第6話 諸行無常の響きあり
家のリビングで胡座をかいている。
弟も隣に座っている。
テーブルを挟んで、テレビがある。
そこで流れている映像は今プレイしているゲーム。
もう少しでボス戦というところだ。
ボス部屋の前で後ろを振り向くと、顔も見たくないような同級生。
一撃で頭を潰される弟。
笑っている奴らに向かって殴りかかる悠馬。
反撃を喰らってそのまま腹に…
「ぐほえっ…」
「起き申せ」
腹に足が置かれている。
「…は?」
どうやら爆破のせいで一瞬意識が飛んでいたらしい。
「努。もうちょい優しく起こしたら?」
青年が言う。
悠馬が頭を抑えつつ体を起こす。
「痛ってえ…何が起こって…」
「ふはははは!あれを生き延びるか!何が起こるか分からないもんだな!」
遠くから聞こえる無駄に大きい声。
「…は?」
気づけば、更地となったこの場所に男が1人立っている。
見た目的に硬化で作ったものであろうヘルメットを身につけて、全身を武装している。
硬化で作る鉱石は黒色で不透明なのだが、果たして前は見えているのだろうか。
「〔雷神〕さん。彼は先ほどの爆破と、格好からして亜人対策委員会の震災型災害級、ボマーで間違いないです。」
「…ボマー?何ですかそれ」
悠馬は部長に尋ねる。
「ああ!あれか!まず名乗らなきゃいけねえよな!俺は〔顎〕!よろしくなあ!」
「…本人、アギトって名乗ってますよ。」
「無視してください。彼は過去に2回事件起こして、名乗っていますが、その際、両方とも名前が変わってます。今回のアギトも過去の名前と一致してません。」
「……」
頭のおかしい狂人として見ていいのだろうか。
そもそも敵対者に意気揚々と名乗っている時点でどうかしているし、過去2回の事件でもこのような感じだったら本気でおかしい。
「爆破は好きか?俺は好きだ!周りの景色が一斉に変わる!爽快だ!」
(1人でよくあんな喋れんな…)
「いざ参る…!」
「え?」
竹田努が大きな声で宣言し、ボマーの方にぶっ飛ぶ。
一瞬でボマーに接近し、木刀の間合いに入れた。
(あ…死んだなあいつ…)
竹田努の木刀をあそこから避けられるわけがない。
そう思った瞬間だった。
閃光が拡散する。
風が吹き荒れ、地面を抉る。
「うおお…!?」
砂埃で目の前が見えない。
踏ん張っていないと吹き飛ばされそうになる。
薄く目を開くと、爆心地から吹っ飛んでくる人間の影。
「…っ!クソ侍!」
「…けほっ…」
地面に転がる竹田努を見て、悠馬は声を上げた。
和装は焼けこげ、上半身が露出。
その上、木刀がへし折れている。
「努!」
青年と藤原琴音の妹が近づいてくる。
「…ふっ、ん!」
竹田努はそれを見るなり跳ね起きた。
「我、無事にてござる。何ら差し障りもこれなく、案ずるには及ばぬ。」
「ああ、硬化間に合ったのか…よかったあ…」
硬化が間に合ったとは言っても、あの爆心地にいて死んでいないどころか、大したダメージも見えないのは化け物としか思えない。
(ギャグ漫画の住人かよ…)
「ふははは!大したダメージないってマジか!俺より丈夫なやつなんて探せば案外いるもんだな!おもしれえ!」
砂埃が止んできて、ボマーの姿が見える。
「はっ…?」
ヘルメットが割れて中の顔が露出し始めている。
よく考えれば当然だ。
ボマーは爆心地にいるのだから、自分の爆破を喰らう。
それの対策で、わざわざ視界を遮ることになるとしても、ヘルメットをつけていたのだろう。
「〔雷神〕さん。ボマーを…」
「言われなくても分かってます。」
悠馬は竹田努の眼を見据える。
「おいクソ侍」
「…何用」
「あのバカは俺が引き受ける。さっさとリボルバーボコボコにして来い。」
「…!心得た」
「美夏ちゃん。僕たちは行くからこの人が時間稼いでる間に逃げてね」
「…うん。無茶しないでね」
竹田努が青年の襟首を掴んで空に向かってぶっ飛ぶ。
藤原美夏は指示通り、不実体対策委員会が最初待たされていた場所へと駆け出した。
(さて…)
おそらくあんな戦法長くは続かない。
大規模爆破だって魂由来のものであれば限界はある。
その上、仮に爆破の源がほとんど無尽蔵でも、それを防ぐための硬化には限界がある。
爆破さえ避けられれば、ボマーの相手を誰がしようが同じなのだ。
(…で、問題はどうやって爆破を避けるかだけど…)
先程は初撃より小規模だったので、近くの竹田努以外には当たらなかった。
しかし、爆破の最大射程がどの程度あるのかすら分からない。
その上、爆破を使わせて向こうの粘液切れを狙う必要があるため距離を離し過ぎるのも好ましくない。
(こっちはとっくにあの爆破防げるような硬化使えないし…相手にしてて厄介すぎるな…)
「おお!逃げてったな!まあ〔嶺〕たちが仕留めるか!ははっ!逃げられてもそれはそれでいいし、俺はお前らを爆破するぞ!」
頭がおかしいとしか思えない。
なぜこんな思考で特定の組織に属していられるのか不思議でならない。
そう思っているとすぐに戦いの火蓋が切られる。
(…来た!)
閃光と爆風。
悠馬は腕を顔の前でクロスし、後ろに思い切り飛んで、衝撃を逃がそうとする。
「…っ!?どわああっ!」
爆破の衝撃が全身を襲う。
範囲が初撃の比じゃない。
何重にも重なった衝撃が悠馬を遥か遠くまでぶっ飛ばす。
(受身受身受身!)
咄嗟に肘から手先までを先に接地させてゴロゴロと地面を転がった後、受身を取る。
(痛っ…)
腕に耐え難い痛みが走るが、衝撃は取り敢えず逃がせた。
(あっぶな…〔スズメ〕さんに感謝だな…)
受身を教えてもらっていて助かった。
〔スズメ〕は柔道技を使うことがあったため、怪我をしないように教えてくれていたのだ。
(にしても…何か対策は…っ!)
爆破を直接受けた両腕は上腕が折れている。
これでよく受身なんて取れたものだ。
もしくは受身がトドメになったのかもしれないが。
「〔雷神〕さん。落ち着いてください。地面を使って真っ直ぐに、その上で硬化で固定です。」
「っ!わかりました!」
悠馬は慎重に体を倒して、指示通り上腕を硬化で真っ直ぐに維持する。
(この程度の体積ならまだいけるか…足りてよかった…)
指先を動かそうとするたびに痛みが来る。
その上、感覚も鈍い。
(次も同じ防ぎ方はできないな…)
耐えられたとしても硬化での応急処置はもう不可能だ。
悠馬が跳ね起きると、もう見える位置にまでボマーが迫ってきていた。
ヘルメットは完全に割れ、痣だらけの顔と坊主頭が露出している。
(どうする?すぐに来る次をどうやって凌げば…)
「〔雷神〕さん!……を……してください!」
「はあ!?」
〔スカイ〕が指示を出す。
(そんな方法で爆破を凌げるか!?)
だが今は試すしかない。
迫る熱と閃光。
立ち昇る炎の柱が天を裂いた。




