<コラム>メタルギアノベライズと伊藤計劃さん
私が大好きな作品のコラム
私の大好きな作品である「メタルギア」のノベライズ。次は野島一人さんが書くらしいのですが、私は「MGSⅴ」は別の人にやって欲しいなぁと思うのです。野島さんの書いた「MGSPW」は素晴らしい物でした。しかし、メタルギアのテーマが「遺伝子を、物語を受け継ぐ」である訳ですから、違う作家さんによって「メタルギア」の物語が紡がれて行ってほしいのです。
私は親が教師で家庭用ゲームは大学生になるまで買ってもらえませんでした。そんな私が「メタル」に主観的な視点で触れることができる唯一の手段、それがノベライズでした。伊藤計劃さんを深く知る前に「MGS4」を買って読んだ日の事は今でも鮮烈に覚えています。きっと伊藤さんのノベライズから「虐殺器官」→「ハーモニー」でSFにはまった人も多いのではないでしょうか。そんな出会いを創り出せる場をたった一人に明け渡していい物か、と言うと乱暴になります。
「メタル」から自分が素晴らしいと思ったことを伝える事の出来る資格、それを一人の作家が独占していい物か。「メタル」を通じて、自分の素晴らしいと思った物を広げる資格をより多くの人が持つこと、それは更なる物語の広がりを見せていくと私は考えるのです。
伊藤計劃という作家が何処か偶像的に語られている現在、それを死なせてやろう、という(裏のテーマも読み取れる)のが「MGSPW」のノベライズでした。ならば、伊藤計劃氏に影響を受けた、否、伊藤計劃氏の思想や文体を引き継いだ、という理由から「メタル」のノベライズを誰かが担当することは本当に正しいのでしょうか。伊藤計劃という枠にはまった物語しか残せないのではないか、そんなことを考えてしまうのです。
「伊藤計劃性」とも言える繊細な文体、緻密な世界観、膨大な知識、パロディや下ネタ……それとは違う魅力で語られる「メタル」。つまり、伊藤計劃(もしくはもうノベライズを担当した方)ではない作家が人生で汲み取ってきた「物語」が組み込まれた「メタル」を私は求めているのです。
私は伊藤さんが大好きです。彼なしでは今の自分はありえません。しかし「伊藤計劃」性は誰かが無理やり紡がなくとも、誰かが無意識に紡ぐものであると私は考えるのです。そう「伊藤計劃は止まらない」です。今の現状はまるで「MGS2」のSSSのようだと私は思ってしまうのです。伊藤計劃というSFに再び火をつけようとしていた作家が亡くなってしまったのです、それを惜しむ気持ちは分かります。今、SFは正直廃れています。それに伊藤さんなら火をつけられたし、若いSF者を排出することが出来たでしょう。しかし、このままではたくさんの「雷電」が生まれてしまうのではないか。そんな風に考えてしまうのです。
今までぐちゃぐちゃ語ってきましたが、言いたいのは簡潔に「他の作家さんのメタルのノベライズが読みたい」です。
<出版されたメタルギア・ノベライズ>
「MGS」
1のノベライズ。ゲームをそのまま文章にしたような感じで、単調。スネークの心理描写などはあるが、あっさりしている。文章も翻訳作品という感じで、余計な文章がない代わりにかなりあっさりしている。
「MGS2 サンズ・オブ・リバティ」
2のノベライズ。ゲームをそのまま文章にしたような単調さはあるが、愛国者の目的や、事件の真相などはかなりわかりやすく描写されている。
「MGS スネーク・イータ」
3のノベライズ。スネークの心理描写が細かく、彼の葛藤がとてもうまく描かれている。また、ゲームにはないコブラ部隊の過去や心理描写はバトルを熱くし、物語にさらなる熱を持たせている。戦闘描写も卓越しており、ザ・ボスとの戦闘シーンは必見。しかし、現れるコブラ部隊をスネークが次々と屠っていくため、スネークがスーパーマン化しているという批評もある。
「MGS ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」
4のノベライズ。オタコン視点で語られる物語は哀しく、スネークへの思いが詰まった傑作。様々な薀蓄や小ネタなどは伊藤さんという作家性がとても作品とマッチしていてとても良い。また、ビューティビーストとの戦闘を排除したことで、スネークへの物語が強まっていてゲームよりもスネークへの感情移入度が高く、BBとの戦いがないことでスネークのスーパーマン性が排除され、リアルになって、かつ人間性を深く見ることが出来る。しかし、戦闘シーンは比較的あっさりしており、物足りなく感じる人もいるかも
「MGS ピース・ウォーカー」
PWのノベライズ。スネーク・イータとガンズ・オブ・ザ・パトリオットの良いところをハイブリットした感じ。だが、上記作品とは違い、ラストがゲームよりも補完されており、より美しく感じた。
「フォックスの葬送」
伊藤計劃の短編「ザ・インディファレンス・エンジン」に収録された同人作品。グレイフォックスとビッグボスの過去を描く。短くもかなり完成度が高く、戦闘シーンや薀蓄、物語、全て素晴らしい。この作品を機に伊藤計劃作品に触れてみるのもどうか。
読んで頂いてありがとうございました。