第12話 虐殺
「びっくりしタヨ!」
アールが目を丸くして、膝をつく俺を見下ろしていた。
「何がって、突然現れたと思ったら、そのままゲロを吐くんだモノ」
「はぁ……はぁ……」
瞬間移動の反動で、肺が焼けるように痛む。喉の奥に残る酸の味を必死に飲み込みながら、俺は片膝を地面についた。
「ス、スキルの……反動で……」
「HAHAHA! そウカ!」
アールは豪快に笑う。
「まぁ、スキルを手に入れたばかりなら、そうなっても仕方がないナ!それは、すまなかったネ!」
白い歯をきらりと光らせる。俺は、メイドから受け取ったバッグを差し出す。
「……こ、これ……何が入ってるんですか?」
「ン?」
アールはバッグを開け、中に手を突っ込む。
そして取り出したのは──大きなボタンが付いた、青い球体だった。
「何ですか、それ……?」
「これはネ、魔法を閉じ込めて、放出する装置なんダヨ!」
球の表面を撫でながら、アールは中央のボタンを指差す。
「このボタンを連続で三回押して、その後に一回長押し。すると、数秒後に中に入っている魔法が炸裂する仕組みサ!」
「す、すごい……そんな物が……」
「アッシャーが、実験的に使ってくれって言ってたもんデネ!」
「えっ……!?あの、大魔法使いのアッシャーですか!?」
「そうダヨ!」
【バリー・S・アッシャー】
五歳で冒険者学校に入学し、歴代最高点を次々と塗り替え、一年で卒業。
その後も魔法研究、魔法道具・魔法薬の開発、高難易度クエストの攻略に明け暮れ、最年少でSランク冒険者へと上り詰めた天才。使える魔法は三千以上とも言われている。そんな人物が作った魔法道具。
(そんなものを……俺が使っていいのか……?)
「ダレンクン! 君は、これを持ちたマエ!」
そう言って、アールは赤い球を俺に投げてきた。
「えっ……!? 使っていいんですか!?」
「もちろんだトモ!」
アール自身は、青い球を手に取る。
「それって、どういう効果が……」
「これハネ!」
アールは、結界の張られた火山口へと青い球を投げ込んだ。
次の瞬間
ズガァァンッ!!
轟音と共に球が破裂し、結界に大きな穴が穿たれる。幻のマグマが揺らぎ、その向こうに無数の家屋と畑。
地下に広がる、ひとつの集落が姿を現した。
「あれが……魔物たちの……」
「ダレンクン!君が持っている球を、あの穴の中に入れるンダ!私は、もう少し結界を壊スヨ!」
爆発音が連続して響く。
結界は、蜂の巣のように次々と破られていく。
(やるしか……ない)
「たしか……三回押して……長押し……」
俺は赤い球を握り、指示通りにボタンを押す。
指先に、微かな振動が伝わる。
そして穴の中へと投げ込んだ。
赤い球は、まっすぐに落下し、魔物の集落へと消えていく。
その瞬間、俺の脳裏に疑問が浮かんだ。
「あの赤い球……アールさんのとは、効果が違うんですか?」
「下を見てご覧!」
言われるまま視線を落とす。
燃えていた。
集落のあちこちで火が暴れ回り、黒い影が転げ回っている。
それが火達磨になった魔物たちだと理解するのに、時間はかからなかった。
「それは、火炎魔法が入った球サ!しかも、破裂と同時に猛毒のガスを撒き散らす!」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の手が止まった。
「ダレンクン? どうしたんダイ?」
「……こ、これって……虐殺じゃ……ないんですか……?」
一瞬の沈黙。
アールは、大きく笑い出した。
「HAHAHA!面白いことを言ウネ!」
彼は、当たり前のことを諭すように言った。
「魔物は人間じゃないンダヨ?私たちに害を成す害虫サ!だから、これは駆除みたいなものダ!」
「……そ、そう……ですよね……」
そうだ。この世界には、絶対悪が存在する。万人が悪だと認める存在。この世界では、それが魔物なのだ。
俺は、冒険者だ。
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
「アァ!」
アールが声を上げる。
「どうしたんですか!?」
「見たマエ!」
よく下の方を見ると火山の外へと、魔物たちが逃げ出しているのが見えた。どうやら、どこかに抜け道があるらしい。
「なるほどネ!火山から外へ出る道があったカ!」
アールは即座に判断する。
「よし、ダレンクン!私はヤツらを追う!君は下に降りて、生き残りがいないか確認してくれナイカ!」
そう言って、アールは空へと飛び立った。
去り際、バッグを指差す。
「下は毒ガスだらケ!バッグの中に、毒を無効化する魔法道具が入ってイル!必ず着けてから降りるンダゾ!」
そして、魔物を追って姿を消した。俺は残されたバッグを開ける。
中から出てきたのは、金属製の腕輪。
「……これか」
腕にはめた瞬間、青白い膜が全身を包んだ。
これで、毒は防げる。
俺は火山口の縁に立ち、下を見下ろす。火はほぼ消え、建物は崩れ落ちていた。
だが、辺りには黄色い霧のような毒ガスが漂っている。
……怖い。
だが、行くしかない。俺は降下地点を定め、強くイメージした。
視界が、一瞬で白に染まり──俺は、燃え尽きた魔物の集落へと瞬間移動した。




