ジャンル分けは難しいけれど、初心者にオススメなSF作品詰め合わせ
古い記事を統合した物です。新しい記事も乗せていくつもりです
「機龍警察」
<メディア形態> 小説
<ざっくりしたストーリー紹介>
人型機械が戦場で兵器として使われている未来。それが犯罪者に使われるのでそれに対する特殊警察機構が日本でも作り上げられるが、組織はその特異性によって警察から疎まれる。
<紹介文>
この小説(の一作目)、SFとしては読まない方が良いというのが私自身の意見であります。SFを読んだ時の面白さは沢山あると思います。異世界描写、景色的な世界観描写、魔法のようなテクノロジーを使った戦い、世界を一変させるヴィジョン、現実とリンクした深いテーマ……まだまだたくさんあると思います。
しかし、この作品(の一作目)にそれはつまみ食い程度で広く浅く出てくるだけです。ある意味、SFへの入り口に持ってこいの作品です。SFとしては新しい設定はない。これはあれだよね、これはあれだね、というように一つ一つ求めるヴィジョンや描写への答えは広く浅く、何処かで見たことがあるものが多い。
軍事SFと言う観点から見ても、それは感じられると思います(ただし、一作目に限る)。「パトレイバー」ほどシミュレーション感がないですし、「戦闘妖精・雪風」のような機械描写はないし、「虐殺器官」の生々しいリアリティのある未来世界が広がっているわけでもない。物語的にも好き嫌いはあると思いますが読んでいて「フルメタルパニック」のほうがよっぽど面白いと思いながら読んでいました。と言うか何で「機龍」という名前なのかって言う理由があまり明確にないし。
軍事小説やアクションとしても深くアプローチされているか、と言われれば微妙ですね。頭から離れないような主人公や敵キャラは出て来ませんし、歴史的な事象に触れてくるわけではない。諜報小説としても微妙。フォーサイズのような痺れる諜報戦やボーンシリーズのような常人を超越した職業人間の紙一重の戦いもありません。
こんな感じで所々つまみ食いは出来るものの一つ一つが深い味わいか、と言われると微妙……じゃあタイトルにある「警察」から連想する警察小説としてはどうなのか、と言われるとじりじり粘り強く捜査する様や各キャラクターの苦悩は見ていて面白い……が新しさはない。
じゃあ、何故この小説を勧めるのか、と言われれば……真新しさやジャンルとして求めてしまう深さはなくともエンタメとしての完成度は最高に高いから。この小説は最高に職人技を行使して作り上げられています。どこからどれを持ってきて繋ぎ合わせれば面白くなるか……それを極めた作品とも言えるかもしれません。だから超王道です。面白い(物語が陳腐と言うわけではない)。最高に楽しい時間を過ごさせてもらいました。キャラも皆個性ぞろいで面白い。しかし、ジャンル分けの出来ない小説であることは間違いありません。
二作目から警察&軍事小説感が強まりますが、かなり面白いので興味があれば是非、読んでみてください。と言うか、二作目からが本番ですから! シュミレーション感やら機械描写やら生々しいリアリティは二作目から堪能できます。めっちゃ強い敵も出てきます。
「アイドルマスター XENOGLOSSIA」
<ストーリー>
月が災害によって崩壊し、その欠片<ドロップ>が地球に降り注いでいる世界。アイドルと呼ばれる<ドロップ>を破壊するためのロボットに乗った少女たちの成長と葛藤を描きながら、その数奇な運命を綴る。
<メディア形態>
TVアニメ―2007年 全26話
<ツボ押しポイント(こんな要素が好きな人はきっと楽しめるよ、という点)>
・女の子がいっぱい出てくる(お色気もあるよ)。
・ロボットが出てきて戦闘する。
・電子頭脳のお話、SF者には嬉しいポイント。
・青春群像劇。
・組織抗争。官僚組織形態。
・世界終焉後世界物(バラード的ではなく、復興はしたがその傷跡が残っている感じ)。
・宇宙活動(ハードSFではないが)
<紹介と魅力語り>
アイマスファンの一部には「黒歴史」とか言われていますが内容は良作。思春期の悩み<自分の居場所><他者との関わり>を求める少女たちの青春群像劇でもあり、アクション満載、ギミック満載のロボット物でもあるし、組織と組織が抗争を起こす「抗争モノ」としても一見。そこまで登場シーンは多くはないけれど、近未来兵士を見ることが出来るのもこの作品の魅力の一つ。
キャラクターやストーリーが原作レイプだ! みたいな点を除けば、魅力のある人ばかり(72→89とか)ですし、話もうまくまとまっているし、名作。ロボット物が苦手な人でも少女たちの青春群像劇として見れば見ることの出来る、ジャンル窓口の広い作品でもあると私は思います。
微妙にエヴァ臭のするこの作品ですが、ただエヴァ臭がするだけでなく、それをしっかりお話として成立させているので凄いです。TV版・エヴァの主人公が救われる&後半暗くなりすぎないバージョンと言っても差し支えないと思います。結構、エヴァ的トラウマシーンの再現は多いが……(これは見ねばわからぬ)
ただし、戦闘シーンは怪獣とのバトルではないのが残念(そう言う人はパシフィック・リムとかMM9を観よう!)ですが、ロボ同士の戦闘はかなり燃えます。
作画のレベルもかなり高く、さすが2000年代! と思うところであります。また、「戦闘妖精・雪風」「敵は海賊」「攻殻機動隊」「ゴジラ×メカゴジラ」マニアは萌え萌えの「電子頭脳が自我を持ち、それの成長なんかが見られる」というSF点もこの作品では見ることが出来ます(ゼノグラは雪風に近い)。電子頭脳萌えを人はたまらない作品かも、オセロでコミュニケーションを取ろうとして来るところとか、たまらんのですよ。コアが会話しているシーンとか勃起ものでした。皆は誰が萌えますでしょうか。
物語もきっちり王道に落とし込んでいる所がいいですね。最終回は結構、嬉しいことが起きます。物語も欠陥はなく、かなり名作の出来。なんでこれがアイマスなんだよ! なんて言わずに、先入観を出来るだけ排して見るのが吉。当時のファンからしたら、かなりショックだったのかもしれませんが、今はアニマスやシンデレラがあるので、それに連なる一作として見てはいかがでしょうか。普通に面白いですよゼノグラシア(「戦闘妖精・雪風」だと思ったら「助けてメイヴちゃん」だったくらいの衝撃なので、当時のファンは確かにかわいそうではある)。
「紅 kure₋nai」
<メディア時期>
2005年~
<メディア形態> ライトノベル(4巻+ファンブック)、アニメ(12話+OVA3話)漫画(10巻)
<ストーリー>
あちこちで陰鬱な犯罪がはびこり、荒んだ現代の日本。闇組織が権力を我が物にし、一般市民は日常を蹂躙する軽犯罪に震える日々を過ごしていた。そう、日本は病んでいた。
・うるさいから、という理由だけで電車内で泣く幼児を窓の外に投げたサラリーマン。
・自分より先にトイレに入ったから、という理由だけで母親をナイフで刺した少年。
・5歳以下の少女を対象とした強姦魔
・自身の妄信から少女を誘拐してその子宮を喰らい続ける老夫婦。
そんな凄惨な犯罪がはびこり日常を犯していく中、犯罪組織が力をつけ、警察さえも抱き込まれ腐敗化している世界。犯罪はもはや日常と化していた。そんな中、警察はもはや犯罪に立ち向かうどころか、犯罪の発生元であり温床へと醜く変容していった。
「神様なんかいない」
そう誰かがつぶやくけれど、神様に代わるヒーロはこの世界にはいない。アンパンマンはおろか、保安官もバットマンも公安9課もいない。こんなに世界は荒んでいるのに。ヒーロはいない。
世界は変わってしまった、映画「ノーカントリー」はそんな作品だった。しかし、「ノーカントリー」では可能だった―1980年代には可能だった―世界を動かす歯車からの脱却。それは、この世界では不可能だ。誰もがこの世界のシステムに囚われてしまって身動きが取れない。映画「ボーン・アイデンティティ」描かれた組織のシステム化とそれの傀儡となる人間の悲しさ、それはこの世界の日本全国へ波及していた。
「世界と言うシステムの傀儡となり、終わらない悪夢の中を過ごす」という現実は政界を始め、日本の権力の中枢を担う大富豪の一つ・九鳳院家も蝕んでいた。九鳳院家では特徴的な遺伝子的欠陥によって近親相姦でしか、子供を作り後世に遺伝子を残すことが出来なかった。しかし、九鳳院家はその事実を日の元に明かすことはせず、牢獄とも言える施設に女性を監禁し子供を作ることだけにその一生を過ごさせることで家系を残してきた。遺伝子と言う強大すぎるシステムの前には、一般市民と同じように九鳳院家さえも無力だった。
九鳳院家は遺伝子というシステムに服従するためのシステムを構築して生きながらえていたのだ。九鳳院家の令嬢にして、その生まれてすぐ人生が決められた―忌々しいシステムに囚われた―少女・紫は「恋」するという夢を持っていた。それがかなわぬ夢だとは、まだ知ることもできずに。
歪んだシステムに縛られた日本、そんな世界で唯一正義となりうる者たちがいた。
金に応じて、ベビーシッターやボディガードにも、はてには殺し屋にもなる者たち、彼らを人は「揉め事処理屋」と呼んだ。
駆け出しの揉め事処理屋、紅真九郎にある日仕事の依頼が来る。真九郎の師匠であり、伝説の揉め事処理屋である紅香から受けた依頼、それは―九鳳院紫を日常世界で生活させ、その護衛をしろ―というもの。九鳳院のシステムを知らずに、日常生活を謳歌する紫と生活する真九郎。多忙な日々の中、紫との生活は傷ついた彼の心を癒していく。しかし、九鳳院からの刺客が現れ日常は崩れ去る。真九郎は日本と言う歪んだシステムから、九鳳院という忌々しい牢獄から紫を救い出すことはできるのか……。
<作品の見どころ>
個性豊かなキャラクターと、カタルシス溢れる物語の展開ですね。後、外せないのは揉め事処理屋の主人公と九鳳院の刺客のバトルですね。バイオレスでありながら、グロテスクではない熱い(熱すぎる)アクションとセリフです。それと、そのアクションで使われる戦闘用ガジェットがめちゃくちゃかっこいい。超燃えます。九鳳院の遺伝子設定とか色々SF的にも面白いし。
<作者の余計なひと言>
映画「ガタカ」で謳われただろう。遺伝子は絶対ではない、と。不可能はない、と。「MGS2」で主人公は感じただろう、遺伝子を残せなくとも、システムが世界を覆い尽くしても、何かを残すことはできると。「ファイト・クラブ」で主人公は見出しただろう、自分という枠組みは自分で決めつけてはいけない、ということを。それはこの作品「紅」でも同じだ。誰か大切な人と手をつなぐ、それだけで世界を敵に回しても勝てる様な感覚。そんな壮大で無謀で、でも憧れてしまう雰囲気がこの「紅」は満ちています。
そんなわけで、社会(その大きさは関係ない)には屈してはいけないのです!というのが本作のテーマであり、燃えポイントでもあります。一昔前の管理社会のように見えて、それは打破することを萌えポイントとする話(「ハルヒ」「進撃」「サイコパス」「マルスク」……)は最近多いですが、その最高峰と言えると思われます。最前線、というには古いんだよな……「紅」
原作の方は、文章力も卓越していますし、物語もかなりよくできているので一読する余地はあると考えられます(310ページだし、ブックオフに売ってるよ多分)
アニメ版は原作と多少設定は違いますが、映像化の凄さと言うか演出が素晴らしくて、特に音楽が素晴らしいので、ぜひおすすめです。それに本編は24分、全12話と短いし、見やすいですよ。
この文章内で紹介した作品「ガタカ」「ファイト・クラブ」「MGS2」なんかは人生につまずいた時に見ることをオススメします。見ると、燃えますよ。生きてやるって気分になります。
最後に「紅を読んで(見て)くれない?(笑)」
「スカイ・クロラ」シリーズ
<ストーリー>
「キルドレ」と呼ばれる、老化せず、青年期で成長が止まってしまった人間たちが戦闘機に乗り、終わりの見えない戦いに挑んでいく……終わらない物語。
「スカイ・クロラ」の映画を観たことがある人は「ああ、あのつまんない話ね」というかもしれません。しかし、あの一作では「スカイ・クロラ」を完全に楽しむことはできないのです。「スカイ・クロラ」シリーズの真骨頂……それは、ループが体験できること! 「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトという企画でループを体験できるというのは有名な話ですが、これはそれよりもループ(と言うよりも何も変わらない日常が永遠と続いていくのだが、状態としてはループに近い)を体験できます。ループしたら何する?というのはSFファンの間ではお約束の会話ですね。
「そうだなぁ、村を救ってやるか」
「夏休みから抜け出すぜ!」
「おめでとうで終わらないようにするぞ!」
「彼女救うぜ」
「何度も同じことを繰り返してステータスを上げて最強の兵士になるぞぉ」
と、まぁ結構、色々な動機がありますよね。ですが、本当にループ体験が出来る作品は少ないと思います。何故なら「ガチループなんてして、同じ話を何度もやっていたら商業作品にならない」から。
「エンドレスエイト」とかは少しずつ変えるみたいな感じですが、話は一回のループが三十分なわけで、耐えようと思えば「視聴者」は耐えられるわけです。しかし……この「スカイ・クロラ」シリーズは一冊でほとんど同じ話を展開しているので、ガチでループしている気分になります。それに「エンドレスエイト」や「オールニード」「バタフライ」「ひぐらし」が何か目的を達成すればループから抜け出せ、かつそれが出来るか出来ないか、というドキドキワクワクがあるのに対し……「スカイ・クロラ」シリーズはそれが一切ない! 目標を達成するまでの過程を描く、というループ作品最大の強みがないわけです。(故意に排除している)
しかも、この「スカイ・クロラ」シリーズ、純文学のように、淡々と日常を美しい文章で綴っていく(しかも、ほとんど毎回同じ繰り返し)ので、どのタイトルがどの話か分からなくなるのです。
この「スカイ・クロラ」シリーズは「ナ・バ・テア」か「スカイ・クロラ」から読み始めるのがお勧めなのですが、正直、内容は七割同じ。そのせいで物語を読んだという記憶や感情がぼやけてきます。あれ……これ読んだことあるような、ないような……んん!?
……そう、これこそ地獄のループ<SF体験>の始まりです。これは読まねばわかりません……。読まねば死。
「えーそんなの読みたくない」とまぁ言わないでくださいな。ブックオフで100~350円で売っていますし、図書館にも置いてあります。それにこの物語はいわゆる「鬱要素」は全くありません。美しい文章や淡々としたお話も心が現れるような透明感のある文体でとても読みやすいです。コーヒやココアでも啜りながら休憩に読んでみてはいかがでしょう。ループ体験以外にも素晴らしい魅力が見つかるでしょう。意外とSFとしても骨太で、SF的なビジョンはちゃんと用意されていて「おお!」となるのでSFファンは必見。でもそこまでSF要素は強くないので、非SFファンもおすすめ。
読んで頂き、ありがとうございました。感想、批評、メッセージ等どしどしお待ちしております。