過去編〈ある一夜〉 後編
やっとこの章が終わりました。
次から当分の間は本編を突き進みます!
『我、封印する者。封印する対象は魔力。発動せよ。』
私の中にある魔力が左腕を伝って吸い取られていく。身体の中に空気が入っていくような、気持ちの悪い感覚。
少しすればそんな感覚も無くなり、私は安堵の息をついた。その間、三分。
「終わったか?相当魔力を閉じ込めたようだが?」
「ん、大丈夫。まだ、上級の魔術師ぐらいは残ってる。」
「……まじかよ。」
三分間でどう説明したのか知らないが、右手を顎辺りに持っていき、黒萩はぶつぶつとそう呟いていた。
「大丈夫?」
「大丈夫……じゃない。」
お、おぉう。
「黄竜、何て説明したの?」
「ただ、華梨花は白銀だと。」
「え?それだけ?」
そうだが何か?と不思議そうな顔をする黄竜。
あぁ、そうだった。黄竜は回りくどいことが嫌いなんだった。説明させる人選を間違えた。
「うん。黄竜らしいけど、単刀直入過ぎるでしょ、それは。」
呆れ声しか出ない。
「では、それ以外にどう言えばいいと……?」
「……うーん。先に私の魔力量を言うとか?」
「いや、どの道それを言っても驚いていたと思うぞ?」
「ぇ?そうなの?」
今度は黄竜が、私の反応に呆れたようにため息をついた。
「どこを探しても四神と同等の魔力量を持つ魔術師なんか、華梨花、お前しかいない。」
「あっ、そうだった。」
私は黄竜に言われた事に今気づき、今更ながらにそうだったなぁ……と頷いた。
「普通に話しているように見えるのに、内容が……。」
私と黄竜が話しているのを聞いていた黒萩が、頭を抱えてしゃがみ込みながら呟いた。
「いやいや、普通だよ?」
「普通じゃねぇからな!?」
どうなったらその内容が、普通になるんだと途端に立ち上がった黒萩に詰め寄られながらも、そう言われた。
私は、別にわざと言った訳じゃないんだけど……。
「そう言ってやるな。お前のように普通に話してくれる魔術師などそんなにいなかったのだ。」
「……そうか、そうだったな。」
なんか、私の扱い酷くないか?まぁ、言っていることは合っているけれども。
黒萩の慌てたと言うか、焦っているようなその様子に、黄竜がそっと私と黒萩の間に入りながらそれ言えば、ぴたりと動きを止めてからひとつ頷いた。
「……話が進まないから、一旦整理させてくれ。」
「いいよ。」
「まず、そこにいる黄竜はお前の使い魔だよな?」
「そうだよ?」
黒萩は、疲れたように移動してからゆっくりと椅子に座り、私にそう言ってきたので、私は頷いた。
「じゃあ、さっきお前の言っていたように、魔力量は四神と一緒ぐらいなのか?」
「うん。」
「俺を刺した刀以外にあったもう一つの刀は、草薙剣か?」
「うん。」
「じゃあ最後に、お前は白銀なのか?」
「……そうだよ。」
最後の質問は、やっぱり言いにくくて、私はゆっくりと答えた。
「そうか……じゃあ、お前は“白銀の華梨花”、だなっ!」
「え?」
「なんだ、不満か?」
少し気不味そうな顔付だったと思えば、次の内には笑顔になってこんな事を言ってきたので、私はどう反応していいか分からずに、固まった。
それが嫌がっているように見えたのか、黒萩はむすっとした顔になりそう言った。
「黒萩彰人、それは単純過ぎやしないか?」
「うっ……いいじゃねぇか。どの道俺達の魔術団体しか、お前の本当の姿は知らない事になるんだから、どう呼んだっていいだろ?」
「え?全員に教えるの?」
「どの道俺の魔術団体……反乱者は全員で七人だぜ?それに、その内の四人は後ろに白銀がいる事を知っている。今更お前の正体教えたってどうって事ないだろ。」
黒萩の言っている事は分かる。
でも、私は……。
「華梨花。」
「何?黄竜。」
「これもまた良い機会かもしれない。傷付きたくない気持ちも分かる。十分にな。だが、そのままでは駄目だ。」
拙いけど優しい黄竜の言葉に、私は少し嬉しくて笑った。
「華梨花?」
「ありがと。」
私が笑った事に黄竜は驚いたようで、私に声を掛けてきた。
本当に黄竜は優しいなぁ、父親みたいに優しい。私は幸せ者だよ。
「……分かった。」
「俺達もお前ほどではないが、魔力の多さ、魔術師としての素質のお陰で二つ名の様な物が付いている。恐れられてもきた。お前の正体を明かしたとしても、俺達はお前を避けたりなんかしないさ。」
「え?そんな間抜けそうなのに、二つ名があるの?」
他の人は知らないけどと続いてそう言えば、黒萩は折角いい雰囲気だったのに、ぶち壊すなよと苦笑された。
「恥ずかしいから、二つ名なんていらないのにな。」
「そうだよね。私の場合なんて、私の髪の色で決められたんだから。安易過ぎ。」
「俺の場合は、武器だな。これまた安易だが。」
黒萩は両方の腰に差してある二本の西洋剣を上から両手でぽんぽんと叩きながらそう言う。
「……もしかして、双舞?」
「え?それだけで分かったのか?」
双舞という二つ名の由来は、二振りの剣……つまり双剣の双と、それを使いながらも舞うような戦いをするその姿からきたものなのだそう。
そりゃまぁ名前も言わず、コートのフードで顔を隠しながら戦っていれば、自ずと二つ名も付くだろう。
仕方がない事ではあるのだが、もう少しネーミングセンスと言うものは無いのだろうか?
「まぁ、慣れればそれはそれでいいか、って思えてくるのも不思議なもんだよな。」
「否定はしないよ。」
私は苦笑しながら頷いた。
「……にしてもまさか、俺らの所に政府から依頼が来るとは思ってなかった。」
「ん?白銀を殺せって言うあれ?」
「そうそう……って自分の事なのに。」
お前は命を狙われてるんだぞ?と黒萩に真剣な目でそう言われたが、今までそう言ったことがあり過ぎて慣れてしまった私としてはなんとも言えない。
「もう、慣れたよ。」
「人を殺す事にも、か?」
「……。」
そんなの慣れる訳無いじゃないか。
私は自嘲するかのように笑って見せた。
「……すまない。」
「え?」
「いや、酷い事を言ったなと。……だって、俺の所にその依頼が来た時真っ先に動いたのはお前だもんな。」
そんな私の表情に、黒萩は少し悲しそうな顔になり、そう言ってきた。
「ありが、とう?」
「何故に疑問系?」
「こういう時どう言葉を返したらいいのか、慣れてなくてまだ分からない。」
「そう、か。……それでいいと思うぜ。」
黒萩は表情を明るくし、背もたれにもたれ掛かりながら、にしてもと呟いた。
「どうしたの?」
「お前を雇う……使っている奴らも政府であるのだろう?どうしてお前が政府の元にいるのに、お前を倒すように俺達に依頼が来たんだ?」
そう、私は学生でありながらも政府の元で白銀と言う名の魔術師として、動いている。
政府の方には私の性別しか教えていないので、学生であることは知らないかも知れないが。
先程私達を監視していたのは、私が要らぬ動きをしていないか見張るためのもの。私が気配を察知出来ていないように振舞っているため、向こうは私が気付いていることを知らない。
つまり政府は、私の力量を測りかねているのだ。多分、それを測るために私に魔術師達を向けてくるのも、計画の内にはあるのであろうが、本来の目的はそうではないのだろう。
「多分、だけど。」
「多分でもいい、知っているのなら話してくれ。」
「知っている、と言うより私の推測なんだけど、政府は私達魔術師を破滅に追い込もうとしているんだと思う。」
私の言葉に黒萩は大きく顔を顰めた。
「どういう事だ?」
「……私を中心にして魔術師同士で無利益な殺し合いをさせる。それで、この“白銀”が死ねば万々歳。殺せなくても、私を殺しに来た魔術師達は壊滅。これを続ければ政府が手を下さなくても、勝手に私達は減って行く。」
政府は、裏で息づいている魔術師達をよく見ていない。魔術師達のお陰で助かった事は何度もあっただろうに、それでも私達と敵対する。
魔術師は人間ではないと言う頭の硬い上の奴らは、私達を破滅に追い込もうと何度も手を出してきた。
それをいつも食い止めていたのは私と黄竜。でも、それもいつまでもつか分からない。私達を雇っている……使っているのは政府。これ以上動きを止めていれば、私達の身の置く場所も危なくなってくる。
だからこそ、今のこの状態は容認するしかないのだ。知らない振りをして……。
しかし、今回政府が依頼してきたのは私が後ろにいる魔術団体である、反乱者。この団体は私程ではないが、魔力量の比較的多い魔術師達が集まっている所。言わば、裏世界におけるもう一つの守りと言えるだろう。
政府には反乱者という名ではなく、希望という名の魔術団体で登録してあるが、本来の名がバレれば、後々大きな波乱を起こすかもしれない。
まぁそれは別にいいのだが、私としてはもう一つの守りを無くすわけにはいかなかったのだ。いざとなれば、黄竜と私の他の使い魔達に頼んでしまえばいいのだが、いかんせん難しいところがある。
では、どうしたらいいか。
私は悩んだ末に結局この作戦に出る事にした。
……少し、監視役に怪しまれてしまったようだが。
別にそんな行動をとるのはしょっちゅうなので、そこまで大きな物にはならないだろうが、さてどうなる事やら。
「それは……いくら何でも考え過ぎなんじゃないか?」
「今まで何度私が魔術師達のいる地区への潜入……先制攻撃を食い止めてきたと思ってるの?」
十数回は確実に超えているだろう。
その度に何度罵倒されてきた事か。
「本当か?」
「それを信じるかどうかは貴方が勝手に決めたらいいよ。私はこれからも食い止めて、進行を抑えるだけ。」
信じてくれなくたってもいい。私は私のしたいようにするだけだ。魔術師は言えば私達の国の要。そんな物を無くそうとしている政府には呆れてしまうが、それでも私達が生まれた場所であり、今も生きている場所。
そんな場所を無くしてはいけないのだ。
「いや、だから信じると言っているだろう?本当かと聞いたのは、お前の推測が当たっている可能性は高いのか?という意味で聞いたんだ。」
「……高いよ。」
と言うか絶対に近い。
「そうか……じゃあ、今は警戒しておいた方がいいのか。」
「うん。」
今はそれでいい。
私が政府の行動を抑えていることを言ってしまえば、警戒だけじゃ済まなくなる。加えて政府に対しての攻撃が始まってしまうだろう。
それでは困るのだ。
この均衡状態を崩してしまえば、一気に魔術師と科学との戦争が勃発してしまうだろう。そうなると、多くの人が犠牲になってしまう。
今の私には大切な友達がいるから……。
だからこそ、この状態は崩してはならないのだ。
「……私は帰るよ。」
「もう帰るのか?」
これ以上いたら余計な事を言ってしまいそうだったので、話の途中ではあるが、帰る事にした。
「黄竜。」
「分かっている。」
私は座っている黒萩を見ながら黄竜を呼び、転移魔術の準備をする。
「ねぇ、黒萩。」
「なんだ?」
「この魔術団体は、政府への希望となるのかな?それとも、魔術師への希望となるのかな?」
「……っ⁉︎まさか⁉︎」
黒萩に意味深な言葉を贈り、私は家に転移した。
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