第9話 初クエストがS級ってマジ…?
アールの背中を追い、王城の奥へと足を踏み入れる。まず現れたのは、天へと伸びるかのような豪奢な階段だった。
俺たちはそれを、一段、また一段と上っていく。壁には、いかにも高価そうな絵画がずらりと飾られていた。
歴史的な戦いや王族の肖像──視線を奪われそうになるが、立ち止まる余裕はない。
やがて、正面に一つの扉が現れる。
アールはためらいもなくそれを押し開いた。その先には、豪奢な廊下がどこまでも続いていた。
アールは迷いなく歩を進めていく。その背中を見失わぬよう、俺も自然と早足になった。しかし、歩みを進めるにつれて、きらびやかだった空間は次第に静寂へと姿を変えていく。
耳に届くのは、俺たちの足音だけ。
それがやけに大きく、妙に耳に残った。
進むほどに壁の装飾は簡素になり、燭台の数も目に見えて減っていく。
薄暗さが増すにつれ、空気はひんやりと肌を撫でた。
理由はわからない。
だが確かに、胸の奥でじわりと緊張が膨らんでいくのを感じていた。
やがてアールは、何の変哲もない石壁の前で立ち止まった。
「……どうしたんですか?」
そう問いかけたが、返事はない。アールは黙ったまま壁に手を触れた。
すると。
スゥ、と音もなく、壁が歪み、隠されていた扉が姿を現した。
「ダレン君! ついて来るンダ!」
そう言うなり、アールは重厚な扉に手をかけ、力強く押し開く。軋む音とともに、扉の向こうの空間がゆっくりと姿を現した。
促されるまま足を踏み入れる。そこは、まるで王族専用の応接間のようだった。
豪奢な装飾が施された椅子と机が整然と並び、空間そのものが格式を主張している。
窓からは柔らかな陽光が差し込み、床に金色の光を落としていた。王城の奥深くとは思えないほど、明るく、穏やかな空気が漂っている。
「あの……アールさん。ここは、いったい……?」
「ここは、クエストの受付所サ!」
アールは当然のように言った。
「S級クエストは、ここでしか受けられないンダ。王城から直接呼び出され、内容を聞き、仕事に向かう。それが、S級冒険者の流れカナ!」
クエスト。
それは、商人や貴族、あるいは個人が、自身の願いを叶えるために国へ正式に依頼を出す制度だ。
「品を安全に届けてほしい」
「森の魔物を討伐してほしい」
「失踪者を探してほしい」
内容は多岐にわたり、危険度も千差万別。国はそれらを受理し、慎重な審査を経て正式なクエストとして登録する。
報酬、危険性、必要戦力──それらを見極め、冒険者に提示するのが役所の役目だ。クエストにも、冒険者と同じくGからSまで、八段階のランクが存在する。
原則として、冒険者は自分と同ランクのクエストしか受けられない。数多の任務をこなし、名を馳せた者だけが、さらに上の段階へと進める。
(G級からA級までのクエストは、学校の授業で役所に張り出されてたのを見たことあるけど……S級クエストは、こんな場所で受注するのか……)
別世界に足を踏み入れた気分だった。
「じゃあ、クエストを受注しよウカ!」
アールはそう言って、机の上に置かれた鈴のようなものを軽く鳴らした。
──次の瞬間。
どこからともなく白い煙が立ち込め、視界が揺らぐ。
煙が晴れたとき、俺の目の前には一人のメイドが静かに立っていた。漆黒の髪は滑らかに揺れ、上質な絹のような艶を放っている。
華奢な体つきながら、すらりとした長身が優雅な印象を与えていた。整った顔立ちはどこか儚げで、それでいて凛とした気品を漂わせている。
「お待ちしておりました。アール様、フォード様」
そう告げ、深々と頭を下げる。
「こちらが、現在発注されているS級クエストでございます」
メイドはそう言うと、アールに数枚─いや、十ページほどもある書類を差し出した。
アールはそれを受け取り、無言で目を通す。
数秒の沈黙。
やがて一枚の紙に指を差し
「ヨシ! このミッションにしよウカ!」
その紙には、こう記されていた。
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【S級クエスト任務書】
任務内容
上級魔物によって制圧された地区の奪還。
当該地域に生息する魔物を完全に駆逐すること。
目的
・制圧地域の奪還
・すべての敵性魔物の殲滅
・地域の安全確保
危険度
S級
報酬
成功時、相応の報酬を支給する。
備考
本任務は高度な戦闘能力および戦略的判断力を要する。
遂行にあたっては、万全の準備を整え、慎重に臨まれたい。
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紙に書かれた文字が、やけに重く胸に落ちた。




