攫われた無詠唱魔法師と詠唱魔王の師弟婚約
一本短編書くだけでも凄い大変だった!
「魔王もとんだ卑怯者」
「何がだ?」
「仲間を攫って勇者を誘き出そうなんて」
「?」
「それとも追い詰められたら人質にでもするつもり?」
「フム……何か勘違いしているようだが………勇者など眼中に無い」
「嘘、じゃあ何で私を攫ったのさ?」
「…………」
「ほら図星だから言葉が出ないんでしょ」
「ーー我が目的は勇者ではなくお前だ」
魔王討伐を目的とする勇者パーティーに所属する無詠唱魔法師の私、仲間と分断され、魔王に攫われてしまった、魔王の目的は恐らく幼馴染であり将来を誓い合った勇者ロゴミスを誘き出し、ピンチになったら私を人質にでもするつもりなのかと魔王に詰問するも違うと否定され、勇者や聖女より私に興味があるなどという戯言を宣う魔王。
「喋れば喋るほど墓穴を掘るね、勇者パーティーの聖女や勇者が眼中になくてそれこそ多少珍しい無詠唱魔法師の私如きに何の用があるってのよ」
「無詠唱魔法を教えて欲しいのだ」
「…………はい?」
「貴様は見てきた中では一番腕の立つ無詠唱魔法師だ、是非指導してもらいたい!!」
「そ、そりゃ勇者パーティーメンバーに選ばれる以上、私は人類の中でも最優の無詠唱魔法師の一人と言っていいよ」
「おお、それは素晴らしい!!」
「だけど、その、無詠唱な分魔法の威力や効果はたかが知れてるし、単純な魔法しか使えない、高度な魔法を扱える魔王がそんなもの覚えたいの?」
「ああ、もしかしたら貴様は我を至高の存在へと導いてくれるかもしれんからな」
多少珍しい程度の無詠唱魔法師の私に何の用があるのかと問うと、詠唱魔法を極めた魔王が無詠唱魔法の指導を私に頼みたいと言ってきた、確かに無詠唱魔法は詠唱が無い分、詠唱魔法より早く発動できるが、効果や威力はたかが知れてるうえに単純な魔法しか使えない、わざわざ魔王が習うほどのものではないはずだが、魔王は含みのある返答をしてきた。
「?」
「相反する詠唱魔法と無詠唱魔法を極め、融合させる魔法師、〝相剋魔法師〟へとな」
「………〝相剋魔法師〟」
……『相剋魔法師』、私は無意識の内に彼の言葉を繰り返し呟いていた、発動までが早いが効果や威力、単純な魔法式しか組めない無詠唱魔法と手間がかかるが、効果や威力が高く、複雑な詠唱魔法、もしこの二つの魔法技術を極め、融合させ、発動が速いうえに効果や威力が高く複雑な魔法を使える、そんな机上の空論を体現できるなら確かにそれは魔法師にとって一つの到達点だ。
「…………それじゃあ三つ条件がある」
「何だ?」
「一つ、人類との和平を結ぶ事、二つ、詠唱魔法を私に教えて、三つ、指導期間は和平の使者がくるまで」
「…………そんな事か、そもそも人類との戦争はあちらの条約破棄から始まったに過ぎんからな、別に過満ぞ、ただし我からも二つ条件をつける」
「?」
「一つ、もし和平を結ぶと言いつつ騙し討ちされた場合、人類側の使者を八つ裂きの皆殺しにする、それでも良いか?」
「ーー!、私の仲間や恋人はそんな事しない!!」
「ならば別に構わんだろう?」
「もう一つは?」
「二つ、もしそうなった場合貴様の婚約者の相手を勇者から我にしろ、これでいくらでも魔法の研鑽が可能な上、和平の証としても丁度良い」
「わかった、その条件で良いよ」
私は魔王に三つの条件を提示する、二つ返事で了承する魔王、その代わりに二つ条件を提示する魔王、一つ目が騙し討ちをする前提の条件だったため、私は声を荒げ怒りを露わにする、挑発するように諌める魔王、彼の言葉に少し冷静になり、二つ目の条件内容を聞き了承する私。
「後は貴様の二つ目の条件についてだが無詠唱魔法と詠唱魔法は似て非なる物だ、詠唱魔法を体得させられると確約はできんぞ」
「それはこっちの台詞、無詠唱魔法は抽象的で感覚的な指導内容になる、詠唱魔法師が簡単に理解できると思わないでよ」
「フム、まぁ文句が無いなら我は構わん」
簡単には覚えられないと挑発するように私に忠告してくる魔王、売り言葉に買い言葉というように私も魔王に似たような言葉を返答する。
ーーーーー
「久しぶりロゴミス」
「大丈夫か?!、どこも怪我してないか!」
「心配しすぎだよ、ほら傷一つないでしょ?」
「良かった」
数年後、和平の使者として勇者と聖女が訪れた、心配そうに駆け寄ってくる二人、久しぶりに会えた彼らに私は心の底から安堵する。
「さて、勇者ロゴミス、聖女クリスよ、話は聞いておるな?」
「………ああ、魔族と人類の和平条約を結ぶんだろ?」
「では調印式といこうか」
「ああ」
話は事前に通してあるが念の為確認を取る魔王、軽く頷く二人、そのまま調印式に移ろうとする。
「魔王、ありがとう」
「?」
「ここでの生活は意外と楽しかった、ちょっと名残惜しいかも」
「そうか、なら気が向いたら来い、丁重にもてなしてやる」
「そりゃ良いや、次寄る時は盛大な宴の準備をしといてよ」
私は自然と感謝を述べていた、正直、魔王への無詠唱魔法の指導、魔王からの詠唱魔法の指導、どちらも魔法師として新鮮で楽しく充実した時間、お互いの師匠でもあり弟子でもある奇妙な関係の終わりに切なさと寂しさを感じていた、魔王も私と同じ気持ちだったのか、少し寂しそうな顔で次に出会う事を約束する、それ即ち今日の別れの言葉に他ならない、私も再会の約束という別れの挨拶を口にする。
「ーーーッッ!!?」
「な、何をしてるのロゴミス!!」
「何って魔王討伐に決まってるだろ?、僕達勇者パーティーの目的だ………にしても腐っても魔王、完全な不意打ちだってのにちょっと斬りずらかったよ」
「こんな簡単に隙を晒してくれるとは………なんなら道中の敵の方が手強いくらいでしたね」
「………もう戦う必要なんてないのに………なんで………」
「魔族なんて恐ろしい化け物達と和平なんて結ぶわけないだろう」
「そんな………」
感傷に浸っている私の目に映ったのは魔王の背後から剣を振りかぶる勇者の姿だった、一瞬で斬りつけられ、走る鮮血、断末魔の声も上げられずに冷たい床へと倒れ込む魔王、私は思わず叫ぶようにロゴミスを問い詰める、ロゴミスはヘラヘラと笑いながら魔王の斬り心地に文句を言いながら返答する、聖女も聖女で不気味で冷たい笑顔を浮かべながら肩透かしと言わんばかりの言葉を紡ぐ、彼の言葉にショックを受けながら血に染まる魔王へと寄り添い、涙を流しながら何故と呟いていると、当たり前のことの様に魔族を蔑む勇者。
「さてと………次は君の番だ」
「………え?」
「勇者が魔王を騙し討ちしたなんて目撃者がいたらまずいだろ?」
「それに幼馴染如きが勇者様と婚約など相応しいはずがありません、勇者様に相応しいのは聖女たる私です」
「それじゃあ………死ね」
倒れ伏した魔王の胸の上で泣きじゃくる私に剣を構える勇者、あまりの出来事に呆然とすることしか出来ない、つらつらと出てくるのはとても人とは思えない外道の理屈、理路整然と語る聖女と勇者、私の命を断つ為に大上段から剣を振り下ろす勇者。
「~ーーーやらせん」
「ーーーッッ!?、な、なんで生きてるんだ魔王!!」
「どうして?」
「斬られる寸前に無詠唱で防御魔法を使っただけだ、完全に防ぎきれなかったが、それでも致命傷は防いでくれたわ」
「魔王が無詠唱魔法を使うだと………バカなあり得ない」
「まさか、貴方が教えたのですか!」
「………それが今回の和平条約を結ぶ為の交換条件だよ」
私にはもう目を瞑ることしかできなかった、ーー瞬間、何か硬質な物同士がぶつかり合う音が鳴り響く、耳障りな金属音に訝しげに瞼を開けた私の目に映ったのは勇者の凶刃によって倒れた魔王だった、彼が剣で勇者の剣を防いでくれたようだ、どうやら無詠唱魔法で咄嗟に防御魔法を展開し、何とか致命傷を防いだとの事、詠唱魔法を極めた存在である魔王が無詠唱魔法を使った事に驚愕した聖女と勇者、すぐに無詠唱魔法師の私が指導したのだと推察する彼等達、今回の和平条約の交換条件である事を明かす私。
「下がっていろ無詠唱魔法師」
「いや私も手伝うよ」
「同族殺しに加担するというのか?」
「同じ人間、いや仲間だったからだよ、戦意のない相手を後ろから斬りつける恥知らずを許すわけにはいかない………聖女の方をお願い、勇者は私が片付ける」
「良かろう」
約束通り、二人を八つ裂きにする為、歩みを進めながら私に後退を促してくる魔王、私は拒否して一緒に戦う事を誓う、もしかしたら私が気づかないだけで昔からこういう性格だったのかもしれないが、それでも過去一緒に旅をした仲間、魔王だけに重荷を背負わせるわけにはいかない、仲間だからこそ、私にしかつけられないけじめがある。
「フン、魔法師風情が勇者の俺の邪魔をするな!!」
「ーー〝魔石弾〟」
「無詠唱魔法か!、だが俺には通用しない!、終わりだーー!」
「〝岩石の沈黙者よ、挟撃の詠唱に従い、追随者の法則へと収束せよ魔岩砲弾〟!」
(なっ!!?俺が切った初級魔法を中級魔法に変化せて背後からーー!?)
「ざ、残念だっ~ーーー」
「ーー〝魔石弾〟」
「しまッッッッーーーー痛ッッッ!!」
「拘束石」
無警戒に前から突撃してくる勇者に初級土魔法を放つ、しかしそんな物当然効かない、簡単に魔法を切り裂き私に突進しようとした時、私は口早に詠唱を紡ぐ、詠唱に応えるように勇者に斬られ、霧散寸前だった魔法は魔力を漲らせ始め、背後から勇者へと飛翔する、斬った魔法が後ろから襲ってくるなど流石の勇者も想定できなかったようだ、しかしそこは腐っても勇者類い稀なる反射神経で何とか剣で防ぐ、だが後ろを向いているということは必然前が死角になるという事、私はその隙を逃さず無詠唱魔法で頭を初級土魔法で撃ち抜く、頭を強打された勇者は一瞬呆け、その間に無詠唱で拘束土魔法で彼を拘束する。
「なっーー、だ、だが無詠唱の拘束魔法程度なら力尽くで無理やり抜け出せーー」
「〝沈黙者の大地よ、縛めの詠唱者に従い、追随者の法則へと収束せよ拘束魔岩石〟」
「ーーッッ!、た、助けてくれ」
「誰に助けを求めているのかな勇者ロゴミス殿?」
「あっ………」
拘束されて一瞬慌てるも直ぐに無詠唱魔法程度の拘束力なら勇者である自分を完全に抑え切れる事はないと看破、すぐさま力づくで抜け出そうとするも、その瞬間に詠唱を開始し、魔法の拘束力を強化する、強化された魔法から逃れられないと察した勇者は聖女へと助けを求めるも、どうやら既に魔王が聖女を片付けてしまったようだ、絶望の表情を浮かべる勇者。
「…………」
「助けてくれ!!頼む!」
「〝模倣、投影、後塵、前進、弱者と強者、真理の連鎖、雌雄を決す追随者となれ魔岩烈弾〟!!」
無言で立つ私に命乞いをする勇者、しかし私は聞く耳をも立たず中級土魔法の詠唱を唱え、複数の巨大な岩石で勇者と聖女をまとめて押し潰した。
「………傷は大丈夫?」
「ただのかすり傷だどうってことない、それよりもどうする?、別に貴様が嫌だというならあの条件は無かったことにしてもよい」
「ファスティー・エーデルシュタイン」
「?」
「私の名前………貴方の名前は?」
「ギルベルト・ウルトスだ」
「もし無事にギルベルトと結婚できたら私の名前はファスティー ・ウルトスだね」
「そうか………そうだな」
「今日はどんな魔法の言葉を教えてくれるの?」
「そうだな、今日は上級魔法の詠唱に挑戦してみるか?」
「上級魔法か、それは少し骨が折れそうだね」
私の甘さから招いた魔王の傷の具合を聞く、擦り傷だと嘯く魔王に何だか少し救われた気持ちになった、私達が交わした交換条件についてどうするか聞いてくる彼に私は彼に自己紹介をする、彼と結婚した時の未来の名を添えて…………そして魔王ギルベルトと私ファスティーは今日も今日とて魔法を教え合い、技術の研鑽の予定を立てる、お互いの師匠であり弟子でもあり婚約者でもある私達、最後はどんな関係になるのか、私には分からない、けどきっとどんな関係だったしても彼との関係は大切にしていこうと心に誓った。
ハッピーエンド!




