11話 失踪者たち
「〔雷神〕さん!前方をやってくれ!」
「了解!」
「ハッチの近くもです!」
現在、悠馬は潜水艦の中を飛び回っている。
話に聞いていたロボットによる拘束を防ぐためだ。
硬化で作った鉱石を振り回して、ロボットにぶつける。
ソナーで探知して、進行の邪魔になりそうなものを優先的に弾いている。
(硬化もまだまだ使える…!)
竹田努との戦いでは、一度に大量に鉱石を合成しすぎた。
結果、ボマーと戦ったとき、大怪我をする羽目になったのだ。
今回は戦う力を残すため、なるべく鉱石を小さく作って弾いている。
それに加えて、潜水艦の巨大な艦隊に虫のように群がるロボットを全て叩き落とすのは不可能だった。
だから叩き落とす相手は選ばれている。
「魚雷の用意はいいな!」
「はい!」
「発射用意!3…2…1、発射っ!」
魚雷が発射される。
「着弾しました!入り口は…まだ破損は見られません!」
「よし!続けるぞ!」
そうして、魚雷を撃ち続ける間、悠馬は艦内を飛び回り、ロボットを弾く。
おそらく、最も苦労したのはソナー係だった。
悠馬の方に無線で指示を出しつつ、入り口が突破できたかどうか確認しなければならないわけだから。
「入り口!突破成功です!突入!」
魚雷発射5発目にして、侵入できる程度の穴が空いたらしい。
「小型艦に乗り換えます!乗組員3名と突入部隊は移動してください!」
悠馬たちは小型艦へと乗り込む。
この潜水艦は、小型艦を搭載しており、切り離すことで、小型艦も少しの間は移動できる。
「切り離すぞ!3、2、1、せいっ!」
小型艦が切り離される。
乗組員3人が位置を慎重に調整して、小型艦は入り口から侵入した。
潜水艦による侵入という試みは今回が2回目だ。
腫れ物海域が問題になってきたのは8年前。
そのときはまだ、魂であればすり抜けて侵入できたらしい。
その際の調査によれば、避難文明はロボットにより、自動で増築され、拡大しているとのことだった。
一時期施設を取り壊す計画もあったそうだが、失敗に終わったようだ。
理由は数え切れないほどあったが、1番の理由は、一部調査ができなかったところがあったことだろう。
現在の第六階層にあたる部分。
そこに行った職員は誰1人として帰ってこなかった。
厄介なことに、施設の、増築、点検、再生を行うためのロボットは、第六階層からも湧くようだった。
そして3年前。
魂は避難文明の壁を通り抜けられなくなった。
何者かによる構造物の改築が原因だと推測されたが、これ以上はリスクが大きいと考えられ、調査は停止された。
そして現在。
悠馬たちはその地に足を踏み入れた。
「では、私たちはここで待っています。」
今回、突入のメンバーに選ばれたのは、〔雷神〕、ポラリス1、ウラヌス4。
ウラヌス4は乗組員の護衛の為に選ばれたので、調査は悠馬とポラリス1によって行われる。
「では、〔雷神〕さん。ポラリス1、行きましょう。」
ポラリス1の班長、〔ホープ〕が言う。
「はい!」
ポラリスは、潜入、調査を得意とする自由戦力。
ポラリス1は潜水艦内での反応を見るに、落ち着いた人ばかりだった。
悠馬たちは第一階層へ足を踏み入れた。
「ここが…」
第一階層。
悠馬たちが足を進める。
天井にも壁面にも果てしなく続く方眼模様。
昔の調査によると、この避難文明は第六階層まで存在し、第一階層は警備ロボットで溢れかえっていたらしい。
その警備ロボットたちは昔、魂を捉えられず、無害に等しかったそうだ。
だがしかし。
「げっ…」
実体を帯びている悠馬たちは別だ。
悠馬たちを見つけたロボット、5機。
その全てが襲いかかってくる。
(はやっ…!)
ロボットはかなりの速さで直進してくる。
〔セトラ〕や悠馬ほどではないが、近しい速さ。
「ふん!」
悠馬は近づいてきたロボットの内、先頭のロボットを殴って地面にめり込ませた。
ただ、残り4機がその隙に迫っていた。
「うらあっ!」
硬化で作った鉱石をぶつける。
鉱石が全ての機体を貫いて、ロボットが動きを止めた。
「ふー…なんとかなったか…」
「流石ですね。〔雷神〕さん。」
〔ホープ〕が悠馬の前に出る。
「噂に違わない動き。先程、艦内にいたときも助けられました。以降もよろしくお願いします。私どもは戦闘がそこまで得意ではないので」
〔ホープ〕がそう言った直後だった。
ホープの脚が地面に転がる。
「なっ…」
悠馬は間一髪で避けた。
〔ホープ〕が狙いだったおかげでなんとかなったが、そうでなければ悠馬の脚が落とされていた。
「…円盤!?どこから…!」
突然飛んできた円盤が〔ホープ〕の脚を落とした。
(ここに来た以上、命も取られる可能性があるわけか…)
「くそっ!」
今までは拘束など、命までは奪わないような手段で妨害されてきたので、あまり予想していなかった。
(そりゃ…そうだ。リボルバーたちと関係してるところだぞ…ここは)
亜人対策委員会がそんな手心を加えてくる訳が無い。
「うっ…」
〔ホープ〕の口から苦しげな声が漏れる。
「…っ!〔ホープ〕さん!」
「平気です…止血はしました。一つ話があります。」
「…何ですか?」
「私はもう足手纏いです。置いて行ってください。」
「…っ!?」
この状況で、そんなことをしたらどうなるか分かってて言っているのだろうか。
「どこから攻撃されるか分からないんですよ!?」
「それよりも任務です。大丈夫。自分の身くらい自分で守れます。とりあえず入り口まで戻りますよ」
「…なら、私が連れて行きます。」
ポラリス1の班員の1人、〔コル〕が口を開いた。
「…どういうことですか?〔コル〕。」
「班長、1人で歩けないでしょう。」
片足が完全に落ちているので、まともに歩けるようには見えない。
仮にロボットと出会したら終わりなので、誰か付いた方が良いだろう。
「…1人で行けますよ」
「無理です。片脚取れてるんですよ」
「……しかし、私の為にそこまで…」
「片脚も持って行きます。止血して本部まで持って行けば、運が良ければくっつくでしょう。」
〔ホープ〕の言葉を遮るように〔コル〕が続けた。
この場に縫合が使える者はいないので、脚を保管する必要があるのも事実だ。
「〔コル〕。私を運べばあなたがこの先に進めない可能性が高い。任務の成功確率が下がります。」
「第一階層を出なければ大体は無線が使える距離でしょう。それに、この任務で班長を失う方が、長期的には問題ですよ。」
「…分かりました。お願いします。」
〔ホープ〕がようやく折れた。
班長がいなくなった班は果たして機能するのだろうか。
ウラヌス11のときのことを思い出してみると、意外にも大丈夫な気がしてくる。
ポラリス1にも〔セトラ〕や〔スズメ〕のような人がきっと居るだろう。
(それよりも問題は…)
円盤がどこから撃たれたのか。
(そもそも…この方眼模様の天井と壁。横に道があったりするとすごい見づらいんだよな…)
壁から射出されたというのも十分考えられはするが。
先程のようなロボットが円盤を撃ち、一瞬で抜け道を使って逃げた。
そういう線もあり得る。
(とりあえず関節以外は硬化…!)
スピードは少しだけ落ちるが、円盤がどこから飛んでくるか分からない以上、こうするしかない。
悠馬は周りを確認しながら前に向かって駆け出す。
(…あった!)
抜け道。
屈まなければ入れないような大きさではある。
ただ、そんなことをしてしまえば隙が大きすぎる。
悠馬は向かい側の壁を蹴って吹っ飛び、そのまま抜け道を通り抜けた。
真っ直ぐ伸ばした体が顔から順に広い通路へと出ていく。
それと同時に小さめの四足歩行ロボットが視界に映る。
既に円盤が射出されていた。
「…っ!?」
円盤が悠馬の脚を切り落とそうと迫る。
「ふんっ…!」
咄嗟に空中を蹴って脚の位置をずらす。
それと同時に硬化で鉱石を作る。
触手の先端に付いた鉱石をロボットに向かって振り下ろす。
バリバリと音が鳴り、ロボットが尻もちを着く。
「トドっ…メっ!」
悠馬の蹴りがロボットに突き刺さる。
ロボットは壁まで吹っ飛び、そのままバラバラになった。
「…っ」
タイミングを図っていたかのように無線が繋がった。
「後ろ!避けてください!」
「え?」
ノータイムで言われていなければきっと避けられなかった。
後ろを振り向くともう1機。
円盤が飛ぶ。
「ぐっ…」
右肩を円盤が掠めた。
(関節を正確に狙ってきた…!?)
先程の待ち伏せといい、このタイプはただのロボットとは思えないほど動きが的確だ。
間髪容れずに円盤が飛ぶ。
「おわっ…!?」
咄嗟に右に跳んで避ける。
ロボットに目をやると再び抜け道に入って行った。
「っ…逃すか!」
抜け道に向かって硬化で作った鉱石を押し込む。
しかし、手応えの無さからして避けられたらしい。
「クソっ…罠だって分かってるけど…」
飛び込むしかない。
抜け道の硬化を解除する。
「〔雷神〕さんっ…!っ…まずいです!全滅…っ…」
無線越しに声が聞こえる。
円盤をいつまでも避けられるということはないだろう。
急がなければならない。
「おらあっ!」
悠馬が抜け道に向かって飛び込む。
抜け道から出た一瞬。
関節もしっかり硬化する。
円盤が悠馬の脚に弾かれ、明後日の方向へ飛んでいく。
出てくるときに円盤を合わせてくるのは予想していた。
あのロボットはそれくらいはやってくる。
(…は?これ…)
だから、驚かされたのは円盤が飛んできたことではない。
円盤が〔ホープ〕たちと真逆の方向から飛んできたことだ。
(もう1機…!)
いや、2機いるからといって、やることは変わらない。
両方とも上から鉱石で押し潰すだけだ。
触手を思い切り振り下ろす。
「…っ!?クソっ!」
2機とも横に移動して鉱石を避けた。
地面に向かって叩きつけられた鉱石を横目に片方のロボットが悠馬の顔に向かって迫る。
「げっ…」
勢いの乗った円盤が悠馬の顔に向かって射出される。
(やばっ…!)
咄嗟に顔を硬化して防いだ。
しかし、悪手だった。
円盤を防げたものの、触手を出す隙間を完全に失い、周りの状況が分からなくなった。
(っ…!?嵌められた!?)
解除すれば直ぐに円盤が来る。
(…それでも、ここでこのまま寝っ転がるよりは…!)
どうせ次解除したときにやられる可能性が高いのなら、味方が残っている内に解除する。
「うおりゃあっ…!」
ヤケクソで解除と同時に地面を勢いよく蹴る。
壁に向かって手を着き、次の動きに移る刹那。
円盤が悠馬の肩まで迫っていた。
そのときだった。
「っ!?」
別の円盤が3枚ほど横から割り込んできた。
その内の1枚が悠馬に迫っていた円盤を弾く。
(チャンス…!)
悠馬はロボットの方へぶっ飛んで、そのままロボットを遠くまで蹴っ飛ばした。
もう1機の方が円盤を射出してきたが、見えている。
全て避けて接近し、そのまま殴り飛ばした。
「ふう…危なかった…」
第一階層で全滅するところだった。
「手強かったですね…」
別にゲームではないので、階層が上がるごとに難易度も上がるということはないだろうが、最初からこの調子で大丈夫だろうか。
「うちの班員は…私に続いて2人も怪我人が増えてしまいました。」
〔ホープ〕が言う。
怪我人に目を向ける。
2人ともご丁寧に膝から下の切断。
もうまともに動けないだろう。
「…〔ケイン〕さん。〔フォンド〕さん。すみませんが、私たちを運んでくれませんか?」
「…分かりました。〔フォンド〕。〔カム〕を頼む。」
「了解。」
2人で3人を運ぶのは若干大変そうだが、何とかなると信じるしかない。
「〔コル〕さん。あとは頼みます。〔雷神〕さんの補助を」
「分かってますよ。私だって頑張ります。足を引っ張らない程度には」
(モチベーション低っ…)
〔コル〕は険しい眼をして答えた。
「〔コル〕さん…あなたを信じてますよ。」
そのまま〔ホープ〕たちは、〔ケイン〕と〔カム〕に抱えられてきた道を戻って行った。
〔コル〕はそのままずっと険しい眼をしていた。
「…じゃあ行きましょう。〔雷神〕さん。」
「…そうですね。」
一気に人員が減ってしまったが、悠馬たちが先まで進めば映像を持ち帰れる。
そう思って1時間ほど第一階層を進んだ。
「あー、警告ウ、警告ウ…」
「「…!?」」
突然無線から声がする。
おそらく人間の声ではない。
合成音声だ。
「ここで引き返しテ。じゃないと少なめに見積もって君たち10年くらいは孤独を味わう羽目になるかラ。別に僕らは君たちに敵意があるわけじゃなイ。」
「何だお前…!?」
警告してくるということは文明側のものであることは間違いない。
ただ、なぜそれが無線から流れているのだろうか。
「無線通信は映像、音声両方こっちで介入して乗っ取ったから使えないヨ。」
「「…!?」」
(そんなことできるのかよ…)
驚きを隠せない悠馬たちに向かって更に続ける。
「それに、君たちが期待してるのは亜人対策委員会の情報だよネ。」
「…っ!?何でそこまで…!」
「いや、鎌かけの可能性あるんですよ!反応しないでください!」
(っ!やらかした…)
そこまで頭が回っていなかった。
「安心してヨ。そんなことしてないカラ。ここは亜人対策委員会と全く関係ないから帰ってネ。」
「…それ言われて信用すると思うか?」
「それは分からないネ。ただ、ここを監視してる基地がリボルバーに破壊されたからと言って直ぐにここと結びつけるのは少し安直じゃなイ?作為は感じるだろうケド。」
確かに多少安直ではあるかもしれない。
ただ、それは悠馬たちが退く理由にならない。
「絶対に退かない。そもそも命狙ってきて敵意が無いは無理があるだろ。そんな嘘吐く奴のことなんか信用できるわけないだろ。」
「全部致命傷にはなってないはずダケド。」
確かに、海中での拘束ロボットといい、脚狙いの円盤ロボットといい、殺しにあまり向いていない設計になっている。
(殺すまではしない奴なのか…?いや)
「俺たちは死んでなくとも…この施設のせいで起きた海難事故で何人犠牲になったと思ってるんだ…!?」
「確認した範囲だと127人カナ。」
結局死んでいないのは結果論だ。
拘束ロボットの方はともかく、円盤の方は狙いが逸れたら致命傷になり得る。
「お前らは絶対捕まえてやる。覚悟してろ」
「…後悔すると思うヨ」
_「あー、〔雷神〕たち帰ってくれなかったか…」
確かに、手元がブレてDJシューターの円盤が首に向かって行ったら死ぬというのは、こちらも考えていたが。
「…まあ〔雷神〕の身柄なんて中々手に入るものじゃないし、いっか!交渉材料になるし。あ、そうすると最低で10年は嘘か。」
「…交渉する必要、あるか?」
「ん?」
友紀が口を開く。
「〔雷神〕がここで失踪すれば、あいつらはもうほぼ攻めて来れないだろ。ただでさえ深海の警備を掻い潜ってくるわけだし」
「んー…まあ、そうだけど。どうしよっか…まあ、じゃ、一旦保留にしよう!」
側から見れば、勝ちを確信したような口調ではあるが、恐怖がないわけではない。
隠しきれていないことは分かっている。
みんなが支えてくれて尚、やはり怖い。
それでも、この生活を守りたいから。
「〔雷神〕たちの捕縛作戦。開始するよ!」
次回で1章が終わりになります。
それ以降は展開が変わらない程度に0章1章の改稿の期間を挟もうと思います。
2章までは一年程空くと思っています。




