第19話 逃走
全員の殺意が、はっきりと俺に向けられた。
まるで獲物を追い詰めた狩人の群れだ。冒険者たちは、じり、じりと距離を詰めてくる。
俺は即座に能力を発動し、連中の背後へ瞬間移動した。
「ッ!?」
一瞬、俺の姿を見失った冒険者たちがどよめく。その隙を逃さず、俺は地を蹴った。
「〚ブルズ〛」
風の移動魔法。足元に圧縮された魔力が溜まり、身体が弾丸のように前へ飛び出す。
「後ろだ!」
誰かの叫び声が響いた。
全員が振り返った、その瞬間──俺はさらに高く跳ぶ。
「逃がすな!」
追撃が来る。
「〚ポザル〛」 「〚ベザ〛」 「〚ボザ〛」
炎、土、雷。刃となった魔法が空を裂き、俺へと殺到する。
歯を食いしばり、空中で身体を捻る。すれすれで回避し、能力を使って地面へと着地した。
「下に降りたぞ!」
怒号が響く。
その声に起こされたのか、町の家々で窓が次々と開いた。
「何だ……?」 「騒がしいな……」
見物人たちの視線を感じながら、俺は走る。視界の端で、窓を開けた中年の男と目が合った。
距離を測る。
──いける。
俺はその窓へ瞬間移動した。
「うわぁぁ!」
男は悲鳴を上げ、後ろにひっくり返る。だが、俺は振り返りもしない。そのまま、向かいの建物の屋根へと瞬間移動。そして、
「〚ブルズ〛」
再び風の移動魔法。足に魔力を溜め、連続して跳躍する。
(本当なら、逃げている孤児院の子供たちに会えば誤解は解ける……)
だが、脳裏にアールの顔が浮かぶ。
(だけど……あいつがいる限り、冒険者たちは構わず殺しに来る…)
額から汗が滴り落ちる。
ある程度距離を稼いだところで、俺は瞬間移動で着地しようとした。
──しかし。
「ッ!?」
何も起きない。
瞬間移動が、発動しなかった。
次の瞬間、俺は制御を失い、地面に叩きつけられた。
咄嗟に魔力で身体を覆ったが、衝撃は防ぎきれない。全身を強打し、視界が揺れる。
身体中が痛い。打撲だらけだ。額から血が流れ落ちる。
(なんで……瞬間移動が……)
立ち上がろうとした、その瞬間。
ぐらり、と視界が歪んだ。
強烈な吐き気がこみ上げ、俺はその場で嘔吐する。
(ヤバい……魔力切れ…か…)
魔力切れ。
魔法やユニークスキルの源である魔力が、完全に底をついた状態だ。
魔力は体力に近い。
使えば使うほど消耗する。走りながら魔法を使うのは、全力疾走を続けるようなものだ。だから魔法使いは、詠唱の際に足を止める。
だが俺は──走りながら魔法を使い、ユニークスキルを乱発した。
魔力切れの原因を、すべて踏み抜いていた。
頭が割れるように痛む。
心臓が、締め付けられるように苦しい。
胸を押さえ、その場に倒れ込む。震える呼吸で、必死に空気を吸い込む。
やがて、少しだけ落ち着きを取り戻し、ゆっくりと起き上がろうとした、その時。
「いた!」
冒険者の声。
(くそ……!)
逃げようと足に力を込めるが、身体が言うことを聞かず、前のめりに転んだ。
「〚ベグル〛」
次の瞬間、土がせり上がり、俺の身体を拘束する。
動けない。
完全に、捕まった。




