第13話 地獄絵図
荒れる呼吸を必死に抑え、俺は周囲を見渡した。辺り一面、火に埋め尽くされている。
燃え落ちた家屋、黒く焦げた畑。赤い炎がまだそこかしこで揺らめいていた。
地面には、黒焦げになった魔物の死体が転がっている。
大人の魔物。
子供の魔物。
区別なく、すべてが炭の塊と化していた。体の奥から、すうっと体温が奪われていくような感覚に襲われる。
「たすけてぇぇぇ……!」
「やぁぁぁぁあ!」
いくつもの叫び声が、焼け焦げた空間に反響していた。
まるで地獄絵図だった。
これは火の熱による汗なのか、それとも冷や汗なのか。分からないまま、汗が頬を伝い落ちる。
足を進めた、そのときだった。
叫び声を上げながら、地面をのた打ち回る魔物が目に入った。
身体の半分は焼け爛れ、もう半分は黒く炭化している。
どうして、まだ生きているのか分からない。やがて、その魔物は、力尽きたように動かなくなった。
俺は、無意識のうちにそれを見下ろしていた。もはや原型はなく、ただの焦げた肉の塊。
「……だ……れ……」
かすれた声。
その言葉が耳に届いた瞬間、全身の血の気が引いた。
「お〜い!」
背後から声がした。アールの声だ。
俺は助けを求めるように、勢いよく振り返った。
その瞬間、背筋が凍りついた。
血にまみれ、両手に魔物の首をぶら下げたアールが、ゆっくりと空から降りてきたのだ。
俺は、その場に尻もちをついた。
アールは、両手の首をまるでゴミのように放り捨て、俺を見下ろす。
「ん? どうしたのダネ?」
「……い、いえ……」
その瞬間だった。
ぐぁぁぁぁぁ!!
凄まじい咆哮が、空間を震わせた。反射的に身構える。
「お前ら……絶対に許さねぇ!」
炎の向こうから、重く、恨みのこもった声が響いた。
炎をかき分けて現れたのは、巨大なオーク。
「俺たちが、何をしたって言うんだよ!!」
初めて見る喋る魔物。その光景に、俺は言葉を失った。
「あ〜。まぁ、生きてるからカナ?」
アールは、軽い調子で言う。
「ふざけんなぁ!!」
オークが突進してくる。
腕をこちらに向けた瞬間
「〚ベル〛!」
岩が、とんでもない速度で飛来した。
俺は反射的に横へ倒れ込む。
死が、すぐそこにあった。純粋な殺気。
身体が、思うように動かない。
アールの方を見ると、彼は空中にふわりと浮かんでいた。
オークは、間髪入れずに魔法を放つ。
「〚ダル・ベザ〛!」
(中級魔法……!?)
無数の岩の刃が、俺たちを襲う。
「ちょいと失礼」
アールは俺を軽々と抱え上げ、宙に浮いたまま刃をすべて避けてみせ、俺をゆっくりと降ろす。
オークは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
アールが、楽しそうに笑う。
「君が上級魔物カナ?僕も暇じゃあないンダ!君みたいな雑魚を相手にしている時間はないダヨ!」
「うるせぇぇぇ!!」
オークの全身が怒りで震える。
「俺たちは、ここで平和に暮らしてた!それなのに、お前らは女子供構わず焼きやがって……!!」
アールは、微笑んだまま言った。
「ん〜。煩いな」
次の瞬間。
手刀が、オークの首を薙いだ。
ずるり、と音を立てて首が落ちる。
断面から、血が噴き出した。
転がった頭が、俺の足元まで来る。
その目が、ギロリと俺を睨んだ。
「……死ね」
ブチュッ。
アールの足が、オークの頭を踏み潰した。飛び散った赤い血が、俺の顔にべったりと付着する。
「大丈夫カナ?」
俺は、ゆっくりと顔を上げた。そこにいたのは、血にまみれ、笑顔を浮かべた本物の化け物だった。
「さぁ! 帰ロウ!」
こうして、俺の初めてのクエストは、成功という形で幕を閉じた。




