異界の人
1話の量はこれぐらいにした方がいいんですかね?
クワガタムシをそのまま大きくした様な生き物。それが今地面から飛び出し空中を舞っている。
「ひっ 」
我ながら情けない声を上げながら後ずさる。幸いビッグクワガタ(今名付けた)は自分に気が付いてはいないようだ。この隙に逃げられる。そう思った矢先のこと。
なんかこっちに向かって来た。
(ふざけんなあああああああ。てか気付いてたんかあああああああい)
要はビッグクワガタは祐大を美味しくいただく為に地中から出て来たのだ。
ビッグクワガタは祐大を捕まえようと巨大な顎をガキンガキン言わせている。
変な物体に捕まった時とは違い今回は動くことができる。となると祐大の取るべき方法は1つ。
猛ダッシュで逃げる。
「うわああああああああああ」
既に見つかっているので声を潜めもせずに叫ぶ、逃げまくる、そして草原に足を取られ転んじゃうヘタレ。
(あっ死んだわこれ)
いい感じに足を挫いてもう走れそうにない。
人間というのは死が確定的になると妙に落ち着くようだ。祐大は静かに目を閉じ自分の今までの人生を振り返っていた。そうしているといやに鮮明に昔の光景が蘇ってきた。
(これが走馬灯って奴なのか?)
苛められてた小学生時代
苛められキャラから弄られキャラになった中学生時代
そして高校生になり、別れも言わずに海外に行った両親の姿
ろくな走馬灯では無かった。
(そういえば海外って具体的にどこ行くか言ってなかったな)
そもそも自分も興奮していたとはいえ、両親が海外に行くことにあっさり認めすぎではないだろうか?客観的に見てみれば異常といってもいいレベルである。
(本当に只の転勤だったのか?ひょっとして今自分に起こっている状況に関係あるのか?……それとも作者の文章力か?)
とそこまで考えて祐大は気付く。やけにビッグクワガタが襲いかかってくるのが遅い。もちろん祐大は様々な思考を瞬時に行える様な天才ではない。となるとなぜ襲ってこないのか。
祐大は目を開け恐る恐る後ろを向いてみた。
そこにはさっきの生き物の残骸が転がっていた。
「…………え?」
祐大の思考は暫くの間停止してしまったがそれは仕方のない事だった。自分から命を刈り取るはずだった死神がバラバラになっていたのだから。
(なんで急に?…まさか僕の隠された能力が覚醒したのか?)
と厨二っぽいアホな思考をしていると残骸の奥に誰かいる事に気付いた。だがビッグクワガタを倒してくれたとはいえ、自分を助けようとしてくれたとは限らない。ひょっとしたら目の前の人(?)は自分もバラバラにしようとするかもしれない。とりあえず祐大は恐る恐る話しかけた。
「えっと…助けてくれてありがとう…ございます」
「いいよ礼なんて〜。 困った時はお互い様だよ〜」
直後になんか予想以上にフランクな返事が返ってきた。
(よかった。本当に助けてくれたのか。…ていうかよく見たら物凄い美人だ)
ビッグクワガタを倒してくれた救世主はキラキラ輝く長い金髪、整った顔立ちに碧眼の目。身体はスラっとした長身。そして何より目立つのが大きな胸だ。服の中にスイカでも入れてんの?と聞きたくなるぐらいのビッグサイズだ。もしこんな美人が都会を歩いていたら、ナンパされない日などないだろう。それほどに美しいという言葉がピッタリな人だった。
(ていうか今更だけど日本語通じるんだな)
とにかく、ここに人がいることに祐大は大いに安心できた。ひとまず祐大は自分が一番気になっている事を聞いた。
「何カッp…ここは何処なんですか?」
欲望にちょっぴり正直な祐大だったがなんとか質問できた。
「ん?ここ?草原だけど」
「いやそんなん見りゃ分かりますって、そうじゃなくてここはなんて地名なのかってことですよ」
天然なのだろうか?祐大は不安を抱えながら再度聞き直す。
すると女性はああなるほどと言い、改めて質問に答えた。
「ここはオルアド王国領地内のスタレス草原だよ〜。まぁ領地内と言っても端っこだけどね〜。そんな質問してくるって事は君旅人さん?」
(聞いた事無えええええええ!え?何ここ日本ですらないの!?皆勤賞とかそんな事考えてる場合じゃなかったああああああ。馬鹿か僕は!!馬鹿なの?死ぬの?)
と衝撃の事実を受けて、混乱状態で自分を罵倒する始末。
「ちょっと〜。無視しないで欲しいな〜」
(だからいつもクラスメイトにお前は変わってるとか言われるんだよ。大体…うわっ!)
やっと自分の世界から戻ってくると、なんと目の前には頬を膨らませ顔を覗き込んでくる美女の顔があった。
「だから〜、君は旅人さんか聞いてるんだよ〜」
「えっ?いや、あの、その…ち、違います」
「じゃあ、こんなところで何してたの?」
「えっ?えっと…お、お姉さんこそここで何してたんですか?」
何と説明すればよいか分からず、質問返しで誤魔化す祐大。
「私?私はね〜…えっとこの辺のモンスター退治をしていたんだよ〜」
その発言は祐大が抱いてた予想を確信的な物にさせた。
(モンスターと来ましたか…これはもう異世界確定だな)
薄々気付いていたのだ。あんなデカいクワガタが自分の世界にいる訳がない。一定以上の大きさの昆虫は自分の重さに耐えきれないため、存在できないのだ。ちなみにこれは全ての陸上生物に当てはめられる。なのに実際自分の前に巨大な昆虫が現れた。となるとそんな常識も無視してくれる様な世界、異世界としか考えられないだろう。
(恐竜みたいにスカスカの骨で軽くしてるとかならともかく、恐らく僕の知ってるクワガタとほとんど同じ身体のつくりだろ。となるとここに住んでる人達が巨大な生物を恐怖の例えとしてモンスターと呼んでるのではなく、常識の通用しない、本当のモンスターという意味か)
そこまで思案して気付く。
(そういえば、この人…異世界人はどうやってモンスターを倒したんだ?)
見た所なにも持っていない様だ。素手で倒したということも無いだろう。筋肉など全く付いてない柔らかそうな細腕だ。そもそもモンスターは切り刻まれていたのだ。という事は刃物、それもかなり大きな物を持っているはずなのだが。
(あのビッグクワガタを切り刻んだ後壊れたという可能性も…低いだろうな)
祐大は疑問をそのままにしておける様な性格では無かった。我慢出来ずに質問する。
「お姉さんはどうやってモンスターを倒したんですか?」
「お姉さんじゃなくて、私はリリー・ラクシタンだよ〜。リリーって呼んでね〜」
「……リリーさんはどうやってモンスターを倒したんですか?」
「そんなのウインドカッターで一撃さっ」
とりあえず女性の名前は分かった。
しかしこれは元々祐大が知りたかった事ではない。
「ウインドカッターってなんですか?」
(ウインドのカッターだよ〜とか言ったらもうこの人に質問するのは絶対に辞めよう)
「あれ〜?結構有名な魔法なのにな〜。ウインドカッターっていうのは風魔法の1つで風を無数の不可視の刃に変えるんだよ〜」
もう祐大も驚きはしない。ここは異世界なのだ。魔法があっても何一つ不思議ではない。夢を見ている気分だが、夢ならばこんなに自分の思考がスッキリしているはずがない。
「さて、そろそろあなたこそこんな所で何してたか教えてくれないかな〜」
誤魔化しきれると思いきや、先延ばしにしかならなかったようだ。もう話すしかないだろう。ひょっとしたら力になってくれるかもしれない。
「実は…」
1分後…
「へ、へえ そうなんだ〜」
(なんか引かれてるんですけど!?)
こちらの世界の価値観でも異世界云々は信じられてないのだろうか。だとするとこの反応は当然とも言える。もし自分が知らない奴にそんな事言われたらドン引き以外無いだろう。
「やっぱり信じられないですよね」
「いや…信じられないって訳じゃないよ〜、ただ目の前の男の子が異世界人って言われても実感湧かないんだよね〜。君の世界にはそんな凄い魔法を使える人がいるの?」
「いや僕の居た世界では魔法なんて存在しませんよ」
「ええええええ!?そんなのどうやって生活してるんだよ〜」
「魔法の代わりに科学が発展しています」
一応科学という単語そのものは通じるはずだ。しかし魔法なんて便利な物がある代わりに科学技術は発達してないのがファンタジー世界のお決まりだろう。
「う〜ん、科学の力だけで発達している世界かぁ。想像できないなぁ」
「世界の法則を知り、そこから結果を生み出しているというだけですよ。魔法も同じ事が言えるんじゃないですか?」
科学とは法則に基づき物事を研究、調査する事だ。魔法にも法則があるのなら、魔法も科学と呼べるのかもしれない。しかし祐大の知っている魔法とは呪文を唱える、杖がいるなどの法則に従い、法則を無視した物を生み出す事だ。これを科学と呼ぶのはやはり不適格かもしれない。リリーも世界の法則内で収まる結果しか生み出さない物だけで発達している事に驚いているはずだ。
「そうだね〜。でもやっぱり魔法が無いって大変だと思うけどな〜。ところでこれからどうするの?」
「そうですね…とりあえずモンスターのいない所へ行きたいです」
流石にもうあんな恐怖体験をしたいとは思えないだろう。
「だったらオルアド王国城下町まで案内してあげよっか?君が元の世界に帰れる方法知ってる人がいるかもしれないよ?」
「じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「うむうむ、護衛はこのリリーに任せとけ〜」
祐大達はアルアド王国城下町へと向けて歩を進めた。
「ま、まだですか?城下町」
「う〜ん、もう少しかかるかな〜。言ったでしょ〜、あそこは領地の端っこだって」
確かに聞いたが、ここまで広いとは祐大も考えてなかった。どうやらアルアド王国は結構な大きさの国らしい。もう1時間以上は歩いている気がする。
「リリーさんはどうしてモンスター退治を?」
「それが仕事だからね〜。私は冒険者なんだよ〜。ダンジョンに潜ったりもするけど、やっぱりクエストをこなしたりする事が多いかな〜」
聞く所によるとこの世界には冒険者という人達がいて世界に存在するダンジョンに潜って宝を手にいれようとしている人達の事を言うらしい。しかし、ダンジョンは危険が多く、死亡率がかなり高い為にダンジョンにあまり潜らず、鍛えた身体を活かして依頼を受け報酬を受け取って生活している人もいる。中にはダンジョンに一切潜らず依頼だけをこなしている冒険者もいるそうだ。
「ダンジョンに潜らなくなったら冒険者と呼べないんじゃないですか?」
「昔はそうだったかもね〜。でも今は冒険者というのは職業の1つとして扱われているんだ〜。だから世界で認められてる冒険者は冒険者協会に登録されてる人達だけを言うんだよ〜。登録された冒険者でないとクエストを受けられない。クエストをちゃんとこなせる人しか冒険者になってほしくないっていう感じなのかな〜。でもクエストを一切やらないっていう人は登録してない場合もあるね〜」
「ちなみにリリーさんが受けたクエストの内容は具体的にどんなのだったんですか?」
「え?えっと……草原を荒らす巨大モンスターを始末せよってクエストだよ〜」
「そうですか。ちなみにあのモンスターは何て名前なんですか?」
「低級モンスターには名前が無いことが多いんだよ。たくさんいたり、とても強かったりするモンスターは公式の名前が付けられるんだけど、さっきのモンスターはあそこにしかいない存在なんだよ〜。だから名前は無いんだよ〜」
「え?あのモンスターあそこにしかいないんですか」
「う〜ん、絶対そうだとは言い切れないけど、少なくとも私はあの形のモンスターは見た事ないな〜。モンスターはね〜、その土地に合った進化をしているから固有のタイプが多いの。だから全く同じ環境なら同じ形のモンスターが別の土地にいるかもね〜。広く知れ渡ったモンスターっていうのはどんな環境でも適応できるタイプって事なんだよ〜」
「リリーさん詳しいですね」
「冒険者なら当たり前の知識さ〜。えっへん」
当たり前とか言いつつもちょっと嬉しそうだ。リリーにこの世界の事、冒険者の事について聞いてる間は、疲れを忘れる事ができる。祐大も男だ、やはり冒険やダンジョンと聞くと自然に心が踊る。祐大はもっと詳しく冒険の話を聞こうとした矢先
「あっ見えてきたよ〜。あれオルアド王国城下町!!」
祐大が遠くを目を凝らして見てみると
「デ、デカい…」
そこには、遠くから見ても分かるほど高い壁に囲まれた町があった。壁のせいで中は見えないがきっとたくさんの人で賑わっている事だろう。
祐大がワクワクが止まらず知らず識らずの内に小走りになってしまうのも無理からぬ事であった。
それを見てふふっと笑いながら追うリリー。しかし祐大の足は城下町に近付いた所で止まった。
「あの〜入り口らしき所に衛兵っぽい人達がたくさんいるんですけど」
「あ〜そういえば、衛兵さん達のチェックを通らないと中には入れないんだった〜」
「それ、僕は入れるんですか?」
「その格好じゃ怪しまれて入れてくれない…かな〜。あははは…」
祐大の格好は制服姿である。祐大の世界ならば怪しまれたりはしないだろうが、こちらの世界では怪しまれる可能性が高い。リリーの格好は植物の皮や動物の皮を使った服で出来ている。それに対して祐大の服は化学繊維である。リリーの様な服が一般的ならちょっとどころじゃない怪しさがあることだろう。
「じゃあどうすればいいんですか?」
「………ごめ〜ん、考えてなかったよ〜」
この人は絶対に天然だと祐大が確信した瞬間であった。
文章力のせいではない…と思う