第21話 瞬間移動で逃げるだけ
マザーたちが逃げたルートは、ある程度予測がついていた。
孤児院は王国の南口に近い。
ならば、南門から外へ──そう考えるのが自然だ。
俺は、南門へ向かった。
幸運なことに、冒険者とも警備兵とも遭遇しなかった。
気づけば俺は、南門の目の前に立っていた。
巨大な門。
だが、なぜか警備兵の姿はない。
嫌な予感を覚えながらも、俺は門をくぐった。
門の外は、真っ直ぐに伸びる道が目の前にあり、右手には、木々が密集した森が広がっているだけである。
マザーを探す。
だが、どこを見渡しても、マザーの姿はない。
子供たちの姿も、足跡すらも見当たらなかった。
俺は、森へ足を踏み出そうとする。
マザーを探す。
しかし、周りを見渡しても、マザーどころか子供達の姿すらない。
俺は、森に足を運ぼうとした。
その時──鼻を突く、鉄のような臭い。
思わず、足が止まった。
「やぁ」
背後から、声がした。
心臓が跳ね上がり、反射的に振り返る。
そこにいたのは──アッシャーと、アールだった。
呼吸が止まりそうになる。
「まさか、逃げるトハ! 凄イナ! ダレンくンハ!」
アールは、張り付いたような笑顔で拍手をする。
俺は、二人を睨みつけた。
「……何のつもりだ」
すると、アッシャーが楽しそうに笑い、俺の背後を指差す。
その一言で、心臓が嫌な音を立てた。
俺は、ゆっくりと振り向き、臭いのする方へ歩く。
「ッ!!!」
首のない死体が、無数に転がっていた。
俺は、その場に崩れ落ちる。
しかも、その服装は───すべて、見覚えのあるものだった。
「ほら〜。これ見て〜!」
過呼吸になりながら、俺はアッシャーを見る。
アッシャーは、手品師のように手を横へ滑らせた。
魔法が発動する。
現れたのは────子供たちの首だった。
「ッ…………」
言葉が、完全に消えた。
ウィリアム
ニック
アーザム
ポール
メイソン
クララ
ナルシー
ミシェル
ナンシー
そして──マザー
俺の家族の首が、道具のように地面に並べられていた。
「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
叫びとも、悲鳴ともつかない声が、夜に響く。
「おいおい、騒ぐなよ」
アッシャーは、心底楽しそうに言った。
「いや〜、面白かったぞ。子供でも恐怖で発狂するのかと思ってさ。実に有意義な実験だった」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
俺は、殺意だけを胸に、アッシャーへ突進する。
だが
「〚ブン〛」
風の衝撃波が俺を吹き飛ばした。
地面に叩きつけられる。
アッシャーとアールが、顔を見合わせる。
「もう時間もないし、殺すか」
「だな」
アールが近づき、倒れた俺にまたがる。
そして、ゆっくりと喉を締め上げた。
「カッ……」
息が詰まる。
身体をばたつかせるが、力が違いすぎる。
視界が揺れ、星空がやけに綺麗に見えた。
(もう……いいや)
マザーも、子供たちも死んだ。
帰る場所も、守るものも、もうない。
生きる意味なんて……俺は、抵抗する力を抜いた。
ギリギリ、と喉を締め付ける音。
その時。
[「……絶対……何があっても、生き残りなさい」]
マザーの言葉が、再び胸に響いた。
それは、呪いのような言葉。
(……)
俺は、能力を使った。
瞬間移動。
次の瞬間、俺は門の前に立っていた。
「ッ!」
アールが、すぐに振り向く。
「ゴホッ……ゴホッ……」
俺は、喉を押さえ、咳き込む。
(マザーは、俺に生きろと言った。……その遺言を守ることが、今の俺の生きる意味だ)
俺は、意識を集中させる。
アールも、アッシャーも、強すぎる。
正面から戦って勝てるはずがない。
だから──逃げる。
瞬間移動で逃げるだけ。
逃げて、逃げて、逃げ続けて。
いつか必ず──この二人を殺す。
俺は、アールとアッシャーの背後──闇に沈む森の中へと、瞬間移動した。




