第17話 警鐘
(まずい、まずい、まずい……)
頭の中で警鐘が鳴り止まない。
「彼がダレンか?」
「アア。そうだトモ」
アールとアッシャーの視線が、同時にこちらへ向く。
「盗み聞きは、感心しないナァ!」
「い、いや……冒険者カードを取りに来ただけで……」
喉がひくりと鳴る。
「そウカ!」
アールは、貼り付けたような笑顔で俺を見た。俺は、震える声を必死に抑える。
「……嘘、ですよね。フォード孤児院を襲うなんて……」
一瞬の沈黙。
「アー。そういえば、君は、確かそこの孤児院の子供だっタナ」
アールとアッシャーが顔を見合わせる。
「……殺すか」
「だな」
次の瞬間、喉が潰れるかと思うほどの力で首を掴まれた。
「っ……カ、ハ……!」
視界が点滅し、骨が軋む音がする。
(死ぬ!)
本能が叫んだ。
俺は必死に、さっき見た城の外の景色を思い浮かべる。
白い閃光。
次の瞬間、夜風が肺を打った。
城の外だ。
膝から崩れ落ち、荒い呼吸を繰り返す。
(逃げろ……!)
震える脚を叱咤し、走り出した。
──殺気
反射的に振り向いた瞬間、アールが拳を振りかぶって迫ってきていた。
横へ転がる。
ドゴォォォン!!
さっきまで俺がいた場所が、巨大なクレーターに変わる。
「どこへ行くノカナ?」
張り付いた笑顔のまま、アールは言った。
「……」
俺はフォード孤児院を思い浮かべ、能力を使う。視界が白く弾け、全身に鉛を詰められたようなだるさが走る。
だが、成功だ。
俺は孤児院の中に転がり込んだ。
「……あら、おかえり」
スーザンの声。
「来る!アールが来る!早く逃げろ!」
息も絶え絶えに叫ぶ。
スーザンはきょとんと目を瞬かせた。
「はぁ?何言ってるの?」
階段の上から、マザーが降りてくる。
「何騒いでるの?」
「マザー!アールがここを襲うって……もうすぐ……!」
言葉が、うまく繋がらない。
マザーは、困ったように微笑んだ。
「今日は疲れたのね。早く寝なさい」
そう言って、踵を返す。
その時──
コン、コン。
玄関を叩く音。
嫌な予感が、背筋を貫いた。
「あら、誰かしら?」
スーザンが扉に手をかける。
「待っ──
「〚ポグル〛」
火の玉が弾け、スーザンを包み込む。
「ぎゃあああああ!!」
悲鳴と共に、床を転げ回るスーザン。
玄関先に立っていたのは
「こんにチハ〜」
アールだった。
血の気が引くほどの笑顔で、手を振る。
「逃げろ!!」
俺は階段へ向かって叫ぶ。マザーは顔色を変え、必死に階段を駆け上がっていった。
アールが右手を突き出す。
「〚ビガル・ポグ──
俺は咄嗟に体当たりした。だが、岩にぶつかったかのように、びくともしない。
俺はアールに触れたまま、能力を発動する。
(頼む……!)
外の景色を、ほんの一瞬だけ思い浮かべる。
白い光。
次の瞬間、俺は背中から床に叩きつけられていた。
アールも、一緒に。
「なに!?」
バキッ!
蹴りが腹にめり込み、吹き飛ばされる。
「人も運べるノカ、そのスキル!」
アールは、心底楽しそうに笑った。
「いい能力ダ!もう一度、僕と組まなイカ?」
俺は、睨み返す。
「……するわけねぇだろ。カス」
笑顔が、すっと消えた。
「そうか」
次の瞬間、視界が歪む。
反応すらできない速度で迫る影。
「〚ブド〛!」
風の盾を展開する。
だが。拳は盾を貫き、衝撃が全身を粉砕した。
宙を舞い、床を転がる。アールが、ゆっくり歩いてくる。
「全く…めんどくさい─な!」
バゴッ!
顎を蹴り上げられ、意識が白く霞む。
(……皆、逃げ切れたかな……?)
遠ざかる意識の中、アールの足音だけが、やけに大きく響いていた。




