第31話 めっちゃすごい!!魔法ぱわー!
捕らえた魔獣へ、慎重に歩み寄る。
「ブギィィィ……」
喉の奥から絞り出すような、か細い鳴き声。
頭部の宝石はすでに光を失い、荒い呼吸だけが森に残っていた。
俺は一度、深く息を吸う。
「〚ブロ〛」
空気が裂けた。
風は刃となり、一直線に魔獣を切り裂く。
短い断末魔すら上がらず、魔獣の身体はそのまま地に伏した。
「今のなんですか!!!」
突然、視界の端から顔が飛び出した。
クッキーだ。満面の笑みで、目を輝かせている。
「今のが、魔法だよ」
「あれが魔法なんですか!?」
「ああ……本当に、魔法を知らないの?」
「はい!」
即答だった。
あまりに迷いがなくて、逆に言葉を失う。
魔法は、俺の国では当たり前のものだ。
冒険者かどうかに関係なく、子どもの頃に必ず学ぶ。
文字の読み書きと同じ、義務教育の一部。だから、国民全員が多少なりとも魔法を扱える。
魔法を「知らない」人間なんて、聞いたことがなかった。
魔物ですら魔法を使うのだから、当然知っているものだと思っていた。
「……魔法って、勉強しないの?」
「はい!」
「そうなんだ……」
そう呟いたきり、言葉が途切れた。
森のざわめきが続く。
会話が途切れたまま歩いているうちに、ふと、胸の奥に小さな違和感が浮かび上がった。
(……待てよ)
記憶をたどる。
白衣に身を包んだ、小さな医者。
折れていたはずの腕を、ためらいもなく治したあの光景。
俺は歩みを緩め、思わず口にした。
「……え、でもさ」
クッキーの方を見る。
「コットンさんって、魔法、使ってたよね?」
「えッ!?コットンの力って魔法だったんですか!?」
今度は、クッキーが目を丸くする。
どうやら、コットンの力が治癒魔法だと知らなかったらしい。
「クッキーの村って、魔法は教えてないんだよね?」
「はい!」
「……じゃあ、コットンさんは、どうして魔法を使えるんだろう?」
一瞬、クッキーはきょとんとした顔をしたが、すぐにぱっと表情を明るくする。
「あぁ!それはですね!」
思い出した、という調子で声を弾ませた。
「コットンさん、昔──魔王軍に所属してたことがあったらしいです!!」
「……魔王軍に?」
「はい!そこであの力を学んだとかなんとか言ってたのを聞きました!!まさか魔法だったとは……!」
思考が、一瞬止まる。
魔王軍。
全ての種族の魔物の頂点──魔王が率いる軍隊。
人間は、長い歴史の中で魔王軍と戦ってきた。
かつて世界を支配していた人間の領土を奪った存在。
冒険者や国軍が討つべき、畏怖と憎悪の象徴。
(そんな組織に、コットンさんが…?)
考え込んだまま、魔獣の死骸を持ち上げようとする。
……動かない。
重い。想像以上だ。
「あ! 私が持ちますね!!」
そう言って、クッキーが横から手を伸ばす。
次の瞬間、魔獣は軽々と宙に浮いた。
あまりに自然で、言葉を失う。
(……確かに。この力があれば、魔法なんて必要ないか…)
妙に、納得してしまった。
俺とクッキーは、並んで村へ戻る。
森を歩きながら、クッキーが首をかしげて聞いてくる。
「で!まほうって結局、なんなんですか?」
「えぇっと……魔法っていうのは、魔力っていう、生き物なら誰でも持ってる力を使って、不思議なことを起こす術みたいな物だよ」
「え!じゃあ、わたしも魔力使えるってことですか!?」
「まぁ……勉強とか、練習すれば……」
「やってみたいです!!!」
「じゃあ、今度教えてあげるね」
「はい!!」
屈託のない笑顔だった。
そうして話しているうちに、森を抜ける。
視界が開け、村が見えた次の瞬間、言葉を失った。
黒煙が空へと立ち上り、炎が建物を飲み込んでいる。
村は───めちゃくちゃに燃えていた。




