エピローグ「一年後の鏡開き」
あれから一年。再び一月十一日が巡ってきた。
『月光堂』の店先には、今年も立派な鏡餅が飾られている。
そして、その横には、『祝・一周年』と書かれた小さなポップと、湊が執筆したエッセイ本が置かれていた。
本はベストセラーとなり、店の知名度は全国区となっていた。だが、店の雰囲気は変わっていない。あくまで地元の人のための、心休まる場所であり続けている。
「今年も割りますか」
閉店後、蓮が木槌を持ってくる。
「もちろん! 恒例行事ですからね」
湊が袖をまくる。
二人の左手薬指には、お揃いのシルバーリングが光っていた。派手ではないが、職人の手にも馴染むシンプルなデザインだ。
「せーの!」
息を合わせて木槌を振り下ろす。
パカンッ、と小気味よい音がして、鏡餅が綺麗に割れた。
「今年も良い音だ」
「ええ。縁起が良いですね」
二人は顔を見合わせて微笑む。
「去年は、これを割って二人の壁も壊しましたね」
湊が懐かしそうに言うと、蓮が頷いた。
「今はもう、壁なんてありませんよ。あるのは、あなたへの愛だけです」
「ふふ、蓮さんってば、すっかり甘い言葉が上手になって」
「誰かさんの影響です」
蓮が湊の額にキスをする。
「さあ、今年もぜんざいを作りましょう。待ってくれているお客さんのために」
「はい!」
二人は工房へと向かう。
窓の外には、今年も白い雪が降っている。
だが、その雪は冷たくない。
二人で囲む鍋の湯気が、全てを温かく包み込んでくれるからだ。
『月光堂』の灯りは、これからもずっと、この古都の片隅で、人々の心を照らし続けるだろう。
鏡餅が開くように、幸せな未来はずっと開かれているのだから。




