第29話 魔獣狩りじゃあ!!
温かい部屋の中で、俺はうとうとと微睡んでいた。
「終わりました!!」
突然、弾けるような声が響き、意識が現実へと引き戻される。
どうやら掃除が終わったらしい。
コットンさんは、クッキーに呼びかける。
「全く……次やったら許しませんからね!」
コットンさんが、呆れたように言う。
「はい!!!」
クッキーは背筋を伸ばし、ピシッと敬礼してみせた。
その様子に、少しだけ眠気が吹き飛ぶ。
クッキーはそのまま、俺の方へ駆け寄ってくる。
「ダレンさん! 行きましょう!!」
「あぁ」
俺は立ち上がり、出口の扉へと向かった。
すると背後から、コットンさんが近づいてくる。
「ダレンさん。クッキーさんを頼みますね」
「はい」
「彼女は……その……元気ですから」
「分かってます。とても」
そう答えた瞬間、クッキーに手を引かれた。
「行きましょう!!」
俺は一度だけ振り返り、
「すみません!ありがとうございました!!」
と頭を下げる。
「は〜い。怪我しないように気をつけてくださいね〜!」
コットンさんの、いつものゆるい声が背中に届いた。
しばらく歩くと、道は森の中へと続いていく。
木々に囲まれ、空気が一段と冷たくなった。
先頭を歩くクッキーに、俺は声をかける。
「クッキーは、何のために狩りをするんだ?」
「それはですね! 今日、お友達が来るからなんですよ!!」
「友達?」
「はい!たまに遊びに来る友達が、今日は初めて村に来てくれるんです!だから、ご馳走したくて!!」
「なるほど……それで獲物は?」
「魔獣です!!」
「……えっ」
思わず声が裏返る。
魔獣──魔法を使う凶暴な獣。
身体のどこかに魔力を溜める宝石のような器官を持ち、そこから一切の予備動作なく魔法を放つ。
ただでさえ獰猛な野生動物が、ノータイムで魔法を撃ってくるのだ。危険極まりない存在である。
だが、その肉は、信じられないほど美味いらしい。
「本当に……?」
「はい!!」
満面の笑みを向けられ、俺は逆に不安が膨らんだ。
「でも、ここ一週間ずっと森にいるんですけど、まだ会ったことないんですよね」
「そうなんだ……」
魔獣は数が少なく、滅多に姿を現さない。
体内の魔力石が高値で取引されるため、乱獲された結果でもある。
今日出会えるかどうかは、正直怪しい。
そんなことを考えながら歩いていると、森に足音だけが響く。
クッキーの表情が、少しだけ焦ったものに変わった。
置いていかれないよう、俺も歩調を速めた──その瞬間だった。
「……え?」
急に身体が浮いた。
次の瞬間、足に何かが巻き付き、視界が反転する。
「おわぁぁぁあ!!!」
逆さまのまま、高い位置で宙吊りになる。
足に食い込むロープが痛い。
クッキーが慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「クッキー!助けて!!」
「わかりました!」
彼女は懐からナイフを取り出すと、信じられない跳躍力で跳び上がり、俺の足に巻き付いたロープを一刀で切った。
「うわっ!」
ドサッ。
地面に叩きつけられ、仰向けになる。
「大丈夫ですか?」
クッキーが、上から顔を覗き込む。
「すみません!!この辺り、村に侵入者が来ないよう罠が仕掛けられてるんです!言うの忘れてました!!」
意識が遠のきそうになりながら、俺は何とか立ち上がり
そして、
バコッ!
「痛い!」
クッキーの頭に、軽くチョップを落とした。
……なんか、したくなった。
一つ、深呼吸をする。
魔獣を見つけるまで、どれくらいかかるのか。
そして、もし出会ってしまったら──俺とクッキーで倒せるのか。
そんな不安が、頭をよぎる。
クッキーは頭を押さえながら、こちらを見る。
「クッキー、行こっか」
「……はい!」
二人で、再び歩き出した。
その時だった。
一本の木を通り過ぎた瞬間、すぐ隣に──異様な気配。
ゆっくりと、首を向ける。
そこには、頭に宝石のような器官を持つ獣が、静かにこちらを見つめていた。
「で、でたぁぁぁぁ!!!」
俺の叫び声が、森に響き渡った。




