第25話 友達だもんね!!!
森の中、土を踏みしめる足音だけが静かに響いていた。
湿った落ち葉が靴底に絡みつき、踏み込むたびにかすかな音を立てる。
「君の村って、どんな人が住んでるの?」
そう尋ねると、目の前を歩くクッキーは振り返り、ぱっと顔を輝かせた。
「ええっと! 村長とか、メープルとか、ビスキーとかが居るんですよ! みんな優しいですよ!!」
満面の笑み。
やけに弾んだ声。
(……なんか、甘そうな名前ばっかだな)
そう思った矢先だった。
「あ!」
クッキーが声を上げると、小さな体をトタトタと揺らしながら駆け出した。
「待って!」
慌てて追いかける。
枝葉を避け、木々の間を抜けたその先で視界が、ふっと開けた。
「着きましたよ!!!」
クッキーが両手を広げて叫ぶ。
そこにあったのは、獣人の村だった。
丸太を組み上げた家々が、森の起伏に沿うように点在しており、壁には樹皮が残され、屋根には苔と蔦が絡みつき、まるで森そのものが家々を覆い隠しているかのようだった。
家と家の間を、子供の獣人たちが駆け回っているのが見えた。
子供の獣人が走り回っているのが見えた。
(ここが……獣人の村……)
教科書で、文字としてしか知らなかった存在。
だが、実際に目にすると、その暮らしぶりは驚くほど“文明的”だった。
「ささ! 行きましょ!!!」
クッキーは迷いなく村の中へ踏み込んでいく。
俺は一瞬、足を止めた。
緊張と、わずかな恐怖が胸の奥に湧き上がる。
(いざとなったら逃げるか…)
森の方角と距離を頭に叩き込み、覚悟を決めて後に続いた。
石を敷いた道は不揃いで、ところどころに獣の爪痕のような溝が走っている。
村に足を踏み入れた瞬間だった。
獣人たちが、俺を見るなり蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
木陰から。
屋根の上から。
家と家の隙間から金色や琥珀色の瞳が、いくつもこちらを窺っている。
そんな中で、クッキーは、気づいていないのか鈍感なのか、尻尾を揺らしながら歩いていた。
「止まれ」
クッキーの前から声がした。
「あ!メープル!」
そう叫ぶと、彼女は前へ走り出した。
現れたのは、男の獣人だった。
背は高く、引き締まった体躯。
灰と銀が混じった毛並みが、差し込む木漏れ日を鈍く弾いている。
人の形をしていながら、首元から覗く牙と鋭い金色の瞳──オオカミの獣人だ。
彼は一歩前に出て、クッキーを庇うように片手を広げた。
腰には革の鞘に収まった短剣。
柄に手はかかっていないが、その距離が、逆に緊張を煽る。
「……人間が、この森に何の用だ」
低く掠れた声。
喉の奥で唸りが混じり、言葉そのものが警告だった。
(ヤバい……)
喉がひくりと鳴る。
一歩でも間違えれば、何が起きてもおかしくない。
「あの、そ、その…遭難して…そこの娘にた、助けてもらいました!!!」
噛みながら、必死に言葉を絞り出す。
「遭難?」
「は、はい……」
「クッキー。本当か?」
「遭難?」
クッキーは首をかしげた。
(こいつ…!)
クッキーは、まず遭難という言葉の意味が分かってなかったようであった。
オオカミの獣人の手が、短剣の柄にかかる。
「ヒッ…いや…その…」
俺は必死でクッキーを見る。
そして、全力でウインクをした。
「ね!クッキーちゃん!俺ら友達だもんね??ねぇ!?」
「いいえ。友達じゃないですよ?」
キョトンとした顔で、クッキーは言った。
(このクソガキ!! )
気づけば俺は、檻に放り込まれていた。
どうしてこうなった。




