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すこしあたまがおかしい

飛べるはず

作者: 桧瀬

彼は美しく飛んでいた。

いつもより爛々と光り輝く目の色に、空の色と同化するように指先から朽ちていく。

彼は、芸術作品によく似ていた。

彼の美しさは肉眼で映し込まなければ、本当の美しさとは感じ取る事が出来ない。

光の加減、彼らの表情、飛ぶようにかみさまに付けられた白翼――――。

どうして、彼ら此処まで美しいというのに、こんなに、こんなに、美しく飛ぶことができるのだろうか。

此処まで、美しいというのに。


あ、


彼は汚らしく、落ちてしまった。


 「かみさま」「かみさま」「かみさま」「かみさま」「かみさま」「かみさま」

無表情のまま数人の男女は焦点の定まらない瞳のまま、落ちてしまった彼の元へと群がる。

そして、その男女らは彼から流れていく血を指先ですくい、彼らが飛んでいた空へと向ける。

どうして、血を空へと向けているのだろう。

 そして暫く経った後、男女は血が付いた指先をアスファルトで拭い、先程まで飛んでいた彼らの白翼をもぎ取った。

「つばさ」「つばさ」「つばさ」「つばさ」「つばさ」「つばさ」「つばさ」「つばさ」

男女らは無邪気に、幼少期を思い返す様にケラケラと笑い合ってから、近くにあったビルの屋上へと走っていた。

 

上を見上げると、男女らはケラケラと笑いながら、空を自由に飛んでいた。

鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に、鳥の様に。


そして、また、落ちてしまった。




 空への大いなる夢をぼくらと一緒に実現しませんか? というキャッチコピーが売りの宗教みたいな集団だった。

勿論私もそこに所属をしている。昔から空が好きだったから入った、と言う理由もあるが友人が異様なほど勧めてくるので仕方なしに入ってしまったという理由の方が正確かもしれない。

 この集団は集会があり、毎週土曜日の午後九時に集会場に集まり、私たちは延々と下らない話をする。

だが、今日は少し違った。

リーダ格の男が前に来、少し苛立った様子でホワイトボードの前に立ち、ペンを握りつらつらと何かを書き始めた。

数分ほど男が書くのを待っていると、リーダ格の男は大きく息を吐き、眼光をこちらに向け、ペンを机の上に置いた。

「おい、お前ら」

男は私たちに向かって声を掛ける。男に対しての返事はないが、注目は男の方へと向かっていた。

「空へ、飛びたい奴はいないか」

空。

この集団がずっと夢にしてきた、飛ぶという夢を、男は実現しようとしている。

でも、当然どうしたのだろうか。

「おれは、気付いた」

「何を」

「おれには、翼が生えている。かみさまが、おれに授けてくれた、白い翼だ。だから、おれは、空が飛べる」

男はニィッと笑い、手を両手いっぱいに広げ、背中に翼を生やす。

翼が、本当に絵に描いたような本物の翼が、男の背中に生えていた。

「おれと一緒に、空へとびたいやつはいないか」

空、

私は、空へ飛べられるのだろうか。

鳥の様に、自由に、自由に羽ばたけるのだろうか。

「は、はい」

私は声を静めながら、ゆっくりと男に見えるように手を上げていく。

「……他には」

男は舐めるように視線を動かし、私の他に手を上げている物がいないかを見る。

「よし、いい」

結果的に手を上げたのは私と気の弱そうな男の二人だけだった。

「名前は」

「斉野、ゆめです」と私が言うとそれに合わせるように気の弱そうな男も「上寺乾一、です」と言った。

「…斉野と上寺か。俺の名前は阿部英一郎だ。一緒に空を飛ぼうな」

男は歯を見せながら笑い、私に握手をせがんできた。私はその男の様子に何故かクスリと笑い、握手をした。


私たちは、空を、飛ぶのだ。




 ジェットコースターを乗っているようにフワフワしながら、私たちはゆっくりと落ちていく。

目に入る、私のいる町、耳に届く、悲鳴と歓声。

あぁ、気持ちが良い。


恐怖などない、私は只、空を浮遊しているだけなのだから。

空を、飛んでいるだけなのだから。


「ふ、ふふふふふ、はは、は」自然とこぼれてしまう笑み。

でも、おかしい。


私は只、落下しているだけでは―――――。



 確実に、目の前で空が落ちていた。





昔かいていた物を端的に省略してこっそりと。面白いと思ったら感想か評価おねがいします…!

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