。目当ての物を見つけたので、私は彼と並んで移動しながら、手提げ鞄から借りていた小説を取り出し、それと合わせて借りる小説も同時に出す。
「これ、お願いします。」
「俺も付いて行って──」
「いいよ。私的にもその方が嬉しい。……それから雹堂、結衣に怒られるの覚悟しておいた方がいいよ。」
「……だよね。」
もう何時もの事だから、となんとも言えない表情と声でぼそりと同意の声を上げ、彼は人差し指で頬を掻いた。
その光景は見慣れている、そう言いたいかの様に、司書さんはくすくすと小さく笑いながら私に借りる方の小説を手渡してくれた。私は苦笑しながら頭を下げると、彼女はお疲れ様、と小さく声を掛けてくれる。
「……さて、行こうか。」
「あ、ちょっと待ってて。荷物取ってくる。」
私は頷いて、先に廊下に出てると背中に声を掛けて、図書館から出る。司書さんに頑張れ、と何故か応援されたのは気にしない事にする。
小説を鞄に入れながら廊下にまた出れば、ちょっとした開放感に満たされて、私はついほぅ、と息を吐いた。ついつい、あそこは無意識の内に緊張してしまうんだよね、とらしくない事を思いながら、私は向かい側の壁に凭れ掛かる。
「先に行ってる、って言った方が良かったかな。」
「結局待ち合わせする場所は同じなんだから、それぐらいいいじゃん。」
ちょいと、先の事が分かるので、ぼそりと思った事を口に出せば、いつの間にか出てきていた雹堂にそう返された。
「あれ?そんな事いつ言ったっけ?」
「説明するにしても、何時もの場所って言うつもりだったくせに。」
「まぁ、そうだけどね。」
こう言った場面は私達三人の中では良くある事なので、逸れても大丈夫な様に待ち合わせ場所は一箇所……正門前に決めているのだ。
目立ってはしまうけれど、見つけ難いよりかはそちらの方がまだマシだし、何より正門前だとそのまま逃げやすいのだ。……特に私が、視線と言う名の拷問から、だけれども。
「そう言えば、結衣はどうして一緒にいなかったの?」
「委員長代理の仕事の処理中。」
「あっちゃぁ……。」
「これは雹堂の自業自得だよ。」
「分かってる分かってる。」
彼は良く学校に来ては先生に頼んで擬似的な休みを取るのだ。なんだかんだとそれでもテストに関しては上位者なのだから、不思議なものだ。
休む理由としては一つ。私達に危害が及ばない様に、だ。……女子は男子よりも怖い、とだけ言っておこうかな。
昇降口に着き、上靴と下履きを履き替えて外に出る。夏休みが終わり、少しずつ気温も落ち着いてきているが、外の空気は残暑で未だに暑さは消えてはいない。未だに運動場の方面は喧騒に満ちている。うちの高校の部活生は全国大会に出ている人達もおり、まだ当分落ち着かないだろう。
前夜祭から始まり、文化祭、体育祭と連日に続く、所謂私達の高校の名前を取って日沙月祭は、まだ当分先だ。私達の場合は他の学校と比べて一ヶ月遅く、そりゃもう盛大に賑わう。日沙月大学との連合で行う、という事もあって私達の住む辺りでは有名な話である。
「あれ?」
「まだ来てないね。まぁ、もう直ぐしたら来るだろうし、私は本読むよ。」
「えー。」
俺何もやる事ないじゃん、とむすりと表情を変える雹堂。
私は鞄から出そうとした冊子をそのまま元に戻し、私は自然と長く息を吐き出しながら、ちょこちょこ刺さる視線から逃げる様に少しの間だけ目を瞑ってみる。
「さて、こうも毎度の事ながら、雹堂は気付いていますかね?」
「何が?」
「妙に人の視線を集めている事に、だよ。」
「何その口調……まぁ、気付いてない訳ではないけど、気になる程ではないね。」
「羨ましいわ!」
人との付き合いがあまり好きではない私にとって、そのスキルは羨まし過ぎる。……と言うか、職業柄そう言った視線に敏感でなければやってられないものなので、結局羨ましくても欲しいとは思わない。
不機嫌な声を強調させて彼を軽く睨めば、なんで、と不思議そうに首を傾げられた。
「……うん、まぁ知らなくていいと思うよ。」
「意味が分からないのだけれど?」
「分からなくてよろしい。」
「はぁ……。」
曖昧に頷く彼を見て、私はくすくすと笑った。やはり彼は、興味のあるもの以外はてんで気付かない。その視線が恋慕の物である事も、私に向かう視線には嫉妬の意味が込められている事も、彼はきっと知らずに生きていくのだろう。
まぁ、私に嫉妬しても御門違いなのだけれどね。ご苦労様、と心の中で私に視線を送る人達に一種の労いであり、皮肉を述べてみせる。
「ごめん、華梨花!まっ……なんで陰絇が此処にいるの?」
「大丈夫、図書館寄ってたしね。」
あえて結衣の問い掛けに答える真似をせず、一つの返答で、遠回しにその解答に辿り着くための道を教えれば、彼女はまたかと彼の目をじっと見た。雹堂は困った様に身体を揺らした。
私の方に視線を寄越してくるけれど、それは自業自得だと視線を見当違いの方向へやり、それをやり過ごす。
「また⁉︎本当に、それは何度も止めてと言ってるでしょう?」
「いや、そうなんだけど。」
「だけど?」
「結衣が大切だからね。……もちろん、華梨花もだから。」
結衣は彼のストレートな発言に手で顔を覆い、恥ずかしいと耳を赤くさせながらなんとも言えない声を上げる。初心だねぇ、と呟いてみれば、結衣に背中を叩かれた。
「痛いなぁ。」
「年寄りくさい事言わないの!」
「でも、本当の事だから仕方ないでしょ?」
うぐ、と言葉を詰まらせる彼女を傍目に、私は彼等の後ろに回って片腕ずつで二人の背中を押す。
「はいはい。そんな事言ってないで、早く行こう。」
「暗くなってから帰るのは心許ないからな。」
私の言葉に雹堂が同意したところで、彼女は私にまだ言いたい事があったのか、むすりと頬を膨らませながら背中を押されるがままになっている。
「陰絇。」
「何?」
「次からは──」
「善処するから大丈夫。」
「この前も同じ事言ったのに!」
やいやいと微笑ましい言い合いを眼の前で繰り広げられる。
私は携帯を取り出して時間を確認した。まだ、四時半か。委員長の家までは徒歩十五分、と言ったところなので、長引かなければ家の方向は正反対ではあるが、陽の入る前には帰る事は出来るだろう。
そう言えば、と今日の夜の予定について思い巡らす。
私の雇い主からの呼び出しは此処最近はレジスタンスによる反発による反発で、鳴りを潜めている。……所謂嵐の前の静けさ、と言った方が分かりやすいかもしれない。
今日は私の仲間との打ち合わせ。また大きな抗争に合わせて裏でちょろちょろと動き回らなければならない為、それぞれに話を合わせておかないと、全員がばらばらになってしまうのだ。特に、私の雇い主の目を欺いて動かなければならないというのが、何よりも面倒くさい。
別に私の正体は性別しか教えていない……と言うよりも、知られていないから、私の毎日の行動が制限される事はない。その職業の姿の時に怪しい行動が出来ない、と言う事だ。……ある程度既に怪しい動きをしてしまってはいるが、別段咎められる事もなかったので、あまり大きな話にはなっていないのだと思いたい。……若しくは、敢えて監視役が上に情報を明け渡していないのか。その場合は一体どうなるのか見当もつかない。
「華梨花?」
「ん、何?」
「早くしないと置いて行っちゃうよ!」
「ちょっ、待ってよ二人とも!」
「落ち着け、華梨花!走らなくても置いて行かないから!」
考え事をしている内に歩く速度が落ち、相当二人との間に距離が出来ていた。
楽しげに私にそう言ってくる結衣に、慌てて走る私に落ち着けと声を掛けてくる雹堂。私を変えてくれた二人には感謝しても仕切れないんだから、そう小さく呟いて私はくすりと笑った。
誤字、脱字、感想などあれば、コメントよろしくお願いします。