ep1 2085年、西京
西京。東京と対になる町。
男二人でここまで遊びにきたが、めぼしいものはなし。
あるとすれば『食べ物が高い』、それだけ。
「あー、きおったきおった」
友人の野田洋平は能天気な声を出して空を指差した。
その腕を思いっきり引っぱりながら、
「んな阿呆みたいな能天気な台詞、吐いてる場合じゃねぇっ!」
「阿呆とはひどいこと言うなぁ、なっちゃん」
「ひどいもなにもあるか、今空襲だぞっ!?」
空を見上げればそこには黒い機体が爆弾投下の準備をしている。
アメリカの国旗が黒い機体のプリントされていて、それが良く映えていた。
悲しい田舎人は空に目を向けることはなかったが、西京の住民はとっくに家や建物に逃げ込んでいた。
今、外に取り残されているのは俺と野田だけだ。
「そんなに急がんでもいいやんか、なっちゃん。
だいたい、空襲っちゅーのは一般人をまずどっかやってからやるもんやろ」
「それは2000年より前の話だろ。
お前歴史の授業と現実社会が混同してんぞ」
あれぇ、そうだっけ? などとまたもや能天気な台詞を吐く野田を無視し、
俺は『L』を取り出す。そこには雑多な情報……どうでもいい食品店のセール情報や、
新しいコンビニがどこそこにできたとか、知り合いの連絡番号とか。
『L』。それは2085年にできた情報手段の1つだ。2000年代の最高傑作とも呼ばれる、
現在の技術の進化形態の最終地点。携帯電話が廃れた今、もっとも普及率の高い電子機械である。
様々な企業、会社、そして個人が『L』のネットワークで全世界に、自分を伝えることができる。
今死にかけだという時は『L』一言「助けて!」とだけ言えば全世界にコールされる。
それ以外に、メールや電話、フレンド機能などはもちろん重要な情報の保管、金のやりとりですら『L』で行うこともある。
俺は『L』に浮かぶ雑多な情報を押しのけ、『連絡先』ファイルを呼び込み、
父親に連絡をとった。もちろん親の手を借りるのは嫌だが、そんな状況ではない。
「親父っ、今俺と野田が空襲の射撃地点に居るんだ。
今死ぬ気はないから、助かる方法を教えてくれ」
『マンホール』
返事はそれだけ。それだけで俺は思い出した。
『L』の電源を切ると、俺は野田の腕を引っ張って、マンホールを探す。
「野田ぁ、マンホールねぇか?」
「マンホール?そんなもの探してなにする気や……って、
ああ、政府が少し前に発表してたあれやね」
「そそ。その通りだ」
と、その時、後ろで爆撃が木霊する。
振り替えりそうになるのを堪えて、俺は走り続けた。
振り返る暇を与えてくれるほど、米軍の連中は寛容じゃあない。
「あったやねん。なっちゃん」
「あったか!?」
野田が指差したのは、俺のすぐ下だった。
そこに、マンホールがあった。
「……ありがとよ」
気付かなかった自分の馬鹿さ加減に呆れそうになりながら、俺は野田もろとも、マンホールに飛び込んだ。
◆
『突発的な空襲への対処法はマンホールに入ることです。
今は地面が簡単に崩れない程度の補強はしてありますし、マンホールを通じて
地下水路に飛び込んでしまえば核爆弾でもない限り壁が崩れることはありません』
凄く前に見たテレビ番組ではそんな内容のことをやっていた。
野田と一緒に飛び下りては見たものの、なんだか不安になってくる。
マンホール、つまりは地下水路は安全だということらしいが……。
「大丈夫だろっかねぇ。なんか上がべこべこいってるやん」
まさに俺と同じことを野田がいった。地上を見上げるという珍しい経験をしていても、
上から鳴り響く激しい爆音。補強されたという地面は簡単に悲鳴を上げている。
不安以外のなんでもない。
もし生き残れたら政府に抗議を試みようと俺は思ってしまった。
「なっちゃん、これは西京潰れちゃっとるかな」
「一応爆撃対策ぐらいはしてるんでないの?そうじゃなきゃ、今頃地上はすべて吹っ飛んでるし
まぁ、政府のやった地面補強とやらほど、対策が強いかわからんけど」
「でもさなっちゃん」
いつの間にか、響き渡る爆音は消えていた。
地下水路に響きわたる、野田の声。
小さくもはっきりと、彼は言った。
「なら今頃、地上は壊滅してるんとちゃう?」
一瞬。一瞬だけ心臓が止まる。世界が止まる。
地下水路の水の流れも、水の濁った空気の臭いも感じられない。
「あの地面とやらは、政府が莫大な金かけて補強した代物や。
爆撃では壊れんと政府が言っとるんやから、当然壊れるわけない。
だけんど地面が保障できるのはあくまで『爆撃』だけや。
ほら、政府も核爆弾とかは無理、なーんて言ってたやろ、なっちゃん?」
止まった心臓が動き出す。その動きは早い。
いつもの倍以上、早い。
手には汗。腋にも異常に汗が染み出ている。しかし、背筋は寒い。
俺は野田を置いて壁に設置されている手登り階段に飛び移り、
そのまま猛烈な勢いでそれを登る。地下水路に下りてきた時のように、
マンホールを開けて外を見渡すと、そこには何もなかった。
白い。どこもかしこも白い。
補強されたが核には耐えられないという地面はあちらこちらに凸凹がついていた。
過去に家や建物の並んでいたと言われても、まったくわからない。
微かに黒や赤の灰が塵のように分散しているのみ。
俺は膝から凸凹の地面にへたり込む。
下から、「なっちゃん、どうや?」という能天気な声が聞こえた。
黒蜂です。あとがきめんどうなので、以降はほんの少ししか書きません(
今回、とりあえず急いで書くことが目的だったので、仕上がりがちと雑ですな。
そのうち修正します、できれば