第22話 ゲームオーバー
ダレンは、走る。ただひたすらに、全力で。
アールとアッシャーが即座に振り向き、その背中を目で追った。
「アール。お前が行け」
「なんでだよ」
アッシャーは、足元に転がる死体へ視線を落とす。
「俺は今から、こいつらを片付けてコアを抜くからだ」
一瞬の沈黙のあと、アールは肩をすくめた。
「……分かったよ」
能力を発動させ、アールの身体がふわりと宙に浮く。
「はぁ……」
彼は、面倒そうにため息をついた。
「森って、炎魔法が使いにくいから嫌なんだよな」
次の瞬間、アールの姿は音を置き去りにするような速度で夜空へと消えた。
俺は、木々を縫うように走る。
枝が頬を裂き、腕に突き刺さる。焼けるような痛みが走るが、止まれない。
止まったら、死ぬ。
息が切れ、肺が悲鳴を上げても、脚を前へ出し続ける。
やがて、森が途切れた。
視界が一気に開け、月明かりが眼前に広がる。
道が、ない。そこは、崖だった。
恐る恐る下を覗き込む。
遥か下方。
闇の底を貫くように、巨大な川が流れている。
(……こんな場所が、あったなんて)
国の外に出たのは、この前の試験が初めてだった。だから、国境のすぐ先に、こんな断崖絶壁があるなんて知るはずもなかった。
「おーい」
背後から声がした。
血が凍る。
振り向くと、月を背に、ふわりと浮かぶアールの姿。
「ッ……!」
「もう逃げ場はないね」
次の瞬間だった。
視界が歪むほどの速度で距離を詰められ、喉元を掴まれる。
そのまま、身体が宙へ引き上げられた。
足元には、川。
ただそれだけ。
落ちたら、確実に死ぬ。
俺は必死にアールの腕を掴み、もがく。
だが、その手は岩のように動かない。
「じゃあ、ダレンくん」
アールは、穏やかな声で言った。
「さよなら」
腕に力が込められる。
喉が締まり、空気が遮断される。
視界が、ゆっくりと暗くなっていく。
星も、月も、溶けるように滲んだ。
───そこで、意識が途切れた。
アールは、気を失ったダレンを何の躊躇もなく、その身体を川へ投げ捨てた。
空中で小さくなるダレンの姿。
アールはそれを最後まで見ることはなかった。
ダレンの身体は、激流へと叩きつけられた。白い水飛沫が、闇の中に弾けた。




