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Other Worlds  作者: ゴマみそパスタ
0章 極上の火打石
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6話 パラドックス

「…は?」

(同僚に変装して、この市に入った…?)

「…ちょっと待て!地上で同僚に変装したところで、入るときにバレるだろ!同じ人間が2人も居たら」


この市の入り口は一箇所だけだし、見張りが居て、人や魂の出入りを管理している。


(入るときになんか色々手続きするし、あそこで確実にバレる!)

「依代だ。常套手段としては、己の寵愛の因…その余燼を封ずる。」

訳)普通は変装対象を動けない場所に閉じ込めておくものだ。

(どうやってそんなことするんだ…?)


地上から冥土町の中にいる者に干渉するのは不可能だ。


「依代の(カルマ)は地上にて果てへと向かっていた…ということだ。」

「…は⁉︎」


地上での任務。

確かに言われてみれば学生時代の悠馬が出た任務には地上でのものもあった。

というかそっちの方が多かった。

なぜ今まで気づかなかったのだろうか。

〔リンゴ〕は地上で仕事中の悠馬たちの同僚に変装して、再びこの市に入ったのだ。


「此の様式は欠陥だ。依代の供給が天災の前の理想郷の如きものだからだ。よって、カルマが罰へと転ずる諸説は、彼奴のソウルにもとより生じていなかった…爆薬は間に合わせだろう。」

(俺たちの同僚に変装するのはアドリブの作戦だったのか…)


確かに、地上で任務にあたっている委員の職員の位置なんて分かるわけがない。

計画しようがないだろうし、もっと確実な方法もあるだろう。

爆薬も元々使う予定がなかったのだから、倉庫の軽油を利用して規模を上げないと大きな被害を出せるものはなかったはずだ。


「戻るぞ。此の場の禍根は除けど、未だ禍根の有無は重ね合わせにも見えるものだ。」

「まあ、これ以上できることはなさそうだな。」

「さあ我が器を担ぎ、躍動せよ…」


〔セトラ〕はまだ毒が回っているため、動けない。

一応、毒に対する抗体は投与されているので死にはしないだろう。

若干撃たれた背中が痛いが、〔セトラ〕は直接触れないようにしてくれている。

悠馬は〔セトラ〕をおんぶして走り、倉庫から出る。


「ふんっ…!」


そのまま1番近くにある窓を叩き割って外に飛び出した。


「無事でしたか。いやあ、よかったですよ」


悠馬が着地すると〔ツツジ〕が駆け寄ってくる。


「こちらは避難完了してます。そちらはどうですか?」

「至上に至らぬ安寧だ。最大の禍根は除いた。」

「爆弾は解除できました。〔セトラ〕のお陰です。」


冷静に考えて、悠馬は〔セトラ〕に頭が上がらない。

今日だけで2回も命を救われている。


(なのに…なんか、尊敬できない…)


言動を見ていると古傷を抉られるからだろう。

しかも、たまに悠馬も分からない厨二病言語を使う。

年齢的にも悠馬の黒歴史の強化版みたいな存在だ。


「すいません…班長、逃げられました…」


〔スズメ〕が戻ってきた。


「いえ、大丈夫ですよ。相手が相手ですから。まだまだ新人なんですから失敗しても大丈夫です。」

「未だ(カルマ)は果てへと向かう。罰は早いぞ。」


〔セトラ〕が言う。


(えーっと、なんか通訳した方がいい気がするけど…厨二病言語分かるのは普通にはずい…)


だが、それでも内容が内容だ。

確認しておかないと後々問題になるだろう。


「まだやるべきことがあるってどう言うことだ?〔セトラ〕。」

「儀の贄…依代の解放だ。祠が地上であることは自明だろう。」


言われてみればそうだ。

〔リンゴ〕に変装された職員も動けないところに、十中八九地上のどこかに閉じ込められている。


(というか…まだ救出してなかったのか…)

「どういうことですか?」


〔ツツジ〕が尋ねる。


「まだやるべきことがあるというのは?」


当たり前だが〔セトラ〕の説明だと〔ツツジ〕には通じていないらしい。


(意味の分かる自分が恥ずかしくなるな…)


とりあえず悠馬は通訳をするべきだろう。


「〔リンゴ〕はこの市に入るとき、地上で任務中だったうちの職員に化けたらしいんです。その人はまだ地上のどこかに囚われてるだろうから探さないと。」

「えっ…」


〔スズメ〕が小さく声を上げる。

元々顔色は良くない〔スズメ〕だが、今の顔は顔面蒼白という言葉がよく似合いそうだ。


(あんなに引き攣った顔してどうしたんだ?)

「あの…僕、〔リンゴ〕を取り逃がす前に…同僚と出会して…その人から〔リンゴ〕がどこに行ったか…聞いて…」

「「「!」」」


〔セトラ〕はボディブローを喰らって息を吐く直前のような表情になり、〔ツツジ〕は目を大きく見開いた。

恐らく悠馬も側から見れば、開いた口が塞がらないと言う言葉がよく似合うだろう。


「…否、罰は我が(ソウル)に刻印される。伝承を怠った…」


〔セトラ〕の声からして責任を感じているらしい。

確かに〔セトラ〕がしっかり情報伝達していれば防げた事態ではあるが。

いや、〔セトラ〕の言葉は恐らくこの2人には理解できない。

そうなればどちらにせよ同じだろう。


「いやー…まあ、そんな時間はなかったんで誰も責められないですよー。僕が病院来て、〔スズメ〕さんと出会した瞬間、上の階から〔セトラ〕さんの声聞こえてたんで…」

「…急に呼び出されて、その上班長と会ったんでびっくりしましたね…」

(2人とも病院まで来れたんだ…)


そこまで意思疎通できるのは意外だ。


「まー、とにかく皆さん無事で何よりですよー。これから増援に来る方々に色々説明しなきゃなんで今は肩の力抜いといてくださーい」


〔ツツジ〕が言う。


(増援なんて呼んでたんだ…)


今回の事件で悠馬は何もできなかった。

助けられてばかりいた。

沢山の人に迷惑がかかっただろう。


(俺がもっと…しっかりやれてればな…)


勿論、悪いのは〔リンゴ〕だ。

だが、悠馬がもっと強ければ〔リンゴ〕を捕まえることすら叶ったのではないだろうか。


(もっと…もっと強くならないと…〕


悠馬は強くなくてはいけない。

強くなければ、自分も、身の周りの人も、守れないのだから。




_今回の〔リンゴ〕の動きは若干おかしかった。

〔リンゴ〕はかなり経験豊富な暗殺者だ。

任務が失敗したときのサブプランが用意されていないというのがそもそもおかしい。

リカバリー自体はしようとしているのだから重要性の低い案件ではないはずだ。


「解は深淵の最奥に…」


やはり不可解だ。

軽油が入った倉庫の場所が即座に分かったというのも気にかかる。

やはり、リカバリーのプランは当初から計画されていたのだろうか。

だが、地上で任務中の職員と成り代わるというのは、プランの一つとして設定するにしてはどうにも安定性に欠ける。

というより、成功することが奇跡に近い。


「転じて…」


最初から任務中の職員の位置が分かっていたらどうだろうか。

それならギリギリ使えるプランにはなる。

とはいっても、任務中の職員の動き方なんて分かるのだろうか。

そもそも脱獄騒動のときの牢のパスワードといい、〔ウォーク〕の配属先といい、情報が明らかに漏れている。

だが、内通者がいるのであれば、それをわざわざこちらに明かしているようなものなのだ。

どう考えてもいささか不可解、非合理的だ。


(古事の此の淵源…未だ深淵に沈む真理の一頁といったところか…)


恐らく、これで終わりじゃない。

まだ埋まっていないピースがある。


「然らば…闇より引きづり出してやろう。貴様等の企てを…!」


裏切り者は誰なのか。

亜人対策委員会の目的は何なのか。

これからだ。

〔セトラ〕たちで残ったピースを埋める。

そう決心して〔セトラ〕は反省文に向き直った。

〔セトラ〕さんはカメラの無断設置がバレたため、反省文を書かされることになりました。

かわいそ。

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