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第3話 新天地

行くあてのなくなった騎士は、かつての聖王国の残滓に出会う

「おい、いつまでそう呆けている」

いつまで経っても動こうとしない騎士に、魔王と呼ばれた男は問いかけた。それもそのはず、調査の名目に来たと思ったらよくわからない理由で煽られ暴走させられ気づいたら城門の外に弾き出されていたのだ。すぐさま理解しろという方が難しい。

「ていうかいつからいたのお前」

ようやく気づいたのか、遺跡で出会ったと思ったらいつのまにか目の前から消えていた自称魔王に対して不躾に尋ねた。

驚くでもなく、ただ淡々と(単に驚く気力がなかっただけかもしれない)騎士は言った。

「ずっと。なんだか面白そうな素質を持っている奴だなあと、好奇心で。姿を消す魔法でこうちゃちゃっと見えなくして観察していた。したらこの有様だ」

悪びれもするでもなく、魔王はそう答えた。

「そうか」

騎士はどこか歯切れの悪い感じの言葉を返した。

まだイマイチ乗り切れない。一気に色々なことが起こりすぎた。騎士に就任してからの数年間、割と真面目にやってきたはずだった。騎士団長には特異な適正を持つ自分を引き上げてもらったという恩もある。こんな、国に刃を向けるなんてことは一度もー...

「ー...なあ、へこんでるところ悪いのだが、先ほどのやりとりを見させてもらった側から言わせてもらうが...要はお前さん、嵌められたということではないのか?」


本人以外知るはずがない情報をひっそりと手に入れてそれを元に相手を煽り、窮地に立たせる。第三者の立場から見ていた感想としては、そんなところだぞー...と魔王は囁いた。

「やっぱり、そうなるか...」

「あの宰相とお前との間に何があったのかは知らぬが、少なくとも宰相の目つきはお前に対して良からぬ感情を持っていたことは一目瞭然であったぞ。...所謂憎しみとか、嫉妬とかそういう奴な」

まあ、派閥争いとかそういう奴なんだろうなあ、と空を仰ぎながら、魔王は騎士の頭をポンと叩いた。

「しかしながらいつまでもこんなところで燻っている訳にも行くまい。...どこか行くアテはあるのか?」


そう尋ねるも返事はない。

家族に害が及ぶことを恐れて故郷には帰れない、とかそんなもの元からないとかそんなところだろうか。

(いや名前からして貴族だしそうすると家に迷惑はかけられないとかそういう理由だろうか)

「...行くアテがないなら俺が紹介してやろうか」

「え?」

魔王はそういうとニヤリと笑うと騎士の方に目線を揃えた。

「母国から弾かれていくアテがないという所だろう。いつまでもそうしてジメジメしてられてもかなわん。来い」

そういうと魔王はいつまでも動かない騎士をひょいと担ぐと軽々しい動作で走り出した。

「行き先はー...そう、お前がつい先日立ち寄った地でもある、聖王国(・・・)レイヴァルクだ」







正義は、立ち位置が変わればひっくり返る。

結局のところ、当事者自身が正義であり相対するものが敵なのだ。お互いの正義をぶつけ合うのが戦なのだ。

聖王国レイヴァルクは邪法に染まったが故に滅んだ、とアーレス王国出身であるフォルケイシスは学んだ。邪法を操る魔王に操られ、人道を逸れてしまったのだ、そう学んだと目の前の男に話した。

そんな国に今の自分が世話になることに対して、フォルケイシスは若干後ろめたさを感じていたのだが、ヴァリスの返答は意外にもあっさりしたものだった。


「だが、それはお前の国がアーレスだから、そういう視点になったのだろう?それにお前さんが直接あの国(村)にやらかしたわけではないだろう。関係ないさ」


魔王は淡々と返す。

「レイヴァルクから見れば逆だ。義のためと言いながら聖王国に侵攻してきた侵略者だ」

「そう...なるか」

「当時レイヴァルクにも兵士はいた。だがアーレスのような屈強な者ではない。だから彼らは俺に頼みにきた。当時魔術顧問として滞在中だった俺に、なんとかこの町を守ってほしいーとな」

「それで、お前はその頼みに応えたのか」

魔王ヴァリスの働きぶりは、アーレスにも伝わっている。

ただしそれはアーレス側からみた彼についてではある。

その物語では縦横無尽に魔法を炸裂させ、間髪入れずに攻撃する。その動きたるや魔族といえどそれを超えたおぞましさ、まさに『魔王』であるー...と。

そんなことをフォルケイシスから聞かされたヴァリスは思わず吹いてしまった。

「そ、そんなに笑うことか?」

「いや、相手から見た自分の描写がやけに盛りすぎているなと思って。...まあ、スゴイツヨイマオウサマを倒して平和をもたらした王国、というのは聞こえが良いしわからなくもないがね」

そういうとしばらくフォルケイシスを片手に担いであちこち飛び回っていたヴァリスだがある程度行くと歩みを止めた。

「流石に1日であの村に行くのは無理か」

そう呟くと、抱えていたフォルケイシスに目をやる。

見るといつの間にか彼は目を回していた。

「人間とは脆いものよな」

「いや魔族が頑丈なんだよ」

目を回しながら反論する。





それから数日、2人は歩き通してようやくレイヴァルクの町に到着した。馬車だとすぐ着いたイメージであったが(それでも5日はかかったのだが)徒歩だと段違いであったらしく、流石にフォルケイシスは少しバテていた。

「なんだ、もうバテたのか」

「魔族と一緒にしないでくれるかなッ...!」

憎まれ口を叩けるなら大丈夫だな、とヴァリスは軽くからかった。そして町の入り口の門に差し掛かる...と何故かヴァリスは道から逸れ、なにもない道端にすっとしゃがみ込んだ。

「何してんだ?」

フォルケイシスが覗き込むと、彼はそっと地面に手を翳していた。その様子を訝しんでいると突然地響きと共に地面から階段が現れた。


「地下への階段?!」

いきなりの展開にフォルケイシスはかなり驚いた。そんな彼を横目にヴァリスはすいすいと階段に足を踏み入れる。

「いいから入れよ」

スッと目で示す。なかなか渋っていたフォルケイシスであったが、意を決して足を踏み入れた。


足を踏み入れた先は、地下ながらも見事な町が広がっていた。地上の町も田舎ながらそれなりににぎやかであったが、ここはその比ではない。賑やかさだけなら王都にも勝るとも劣らない。

「まさか地下にこんな町があろうとは…」

驚きと感嘆でしばらく立ち尽くしていたフォルケイシスを眺めながら、ヴァリスが誇らしそうに呟いた。


「これこそ戦いに敗れた後も数百年間ひっそりと生き延びていた聖王国レイヴァルクの真の姿にしてその末裔たちが住む聖国家の真の姿だ、驚いたか?」


フォルケイシスは驚きのあまりしばらく声を出すのを忘れてしまった。


「あれ、ヴァリス様?!」

「ヴァリス様、封印されていたはずでは?!」

住民はヴァリスを見つけるが否や、口々に同じようなことを口にした。なるほど土地が違えば魔王も英雄になるのか。そんなことをフォルケイシスは実感していた。

「迷惑をかけてすまなかったな皆の衆。ようやく封印が解けたのでな、ほらそこの男が」

そういうとヴァリスは入り口で申し訳なさそうにしているフォルケイシスを指差す。すると民衆は一斉に彼の方に向き直り、ありがとうございます、まさか今になって解いてくれるとは、と口々にお礼を滝のように浴びせた。

「い、いや俺はただ成り行き上...」

民衆のパワーあふれる熱意に押されていく騎士の様子を、ヴァリスはニヤつきながら壁にもたれかかってしばらく眺めていた。



それからしばらく、2人はレイヴァルクの地下の町を散策した。地下といえど野菜市場もあれば魚市場もある。武器屋もあれば防具屋もある。どこから仕入れているのか不思議に思えるが、店の主人曰く、地上の店と連携しているのだと。表的には地上の商人同士の取引が主だが、その裏で地下とも取引する者もいる。仕入れの値段は多少上乗せされるがねー... と、地下の店主は自重気味に言った。


「ここならそう王都の奴らにも見つからないだろう、ここででしばらく暮らしながら対策を練ればいいさ」

そう言いながら最後に入ったのは割と大きめの宿屋であった。宿屋の女将は気前の良いおっかさんといった体で、気持ちよく部屋に案内してくれた。あまりにもスムーズすぎてフォルケイシスは逆に若干もたついてしまうほどだった。


部屋に入るとヴァリスはおもむろにコーヒー豆を袋から出すと慣れた手つきで淹れ始めた。部屋にコーヒーの香りが漂う。淹れたてのコーヒーを差し出しながら気にすることはないさ、と呟いた。


「というか、俺はつい先ほどまで王都の命令であの村に赴いたんだぞ。俺がこの村にいたらそれだけで王都の追撃とか来たりしないのか?」

至極当然の疑問を、フォルケイシスは口にする。

追放ということは、アーレス側からすれば罪人扱いなのだ。その様な奴を囲ったら最悪ー

「その点については心配要らぬ。そもそもお前は追放刑だろう?あの宰相とのやりとりも見ていたが、ああいう輩はおそらく本気で消したいと思うなら本気で消してくるぞ。追放で済んでいるということは、現状その程度だということだ」

シリアスな口ぶりでヴァリスは言う。

「まあ例え進行してこようが、俺が追い払ってやるから安心しろ。そのぐらいの力は持っている。それにな、この村の連中も只者じゃないからお前が思っている様な最悪な事態にはならないさ」

「…だといいんだが」


とはいえ、この村を出たところで何処に行くのか?と言われると言葉につまる。

フォルケイシスは申し訳なさそうな、自分が情け無いとでも言いたげのような不安げのある声を発した。

「いいんだよ、それで」

ヴァリスはコーヒーを飲み干すとゴロンと横になった。


地下の空は暗く星も見えない。

何処までも続く暗い天井を見ながら、まるで先が見えない今の己自身そのものだな…と自嘲しながら彼はベッドに横になった。


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