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日常=異世界冒険記  作者: かなた
第1章 〜運命転換期〜
5/7

突きつけられたもの

急☆展☆開

 祐大が目を開けると真っ暗だった。ぼんやりした意識でまだ夜なのだろうと考えた。


(ああ、異世界うんぬんは夢オチかよ…。つまんねー)


 二度寝の前に今の時間を確認しようと時計に手を伸ばそうとするが…できない。というか身体が動かない。


(ああ、金縛りか)


 一昔前なら恐れられていたかもしれないが現代っ子からすればもう科学的に原因は分かっているので反応なんてこんなもんである。

 つまり脳は起きても身体は寝ているのだろう。これまでも稀に金縛りにあった事はある。金縛りを解くのもコツさえ分かれば、意外に簡単にできる。祐大は今の時間を確認しておきたかったので、金縛りを解こうと身体に力を込めようとする。

 しかしそこで違和感に気付いた。

 身体が動かないというより身体が動くのを何かが阻害している様な感じがする。

 試しに声を出そうとするが…


「フグ…モガ…ゲグ」


 祐大は確信した。縛られてる。口に何か付けられ、ロープか何かで縛ってある。


(つまり……夢じゃない!!!)


 夢じゃなくてちょっと嬉しかったのも寝起きで頭が働いてない間だけだった。

 こうなった原因を思い出すと祐大はすぐに自分が今、割と命の保証がされてない事に気付く。


(リリーさ…リリー…いやあの野郎はどうして僕を気絶させた…?あと野郎は女性に使っていいのか?)


 そう、殺すでもなく気絶させたのである。ここに何か理由が隠されてる様な気がしてならない。


(生きてないとできない事、まさか奴隷として売られるとかじゃ……)


 思い付きだが、あながち的外れでもない気がする。


(どうしよう、売られて、変な男に買われてこき使われて、挙げ句の果てにアッー!的な事とかされるんじゃ…)


 頭の中でどんどん展開が進んでいく。日頃の妄想の賜物である。

 呑気すぎるのは、やっぱり寝起きだからだろう。


(と、とりあえず逃げる方法を考えないと)


「目が覚めたんだね〜。といってももう手遅れだけどね〜。もう目的地に着いたよ〜」


(はい詰んだ)


 無駄に祐大がジタバタしてたからばれたのだろう。そして聞き覚えのある綺麗な声は。


「フフー!!」

「フフーじゃなくてリリーだよ〜。ああ口を塞いであるから喋れないんだったね〜」


 このおちょくってるのか素なのか分からん応対は間違いなくリリーの物だった。というか本人がリリーだと言ってるからそうだろう。


「ホホヒェエ!!!」

「ごめん…何て言ったの?ああ『ほどけ』かな?いいよ〜」

「ヒフヒョウ!!……ヒェ?」


 ゴソゴソと布を擦る様な音がして祐大の身体がリリー(?)に引っ張りだされる。恐らく布袋に入れられたのだろう。しかし祐大の視界は明るくならない。


「口縄外して〜、これも外さなきゃね〜」

「ぷは〜。おいどういうこ…うっ」


 急に祐大の視界が晴れたので反射的に目をつむってしまった。どうやら目隠しもされていた様だ。


 ようやく目が慣れ、目の前の憎き敵を認識できる様になった。


「どこも怪我してない?」

「うっせえ死ね!!」


 祐大は自分の置かれてる立場を理解していながらもリリーに悪態をつく。改めてリリーの顔を見て今まで無意識に押さえ込んだ感情が胸の内から湧き上がり、口から飛び出ていく。


「そんなに嫌われちゃったか〜」

「当たり前だろうが!!」


 彼にとって信頼してもらっている人を騙す事は絶対に許せない事なのである。これだけは祐大とって何が何でも譲れない物なのである。別に正義感から来ているという訳でもない。祐大のあまり思い出したくもない経験がそうさせているのだ。


「よくも騙したな!! 僕をどうするつもりなんだよ!!」

「そ、そんな事言われても、……あ、そ、そうだ!別にこれから危害を加えたりなんかしない……絶対にさせないから安心して!」

「ちくしょう信じてたのに!この人でなし!!」


 その言葉は祐大が城下町前で言った言葉だった。しかし今回は冗談ではない。本気の言葉だった。


「仕方ないじゃない!!!!!」


 リリーの急な叫びに祐大はビックリした。甲高く、とても悲痛な声に祐大の激昂は少しずつ収まっていく。

 よく見るとリリーの目からは、涙が溢れていた。

 その表情は、とても悲しげで、直前まで気の抜けた喋り方をしていたとは思えない程だった。


「だって!!、ヒック、言う通りにしないと!!、私の!!家族がぁ………」


 途中で黙り込んだリリー。しかしそこまで言われれば祐大にもどういう事か分かった。分かってしまった。知らないまま、罵る事が出来た方が楽だったのに…。


 人質


 リリーの大切な人の命を命令した奴が握っているという事だろう。

 もし自分が親を人質に取られたら、同じ事をしていたかもしれない。あまり得意では無くても親は親だ。見捨てる事なんてきっとできない…

 もうとてもリリーを責める事ができなくなってしまった祐大は罵る代わりに質問する。


「ここはどこだ?」

「こ、ここはお城の「ここは城内だよ。異世界人君」」


 男の声が割り込んできた。目隠しと口縄は解けたが未だに身体が縛られてるいる祐大はリリーに身体を離されて、うつ伏せ状態になった為、頭を上げて周りを確認する。

 目の前にはひょろ長で眼鏡をかけた男が立っていた。顔は整ってはいるが、ニヤニヤと悪どい表情からは良い印象など全く感じられない。

 男の周りも確認した。そこは、個人の部屋という感じがした。椅子と机があり、奥の方にはベッドがあった。部屋自体もそんなに大きく無さそうだ。祐大の部屋と同じくらいの大きさかもしれない。

 しかし祐大の部屋との一番の違いは、もはや悪趣味と言えるレベルで散りばめられられている高価な金属と鉱石の塊。もっと詳しく言えば、金銀、宝石だ。どの家具も必ず宝石が引っ付いていたし、どの調度品も部屋の光を浴びてキラキラ光っていた。

 祐大は注目を男に戻し、男の言った言葉を思い出す。

 城内に連れて来られた?何故?いや男の発言にはそれ以上に気になる単語があった。


「なんで、それを……?」

「ん?ああ何故君が異世界人だと分かったか、かね?」


 やたらとキザったらしい喋り方だ。


「その質問に答えるよりも…リリー君、何故勝手にロープを解こうとしているのかね?誰がそんな事を許可したんだい?」

「………」


 リリーは答えない。


「まったく異世界人君が暴れたらどうするのかね?君はそんな簡単な事も理解できないのか?」

「……私が言われたのは、異世界人を、城の、中まで、連れてくる事だけ、連れてきた後は、私の、勝手でしょ…」


 消え入りそうな声。見た目は弱そうな男に対して怯えているかのような声だった。

 いや、男そのものに怯えているというより…


「立場をわきまえろ!!冒険者風情が!!貴様の妹の命など、私の命令1つで痕跡残さず消せる事を忘れるなよ!!」


 男に握られている大事な人の命が自分の言葉1つで危険な目にあわされるのが怖かったのだろう。男が怒り、口調が強くなった途端リリーは震え出す。


「ごめ、んなさ、い…」

「異世界人君、単刀直入に言おう」


 さっきの怒りは演技だったのかと思う程に男はすぐに怒りを引っ込め、リリーの謝罪など聞いてないかの様に話を祐大に戻す男。


「君には、我が王国の発展に協力して貰いたい」

「は?」


 思わず、この場の空気に全く合っていない間抜けな声を上げる祐大。


「戸惑っているようだね。そうそうさっきの君の質問に対する返答だが、簡単だよ……君を異世界から呼んだのはこの国なんだから。正確には我が国の王、フラベル・オルドラール・アドラー様だがね」

「王が…僕を…呼んだ?」

「まあ異世界人なら誰でも良かったんだがね。君が選ばれたのは偶然いや、運命がそうさせたのだよ!!王家に多くの益を(もたら)せる事を光栄に思うがいい!!」

「うっせえよ!!この厨二病患者が!!」

「厨二病?君の言ってる事は良く分からんが、まあ住んでいる世界が違うのだ。きっとそちらにしかない言葉なのだろう。しかし反抗的な態度だという事は分かるよ。異世界人君。おっと一応名前を聞いておかないとな。これから君に命令する時に必要だ」

「誰が言うかアホ!!」


 途端に男の顔が怒りで引き攣る


「こ、こいつは、ご挨拶だな。この状況を分かってその態度なのかな?」


 そう、祐大は今縛られている。周りにはリリー以外誰もおらず、そのリリーも人質を取られている。

 それでも祐大の態度は変わらない。


「いいからさっさと縄を解けよ!!」


(こんな最低野郎に言われた通りやるくらいなら危険を伴ってでも逆らった方がましだ!)


「まったく獣の様によく吠える男だな。縄はまだ解くわけにはいかない。まだ忠誠の魔法をかけていないからね」


 今度は祐大の表情が一変する番だった。忠誠の魔法と聞いて焦らないわけがない。要するに、魔法で自分を洗脳しようとしているという事だ。


「ぼ、僕なんか操ってどうするんだよ!」

「まあ、疑問に思うのも無理はない。過去召喚された異世界人達も同じだったそうだからね。君はきっと無力な自分を操ったところで意味が無いだろう、と言いたいのだろうね」


 言い方にイラっとしたが概ね間違ってはいなかった。


「そう思っているのは君だけだよ。君には、強力な力が既に宿っている」


 正直に言ってしまえばこの時の祐大はこいつ頭おかしいんじゃね?としか思ってなかった。

 試しに祐大は腕に思いっきり力を入れて縄を千切ろうとしてみた。………できない。やはり、こいつは良くて勘違い、下手すれば本当に厨二病なのかと祐大は考えた。


「力なんて全く無えよ。大体有ったら、こんな縄引き千切って逃げるっつうの」

「こんな縄か…くっくっく。それは只の縄なんかじゃないさ。国で一番丈夫な植物で編み込み、5種類以上の強固の魔法をかけてある特別製だよ。その縄だけで一般人の稼ぎの3、4ヶ月分はあるのだよ。どうだい?そんな高級品を自分に身につけてもらえて嬉しいかい?」


(どこまでもムカつく野郎だなこいつ)


「それになにも物理的な力だけじゃないさ。魔力、体力、それに知力と精神力も上がるそうだ。まあ後の2つが本当かは本人しか分からないがね。大体力は3日程度で完全に覚醒するそうだ。とりあえずは忠誠の魔法をかけた後直ぐに王に謁見させる。今の君は危なっかしくて王には会わせられやしない。そもそも、私もこんな仕事はしたくないのだがね。まあ代々忠誠の魔法をかけるのは魔法の知識に長けた最も上の高官と決まっているからな。ここまで上の役職に就くと重大な仕事ばかり任せられるから大変だよ」


(誰もそんな話聞いてねぇよ。しかし異世界に召喚されるだけでそこまで色々上がるのかよ。なんか胡散臭いなぁ)


 能力云々の説明をされても、実感が湧かないので、どこか他人事の様に感じてしまう。


「この王国は建国以来、優れた異世界人を使役する事で、ここまで発展したのだよ。そして私の様な生まれながらに優れた人間が加われば今よりもさらに発展できるのだ!!さあ、説明はそのくらいでいいだろう。そろそろ君には王国に仕える事を誇りに思える人間になって貰おうか」

「ま、待てよ。まだ聞きたい事があるぞ!!」


 祐大は慌てて会話が終わらない様に言葉を重ねた。この会話が終わってしまっては自分が自分でなくなってしまう。

「何であんな草原に送り込まれたんだよ!」

「ああ、実は王家に伝わる召喚魔法は召喚するのはいいが召喚先が曖昧でね。召喚者の目の前に呼び出せた者は初代国王だけらしい。中には民家の壁の中に召喚された者もいる。笑えるだろ?さすがに領土外で現れた者はいないらしいがね。いやあ今回は焦ったよ。なにせあんな領土の端っこだからね。他の国にでも行かれたらたまったもんじゃない。同時期にこの世界に2人目の異世界人は呼び出す事ができないから代わりを呼べばいいという訳にもいかない。そこで冒険者に迎えを行かせたのさ。しかしこの段階では異世界人はいう事をきかない。今の君がそうであるようにね。だから捕まえる為にはその辺の役立たずな冒険者ではなくそれなりの冒険者、いや凄腕の冒険者でなくてはいけない。それがそこに立っているリリー君だよ。彼女は正に適任だった。術士としての腕前は国の中でもトップクラスだよ。その評判は城内にも届く程だった。この事は機密だから衛兵に話すわけにもいかないから君のその珍しい格好では城下町に入る事すらできなかったろう。しかしリリー君なら、それを解決する術を持っていると確信していたよ。そして実際に君をここに連れてくる事ができた。何よりも彼女の美貌を信頼していた。人は当然の事だが醜い物より美しい物を好むからね。案の定君はあっさりと彼女を信頼する様になった。全くさっきのやり取りは最高に楽しかったよ。さっきは会話を遮って悪かったね。もう少し聞きたかったが王が君を待ちわびているからね。さてそろそろいいかい?」


 男のクズっぷりにも腹が立つがその通りな自分にも腹が立つ。しかしまだ祐大には聞きたい事があった。


「どうして彼女を脅したんだ!!」

「仕方なくさ」

「仕方……なく?」

「仕事の内容を話すとリリー君は何故かやりたくないと言い出してね。忠誠の呪文についてまで話してしまったのがまずかったのかな?それを話した途端に顔色を変えて絶対にそんな事やりたくないと言い出したんだよ。そんな安っぽい正義もどきの考えなんて振りかざしてどうするんだろうねぇ。それは正義などではない!この国こそが、正義!!よって、この国を発展させる事こそが本当の正義なのだ!!……そう説明しても、全く聞く耳を持たない。だから言う事を聞かせる為にリリー君の身辺を調べて妹の存在を知り、その命を駆け引きに出したのだよ。国の為だ、仕方ない。彼女もその内分かってくれるだろうさ」


 祐大は頭を動かしてリリーの方を見る。


「ヒック…ごめ、なさ、ヒック…ごめん…なさい…ヒック」


 また彼女は泣いていた。今度は祐大に対してやってしまった仕打ちに泣いていた。


「……ふざけんなよ」

「はて?真面目な話をしたつもりだったんだがね?」

「ふざけてんじゃねえぞ!!!したくないことを弱みを握って無理やりさせる行為の何処が正義だ!!何が国の発展だ!!そんな事を平気でやる国なら、滅んだ方がましだ!!!」


 それが祐大の考えと感情を全て乗せた言葉だった


「全く…君とは考えが合いそうにないねぇ。昔から気に食わない意見は力でねじ伏せられてきた。私もそれに倣って君の考えをねじ伏せるとしよう。さすがに長話しすぎた。そろそろいいだろう」


 男がどんどん祐大に近付いてくる、焦らすかの様にゆっくりと。

 あと3歩……2歩………1歩…………

 ついに男は祐大のすぐ前まで来た。そして転がっている祐大に向けて、手を(かざ)す。

 その手が光を放ち始める。光はどんどん大きくなる。これが忠誠の魔法なのか…もう諦めるしかない。でも怖い。今の自分を失う事が怖い。この男の様に平気で人を傷付けられる様になる事が怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

 まるで恐怖に合わせて光が大きくなっている様だった。

 最後に光は一際大きく輝き祐大に向かって進んでいく。



 静かに祐大は心の中で今の自分に別れを告げた。

誤字脱字ありましたら報告お願いします。

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