第16話 盗み聞き
俺は、王城の正門が見える位置まで走ってきていた。
夜の城は静まり返り、月明かりだけが冷たく石壁を照らしている。
(……本当は、ダメだけど)
喉が鳴る。だが、仕方がない。
俺は周囲を確認し、能力を発動させた。
瞬間移動。
白い閃光が視界を埋めたかと思うと、次の瞬間、世界は闇に沈んだ。
(……成功、か)
恐らく、シャワー室だ。人の気配はなく、完全な暗闇が広がっている。
(何も見えない……。仕方ない、光魔法は、苦手だけど…)
俺はポケットから魔法補助具の指輪を取り出し、指にはめた。
「〚プリ〛」
囁くように詠唱する。
本来なら周囲を照らす光球が生まれる魔法だが、俺の魔力は不安定で、手元がぼんやり見える程度の光しか生まれなかった。
だが、それで十分だった。
籠が見えた。
(あった……)
床を探すと
(……あ)
籠の下に、見覚えのあるカードが落ちていた。
冒険者カードだ。
(やっぱり……着替えた時に落としたんだ)
胸をなで下ろす。
森に落としていたら、どうしようもなかった。
俺は深く息を吐き、能力を使って外へ出ようとした。
その時。
かすかな声が、耳に届いた。
(……?)
方向は、応接間の方。
俺は一瞬迷い、そして好奇心に負けた。
シャワー室の扉を、音を立てぬようゆっくりと開く。わずかに隙間を作り、覗き込む。
そこには、アールと青髪の無精髭の男がいた。その男には、見覚えがあった。
(うぉぉぉ…本物のアッシャー!)
感動が一瞬、胸を満たす。
だが、すぐに疑問が浮かんだ。
(でも…なんで、こんな時間に?)
俺は息を殺し、聞き耳を立てた。
「で、どうだった?お前が指名した、あの……瞬間移動君は」
アッシャーの言葉に、心臓が跳ねる。
アールは肩をすくめた。
「はっきり言って、期待外れだな。荷物持ちにちょうどいいと思ったのだが、能力の消耗が激しすぎる。レアスキルと言っても、カススキルは存在する」
……頭が、真っ白になる。
「成長が見込めないなら、用済みかな」
胸の奥が、音を立てて崩れた。
(……そんなふうに、思ってたのか)
俺は歯を食いしばり、声を殺した。
「ところで……【赤玉】と【青玉】、使ったんだって?」
「あぁ!最高の出来だった!」
魔物の、焼け焦げた死体が脳裏をよぎる。
「まさか……全部じゃないよな?」
「全部、使ったよ!」
アッシャーは顔を覆った。
「……はぁ。あれ一つ作るのに、人間の【コア】が五つ要るんだぞ」
「はは!そうか!」
血の気が引いた。
【コア】………人間の魔力の源。要は、心臓の事だ。
それを5つ。
(バッグのなにには、何十個もあったんだぞ…!?)
少なくともあの爆弾には、50人以上の心臓が使われているということになる。呼吸が浅くなり、視界が揺れる。
「じゃあ、新しい【コア】を用意しないとな。刑務所の囚人とかは?」
「もうやった。死刑囚も無期懲役も、手当たり次第にな」
「……じゃあさ」
アールは、楽しそうに言った。
「孤児院ってのはどうだ?」
全身が、凍りついた。
「いい案だな。子供の【コア】は、ユニークスキルが刻まれてない分、純粋だ。【赤玉】も【青玉】も作りやすい」
アールが、笑う。
「そうだろ?」
「まずは……どこを狙う?」
「近場だと……フォード孤児院、かな?」
息が、止まった。
「いいかもな。あそこは、女の職員2人だけだったはず。簡単に【コア】を入手できるだろうな」
「いいな!」
体が、震える。
(ヤバい…本当に…)
その瞬間。
「それじゃあ──」
アールが、こちらを見る。
「そこにいる人間にも、意見を聞こうか」
ガシャァァン!!
壁が、爆音と共に砕け散った。衝撃に体が宙を舞い、奥の壁に叩きつけられる。肺から空気が抜け、視界が白く弾けた。応接間の光が、立つ男を照らす。
「おやオヤ!ダレンクン?どうしたんダネ!こんな所デ!?」
わざとらしく笑う、アールの表情があった。




